EP158:伊予の事件簿「不承の富貴栄華(ふしょうのふうきえいが)」 その6
「萄子更衣に会わせないなら犯行について何も話さない!」
と言う蒲子を後ろ手に縛ったまま宣耀殿へ向かった。
つくと御簾越しに
「雷鳴壺の伊予と申します。萄子更衣に面会を願い出ている者がいるのですが。蒲子という女儒です。」
取次の女房に話しかけた。
御簾の中から
「伊予か?私が出ていく」
少し焦ったような硬くて低い声が聞こえた。
『何日間ここにいるのよっ!?中で何してるのっ?本当に萄子更衣は恋人なのっ?』
瞬間的に頭に血がのぼる。
怒りで叫びだしそうだったけどグッとこらえて
「はい。」
答えてじっと待ってる。
御簾の端が少し持ち上がり中から濃紫の直衣姿で背筋がピンとして滑らかに素早い身のこなしの公達が香しい薫物の匂いを漂わせてでてきた。
細面に精悍な顎、筆で引いたような切れ長な目と眉・・・には疲れがにじみ出ていた。
直衣の下の着やせする胸板や逞しい腕、筋肉の浮きでたお腹を思い浮かべて顔が赤くなりそうだったけど久しぶりに見かけた姿はやっぱりウットリするほど素敵だった。
・・・・ハァ~~~。
女房達の憧れの的だしなぁ。
浮気されててもあきらめないとダメ?
とちょっと凹む。
後ろから蒲子のドスの利いた声で
「おぉ!大納言どの!二人だけで話がしたい。それとも他人がいてもいいのか?都合が悪いのはそっちだろう?」
と凄む。
兄さまが蒲子をチラッと見て何かに気づいたあと影男さんに向かって
「どういう事だ?何があって蒲子を捕まえた?」
私が口をはさみ
「椛更衣から下賜された小袖や、桐壺更衣の小袖を盗んだ犯人なの!萄子更衣と話がしたいというので連れてきたの!」
兄さまが私の目を初めてちゃんと見て少し動揺したように瞬きしたあと
「ああそうか。では私が預かるとしよう。ご苦労だった戻ってくれ。」
蒲子の手首の紐をほどこうとする。
ビックリして
「何?大納言様は蒲子が女装して内裏に潜伏してたのを知ってたの?なぜ黙ってたの?泥棒よ!なぜ検非違使に突き出さないのっ!?」
焦って袖にしがみつこうかと思ったけど人目があるしとグッと我慢した。
影男さんが
「そうです。蒲子の目的を大納言様はご存じなんですか?無罪放免していいんですか?」
兄さまが苦々しそうに眉をひそめ
「今はな。・・・・他にどうしようもないんだ。」
その時、庭に大舎人が現れ兄さまに黙って頷くと兄さまは廊下にしゃがみこみ耳を貸した。
大舎人がヒソヒソと何かを耳打ちすると兄さまはスクッと立ち上がり
「蒲子を捕らえて検非違使庁へ引っ立てろっ!窃盗と女装して内裏へ侵入した罪で厳しく取り調べろっ!」
その大舎人に命じた。
はぁ?なぜ豹変っっ?!
とますます五里霧中。
(その7へつづく)