EP174:伊予の事件簿「鎮魂の花祭(たましずめのはなまつり)」 その5
次の日、乗り気じゃない影男さんをせっついて無理やり馬を出させた。
結局、xxx寺へ二人で出かけることにした。
水干、括り袴でみづらを結った少年侍従風で。
ご飯をおにぎりにしてお腹がすいても大丈夫なように持っていく。
数台の牛車でゆっくりと進む大納言御一行よりは馬に乗ったり歩いたりした私たちの方が先にxxx寺へ着いた。
お参りだけ済ましてすぐに境内近くの木陰に身を隠して兄さまたちが来るのを待つ。
影男さんが
「ここへ来るなら大納言と一緒に来ればいいじゃないですか?なぜ私をつき合わせるんですか?」
不機嫌な三白眼の黒目をもっと小さくし、ほとんど傀儡のような無表情になった。
「影男さんと二人で出かけると啖呵を切ったのよ!いいでしょっ!私のお守りが役目でしょっ!」
木陰から本堂の様子をうかがってると、山門をくぐって華やかな一行が到着した。
壺装束の華美な衣をまとった女性陣と、水干姿の下人たち、華麗な狩衣姿の立ち姿の美しい公達がいる。
下げみづらを結った童装束の若君と振り分け髪の壺装束の姫君が見えた。
山門まで少し山道を登る必要があるこの寺へは、下で牛車を降り歩いてきたらしい。
まだ六つぐらいの姫君はぐずって女性に抱っこをせがんでいるけど九つぐらいの若君はどこかへ元気いっぱい駆けだした。
可愛らしい子供たちに思わず頬を緩め目を細めて眺めていると
「うらやましいですか?それともくやしい?」
口の端だけで笑いながら、からかうように言うので
「べ、別にっ!どこかでおにぎりをたべましょっ!」
盗み見をやめようとした。
「あっ!大納言がっ!」
振り返ると兄さまが抱き上げた若君がキャッと歓声を上げた。
「絵にかいたような仲のいい家族ですねぇ。」
しみじみと影男さんが呟く。
「もう行きましょ。」
影男さんの袖を引っ張る。
思ったより低い自分の声に驚いた。
「言い過ぎました。気にしないでください。」
呟く影男さんに、『うん』と頷いた。
どこか開けた場所で山の斜面に咲いているらしい山桜を見ながらおにぎりを食べようと提案し歩き出した。
けものみちのように僅かに草が踏みしだかれた部分を足元に注意しながら歩き、木が切り倒され切り株が残る開けた場所にたどり着いた。
切り株に座っておにぎりを食べ
「山桜が見える場所ってどこかしら?」
「xxx寺の境内奥の崖から見えるらしいですが。」
「ふうん。」
もう一度兄さまたちを見たくもなかったので
「おにぎりを食べ終わったら帰りましょ」
食べ終わり、切り株から立ち上がってう~~ん!!と伸びをし、影男さんを何気なく見てた。
影男さんが立ち上がり私の足元を見る。
三白眼の黒目が大きくなり眉間にしわがより真剣な顔になった。
小さく鋭い声で
「動くなっ!蛇だっ!マムシかもしれないっ!」
ひえっっっ!!
素足に草鞋だしっ!
咬まれたら大変っ!
パニくって思わずピョンピョンと片足ずつ足を上げ踏み鳴らしてしまった。
「だからっ動くなっ!!!」
苛立った大声と同時に私を横抱きに抱き上げ切り株の上に飛び乗った。
(その6へつづく)