EP165:伊予の事件簿「吉備津彦の桃(きびつひこのもも)」 その4
兄さまが備後国に出発し、ソワソワ落ち着かなくなったので、気を落ち着かせるため何かしなくちゃ!とお礼の品を作ることにした。
忠平様に手巾に刺繍して贈ると言ったし、ついでに影男さんには巾着を作ることにした。
兄さまにはちゃんとした衣を贈りたいな!
でも公衆の面前で下手くそな出来の衣を身に着けたりすれば周りの人に笑われてしまうっっ!
う~~~ん、それは避けたい。
裁縫の腕が上がってからにするかぁ~~~?
いやっ!でもそうすると、いつになるかわからないし・・・・。
さんざん悩んで結論は
小袖を縫う!!に決定。
だって下着なら見られても女友達か北の方達でしょ?
下手くそだって思われても逆に『こんな小娘に時平様を盗られたっっ!』って歯ぎしりしそう!
それはそれで何かマウントとれたっぽくて気持ちイイっ!!
刺繍も入れれば独特でいい感じっっ!
さっそく裁縫の上手な茶々に縫い方と刺繍の仕方を教えてもらいに桐壺に出かけた。
茶々は面長でほっそりした顔に、少し長くて丸い鼻の美人女房。
事の次第を伝え、お願いすると、大きい口をザックリ開けてサバサバ笑いながら
「・・・ハイハイ、じゃあ、何の模様を刺繍する?」
唇に指をあて考えてたことを思い出す。
「えぇっとねぇ、忠平様が藤の花、影男さんが山桜、で、大納言様が桃、かな?」
扁桃形の目をパチクリさせ不思議そうな顔をして
「藤って藤原氏の家紋でしょ?じゃあ嫡子の時平様が藤じゃないの?」
素直に
「私の中では、桃って唐の国でもわが国でも厄払いとか桃源郷のイメージで最強の『天下無敵』な花のイメージだし、果実もメチャクチャおいしい完璧な果樹でしょ?誰でも夢中になるし!」
茶々が含み笑いをして横目で見てくる。
「あ~~~ぁ、それでぇ~~~?この頃、伊予って色っぽくなったというか艶めいたというか、前より大人っぽくなったわよねぇ。そーゆーことぉ?ふぅ~~~ん。仲良くしてるのね~~~。」
『仲良く』って変な言い方をするので、また頭の中で恥ずかしい妄想が広がり一人で顔を赤らめた。
茶々が急に真面目な顔で声をひそめ
「で、一体何をすればそんなに色気がでるの?」
真っ赤な顔で
「えぇ?・・・まぁ・・・あんなこと・・・やこんなこと・・・」
モゴモゴ答える。
茶々が苛立ったように
「具体的に何っ?!」
んっ?
もしかして・・・
「あのぉ、変な事聞くけど、茶々って男の人と付き合ったことある?」
不意を突かれギクッとした顔で
「今それ関係あるっ?!無いからってマウントとるつもりっ!色気がでると彼氏ができるんでしょ?じゃあまず色気がでるようにすべきじゃない?知ってるなら教えなさいよっ!」
逆ギレされる。
私も有馬さんに『房事のテクニック』の教えを乞うたことがあったなぁ・・・。
あの時は確か兄さまとの行為を私に見せようとしてたよね?
今考えると見ようとしてた私たち(椛更衣もいた)も、見せようとしてた有馬さんもちょっとおかしい。
見られるなんて考えただけでもゾッとするほど恥ずかしいっっ!
う~~ん例えば・・・と考え
そのときの息遣いや声、指で触られたときの感覚を思い出し
身体が熱を持った。
そんなことを茶々に説明できるワケがないので
「まぁゆっくり頑張りたまえよっ!茶々君っ!」
肩をポンポンと叩き、上司コントでごまかし乗り切った。
(その5へつづく)