EP181:伊予の事件簿「疆界の三稜鏡(きょうかいのさんりょうきょう)」 その3
影男さんが顎に手を添え少し考えこみ
「おそらく、あそこだと思います。でもどっちだろう?」
どこ?何?
ハッキリ言ってよぉ~~~!
イライラしたけどジッとまつ。
「皆が欲しがる役に立つもの、狙う連中がいるもの・・・・。何だろう。」
しばらく大人しく待ってるけど、考え込んだままなので終にしびれを切らし
「もぅっっ!場所が分かるならとりあえず行ってみましょっ!狙う連中に先を越されるかもしれないしっ!」
さっそく水干、括り袴でみづらを結った少年侍従姿に着替え出かけることにした。
少し距離があるというので、馬を取ってくるという影男さんと朱雀門で待ち合わせした。
忠平様から兄さまに贈り物って何かしら?
でも私に謎を解かせる必要ってある?
直接兄弟でやり取りすればいいのに。
何かしら?役に立つものなら皆欲しいわよねぇ。
高値で売れるもの?
う~~~~んと考えても全然思い浮かばない。
ふと足元を見ると蟻が列をなしていて、紋白蝶の羽根が蟻たちに運ばれていた。
自分の一部を次世代に託し、肉を他の生き物へ、糧として与える。
ひっそりと終わったひとつの輪廻。
紋白蝶の恋人たちは来世での再会を願ったの?
馬に乗った影男さんが現れ、手を引っ張ってもらい鞍に座った。
背中に体温を感じ、兄さまのことを思い出して一人で顔を赤らめた。
朱雀門の前から始まる朱雀大路を南下する。
脇腹あたりを馬の手綱をもった腕が触れそうで触れない距離で動く。
袖からのぞく腕の筋がくっきりとして盛り上がっている。
その筋肉に男性を感じた。
ゴツゴツした指の関節や厚みのある掌が兄さまの細い長い指や薄い掌とは違うけど、武骨な逞しさに安心感を覚えた。
筋肉質で骨もゴツゴツしている体躯とは不似合いな、繊細な輪郭の細長い顔。
尖った鼻と尖った顎に吊り上がった目、その中にある黒目が小さい三白眼が人を寄せ付けない雰囲気をまとわせている。
いつも不機嫌そうだけど、愛想笑いもしないのでこっちも気を遣わずにすむ。
黙って何時間も一緒にいられるタイプの人。
兄さまもそうだけど私って八方美人タイプの人より寡黙な方が好きなのかも。
振り向いてマジマジと影男さんの横顔を眺めた。
居心地悪そうに黒目だけでチラチラと見返し
「何ですか?何か用ですか?」
ペコっと頭を下げ
「いつもありがとう!頼りにしてますっ!」
つまらなそうな口調で
「はいはい。お世話してます。」
ウンザリと呟いた。
やっと着いたと思ったそこは七条大路と大宮大路の交差点付近にある
『東市』
だった。
(その4へつづく)




