EP173:伊予の事件簿「鎮魂の花祭(たましずめのはなまつり)」 その4
無意識に尖った口調になり
「じゃあ、今は私を『弄んでいる』からそれをやめれば発作は治ると廉子様は考えてらっしゃるのね?
私と付き合うのを兄さまが心の奥底では後悔してて自分で自分を苦しめてると言いたいのね?」
・・・・ふ~~~~ん。
ただの嫉妬でしょ?
と言いたかったけど、もし本当に私と別れれば、兄さまの発作がおさまるなら・・・別れる?
自問してみる。
やっぱり
別れる・・・よね。それなら。
兄さまが健康でいてくれる方が嬉しい。
もし本当なら別れてもいい。
思いながらも気分が落ち込んだ。
竹丸がヨイショッと立ち上がり
「じゃあ、姫は同行しないと若殿に伝えますねっ!お土産なにか買ってきますよ~~!」
すっかり浮かれながら帰っていった。
その日の夜、堀川邸で旅行の準備で忙しいだろうから、大納言邸には戻らないと思っていたのに、兄さまがやってきて
「浄見っ!どーゆーつもりだっ!」
イラついた様子で声を荒げた。
こっちもムカついたので
「大納言様の家族団らんを邪魔するわけないでしょっ!奥様や子供たちと仲良くしてるところを私に見せつけたいのっ?
バカじゃないのっ?行きたいわけないじゃないっ!」
兄さまは眉をひそめ困惑し
「竹丸が何か言ったのか?病の原因が女遊びだと廉子が考えてるとか?」
図星だったけど
「違うわっ!じゃあ私は何?妻でもないしっ!せいぜいお気に入りの侍女でしょっ!
そんなの子供たちの前で紹介できる?兄さまこそおかしいわ!
私が平気だと思ってるの?廉子様が平気だと思ってるの?」
兄さまが泣きそうな、悲しい顔をしたので言い過ぎたと後悔したけど今更取り消すわけにもいかず
『フン!』と横を向く。
声を落として呟くようにボソボソと
「・・・・いつか、今度、二人きりでどこかに出かけよう。誰にも邪魔されないところへ」
苛立ちを抑えきれず
「ムリしなくていいわっ!そんな暇ないでしょ?今回だって帝の口添えがあったから行くことになったんでしょ?
私のためになんて時間を割かなくていいわっ!」
うつむき悔しそうに唇をかみしめながら
「浄見を妻にしたら、そこにしか帰らないつもりだ。
だから今はできるだけ家族と穏便に過ごしたいんだ。
廉子にも年子にもできるだけ許してもらいたいんだ。この後一生分のわがままを。」
その言葉に胸をつかれて泣きそうになった。
一生そばにいてくれるつもりだ!って。
でも、その言葉全てを
信じるわけにはいかなかった。
同じ言葉を
彼女たちも聞いてきたかもしれない。
気持ちが硬く冷たくなった。
「いいの。そんなことしてくれなくても。
明日は、そう!影男さんと出かけるから、兄さまはご家族と楽しんでね!
私も影男さんと二人で楽しむから。
これでおあいこでしょ?」
無理やり口の端を上げて笑顔を作った。
兄さまは項垂れたあと、ゆっくり背を向けて
「あぁ。そうだな。じゃあ・・・支度があるから帰る。」
足早に遠ざかる背中が
涙で滲んで見えなくなった。
(その5へつづく)