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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
170/505

EP170:伊予の事件簿「鎮魂の花祭(たましずめのはなまつり)」 その1

【あらすじ:時平様の原因不明の体調不良は陰陽師によると疫病神が取り付いてて、ご正室の北の方のお見立てでは不倫の罪悪感による自責のせい。御祈祷に出かけたお寺で、仲睦まじい家族の団らんを見た私は、正直、張り合う気力も失せてしまった。醜い嫉妬や報われない執着心、拭えない劣等感が人を狂わせるこの季節に、儀式が鎮める対象は疫病だけでは物足りない。私は今日も『わがまま』の意味を考える!】

今は、899年、時の帝は醍醐天皇。

私・浄見と『兄さま』こと藤原時平様との関係はというと、詳しく話せば長くなるけど、時平様は私にとって幼いころから面倒を見てもらってる優しい兄さまであり、初恋の人。

私が十六歳になった今の二人の関係は、いい感じだけど完全に恋人関係とは言えない。

何せ兄さまの色好みが甚だしいことは宮中でも有名なので、告白されたぐらいでは本気度は疑わしい。

 (ひら)いた桜の花が全ての枝を満たし、盛りを極め、わずかな恍惚を味わった後、遅れまいと一斉に散り急ぐ。

冷酷な雨がその非情な指先で花たちを死へと(いざな)()き立てる。

『しづごころ』ない桜のせいで、得体のしれない焦燥にかられた。


宮中にある雷鳴壺で女房の仕事を終えた夜、自分の(へや)で過ごしていると、取次の同僚が大納言である兄さまの訪れを知らせてくれた。


限りなく黒に近い紫色の直衣(のうし)を身につけ、背筋のスッと伸びた、たおやかな公達(きんだち)が几帳をよけて入ってくる。


優雅な身のこなしに見とれていると

「三日後に、xxx寺へ参詣がてら山桜を見に行くのだけど、浄見も一緒にどう?」

身体の芯に響くような硬くて低い声で兄さまが言った。


山桜?って山の斜面が一面に白桃色になるやつ?

見たいっ!!

ワクワクして

「もちろんっ!行きたいわっ!さっそく明日、(もみじ)更衣にお許しをいただくわね!」


兄さまは少し顔を曇らせ

「ええと・・・、少し遠いからxxx寺で一泊させてもらおうと思う。・・・そして、」

歯切れが悪く、モゴモゴ言う。


何?何か不都合があるの?

(いぶか)しんでいると


「実は、廉子(やすこ)保忠(やすただ)褒子(よしこ)も一緒に行くんだ!侍女や下人たちもといった大所帯になるんだけど、それでもよかったら・・・・」

(せき)を切ったように早口でまくし立てた。


えっ?廉子(やすこ)様ってご正室の?その若君と姫君も一緒に?

ってことは大納言のご家族御一行?

と一緒に・・・・私が行くの?

何の身分で?何の権利で?一緒に行けると思ってるのっ!


『はぁ?』

一瞬、カチンときた後、

『はぁ~~~~っ』

ため息をつき、

『ふ~~~ん。あぁそ~~~~っ!ですかぁ・・・!』

ムッとしてプンっと頬を膨らませ横を向いた。


『ふんっ!!』

怒り心頭だったけど、でも・・・・と思い直して

「じゃぁ私は年子様に仕えてる侍女という身分で、一緒に行って大納言様の『お世話』をすればいいの?」

チラリと横目で見ながら意地悪く言う。


兄さまは汗をかきつつも

「ああ、浄見がそれでよければ、一緒に行こう!廉子(やすこ)にもちゃんと紹介したいしね。もうすぐ妻になるんだし。」


ん?意外な返事。

「でも、廉子(やすこ)様がおイヤでしょ?」


兄さまは険しい表情をうかべ、顔色が悪くなったかと思うと

「それでも、・・・・覚悟を決めてもらわないと困る。」


血の気が引いた蒼白な顔で(ひたい)に冷や汗を浮かべている。


次の瞬間、吐き気を催したように口元を抑えながら、

胡坐(あぐら)をかいたまま、前のめりに倒れ込んだ。

(その2へつづく)

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