EP157:伊予の事件簿「不承の富貴栄華(ふしょうのふうきえいが)」 その5
どうしようっ!
影男さんが女性を襲ってるっ?
そんな人だったのっっ!!?
ショックを受けて青ざめ、すぐにはどうすればいいかわからずオロオロしてると影男さんが
「早く!押さえつけるのを手伝ってくださいっ!手を放せば逃げ出します!」
私に叫ぶので反射的に駆け寄って女儒の手首をつかもうとした。
手首をつかもうとした私の手を凄い力で跳ね飛ばし影男さんの手も引きちぎろうと暴れるので
『か弱い女性なのにどこからこんな力が出るの!?』
驚き半分、感心半分だった。
「しっかり押さえてっ!」
影男さんが怒鳴るので頑張って力を込めて手首をつかみ、何とか影男さんが紐で手首を縛ることができた。
落ち着いてその女儒の顔を見ると乱れた束ね髪から落ちた後れ毛が顔を隠していた。
女儒が顔を揺すって払いのけ毅然と顎を上げて前を向くと宮中でもめったに見ないほどの美人だった。
筋の通った高い鼻に骨ばった頬、彫りの深い目元にくっきりとした二重瞼の目。
紅く引いた紅が白粉の顔に映えて一目見れば忘れられないぐらいの美形だった。
・・・まぁ
・・・・これだけの美女なら
・・仕方ないかぁ~~と思い
「昼間から宮中で彼女をどうにかしようとしてたの?影男さんもけっこー大胆ね。でも無理強いはダメよっ!」
影男さんに囁くと背筋が凍りそうな冷たい視線で睨み付け
「喉をよく見てください!」
というので女性にしてはややがっしりして筋の浮いた頸を見てみると、
「んっ?喉ぼとけがある?ってことは・・・・男?」
影男さんがゆっくり頷くと
「衣を手にして雷鳴壺から出てくるところを見かけて捕まえてみたら蒲子でした。同じ掃部寮で働いていたのに隙をつかれて盗みに入られるとは失態です。こんなことなら泳がさずさっさと検非違使に突き出していればよかった。」
というので
「えぇ~~っ?気づいてたの?それなのに男が女装して後宮に入り込んでたのを黙ってみてたの?!危なすぎるでしょっ!」
ツバを飛ばして非難した。
でも
「私が頂いた椛更衣の小袖と桐壺更衣の小袖を盗んだのも蒲子なの?なぜ?」
疑問を口に出すと影男さんが驚いた顔で私を見た。
三白眼の瞳孔が大きくなってて
「あなたの小袖を?盗んだんですか?他にも何か盗まれていませんか?」
「いいえ。私の持ち物は別に欲しくなかったんじゃない?」
肩をすくめて見つめると、影男さんは元の無表情に戻り
「よかった」
ホッとため息をついた。
『焦った表情のときだけ傀儡に魂が宿ったように見えるのよね。
顔もわりと整ってるし微笑んでくれればもっと安心できるんだけど。』
心の中で残念がった。
足元から低い声で
「おいっ!こらっオレの話を聞けっ!」
見ると
「お前らっ!お前ら下っ端使用人じゃなく萄子更衣と話をさせろっ!」
後ろ手に縛られた美女の口からドスの利いた低い声が出てくる。
不思議で仕方なくって返事も忘れて見入ってしまった。
・・・・けど何?萄子更衣と話をしてどーしよーってゆーのっ!?
(その6へつづく)