EP156:伊予の事件簿「不承の富貴栄華(ふしょうのふうきえいが)」 その4
ついでに
「忠平様、使用済みの小袖って使い道ある?」
小袖盗難の手掛かりを尋ねると、忠平様は
「伊予の小袖?くれるなら使い道を教えてやる」
ニヤケながら言うので
「じゃああげるから教えて?何に使うの?」
真面目な声で言うと、急に顔を真っ赤にした。
・・・・フフン勝った。
「冗談じゃなくて、椛更衣と桐壺更衣の使用済み小袖が盗まれたの。付加価値がついて高値で取引されるとかってある?それとも別の使い道がある?」
忠平様は腕を組んで真剣に考えこみ
「聞いたことないなぁ。闇で取引されてるのか?匂いを覚えさせて犬に襲わせるとか?犯人はわかったのか?後宮に出入りできるなら女房か女官だろ?自分だけなら銭に困ることはないだろうし、あくどい男に騙されるか脅され仕方なく盗みをはたらいた可能性もあるな。いずれにしろ検非違使に報告すれば・・・いや後宮のことは尚侍司か?私が検非違使には伝えておくが、後宮の軽微な犯罪には関わらないだろうから、内侍司に相談してみろ。」
的確な忠告にまた
「ありがとうございます!じゃあそうします!」
頭を下げた。
その日の夜は大納言邸で過ごした。
兄さまがくるのを自室で待ちわびてなかったと言えば嘘になる。
時々遣戸を開けて外を眺めながら夜じゅうソワソワしてるうちに空が白んだのでぐっすり眠れた気がしない。
文で里帰りを知らせてたのに・・・・
雨でぬかるんだ泥が凍った庭を見ながら一人でプッと頬を膨らませた。
内裏に戻り小袖盗難事件の捜査でもしようかなと宮中の女官を中心に聞き込みを開始した。
茶々に湯浴みのときの女儒の名前を聞いても知らないというので容姿を聞くと
「ええと、とにかく美人な二十歳ぐらいの子が一人、あとの二人の特徴は・・・ふくよかな頬で鼻が隠れてる子と出っ歯の子かなぁ。その二人は十五六に見えたわ。」
女儒は掃司の所属だと思うので内裏の北西にある掃部寮を訪れた。
官人にその三人の容姿を告げて身元を尋ねると
「美人は蒲子というxxという貴族の娘で、ふくよかな頬の子は桃実、出っ歯は栗鼠だね。三人とも今は仕事中だから手が空いたら雷鳴壺に行かせるよ」
と約束してくれた。
あれ?掃部寮なら影男さんの知り合いの可能性もあるなぁと思いながら雷鳴壺に戻る途中、使われてない梅壺へ差し掛かった。
梅壺の渡殿まで来ると殿舎の中に、灰色の衣の男が嫌がって腕を振りほどこうとする女儒の腕をつかんで衝立の陰に引っ張りこもうとしているのが見えた。
こんな真昼間から不埒な事?
ちょっとワクワクしかけたけど女性の暴れる様子を見て自分の経験を思い出し
女儒は嫌がってるかも?!助けなきゃ!
焦って声を出そうとする前に衝立から暴れる女性の両腕を掴んで抑えている男の顔が見え
「影男さんっ?」
声を出すとチラッとこちらを向き目が合った。
(その5へつづく)