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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
154/505

EP154:伊予の事件簿「不承の富貴栄華(ふしょうのふうきえいが)」 その2

カッとする前に冷静になって考えてみると、帝にお仕えする日まで(きさき)の母君が内裏に宿直(とのい)することはありうる。

何なら男親もそうしてもおかしくない。


でも大納言(兄さま)は『名目上』の父親でしょ?血のつながりがあっても薄~~いじゃない?

何してたの一晩中?

とイラつきがおさまらない。


イヤイヤ落ち着いて私!

一晩そばで萄子更衣(どうここうい)に仕えてたからといって別に何でもないし!

茶々(ちゃちゃ)からの文を握りしめワナワナと震えながら考えてた。

結局兄さまの口から聞かないと何も始まらないのでとりあえず


『どうして萄子更衣(どうここうい)後見人(父親代わり)になったの? 伊予(いよ)


と書いた文を雷鳴壺の庭で仕事してた大舎人(おおとねり)影男(かげお)さん

(実はこの人は私の身辺警護(ボディガード)なんだけどね)

に届けてもらうように頼んだ。


政務が終わったなら堀河邸か、宿直(とのい)なら直廬(じきろ)(皇親・摂関・大臣・大納言などが宿直(とのい)・休憩を行うために宮廷内に設置された部屋)にいるはず。


影男(かげお)さんはいつもの

『世の中に面白いことは一つもない』

ような三白眼でジロッと私を見て


萄子更衣(どうここうい)と大納言が親しいという噂はどうやら本当らしいですね。」

文を受け取りながら何気なく呟く。


ので私はつい口をとがらせ

「ほ、本人の口からちゃんと説明を聞くから噂レベルで何も言わないでっ!」

って言ったのに


影男(かげお)さんは目を逸らしながら

入内(じゅだい)行列の牛車から付き添いの女房や雑色の選定、花嫁衣裳や嫁入り道具まですべて自腹で世話したそうですね。」

ボソボソ言う。


『もしかして(あお)ってる?』

ムッとして影男(かげお)さんにこちらを向かせようと水干の肩のあたりを引っ張り


「兄さまが萄子更衣(どうここうい)に夢中になってるとか言いたいワケ?」

問い詰めると、

衣を引っ張ってる私の手をサッと払いのけ

「文を届けてきます」

不機嫌そうに立ち去った。


その日の夜、荷物の整理をしていると、数日前、(もみじ)更衣から下賜(かし)された小袖(こそで)(下着)がなくなってるのに気づいた。


小袖(こそで)は身分の高い女性は汚れると下々の者に下賜(かし)しそれを下々の者は洗濯して着用したり、洗濯したあと糸をほどいて仕立て直したりする。


身分の高い方は縫いたての新しい小袖(こそで)を着用する。

『使い捨て』ってやつね。


その(もみじ)更衣の小袖(こそで)はきちんとたたんで葛籠(つづら)に入れてたはずなのにどこへやったのかしら?


考えてると取次番の女房が

「伊予、影男(かげお)さんが呼んでるわよ!」


「はぁい!」

廊下に出ていくと、とっぷり日が暮れ半月が南の空高くに見えた。


影男(かげお)さんが不機嫌そうに腕を組んで待っていた。

(はかま)着籠(きこ)めた水干は洗い(ざら)した柔らかさで影男(かげお)さんの筋肉質の体の線を浮き立たせ、袖からのぞく組んだ腕のくっきりとした(すじ)を見ると一分(いちぶ)(すき)のない頼もしさを感じた。


「兄さまからの返事をもらってきてくれた?」

ソワソワと聞くと無表情な三白眼でジッと見つめられ


「大納言がどこにいたと思います?また宣耀殿(せんようでん)ですよ。」


『はぁ?』

驚き

「嘘よ!政務が終わったら堀河邸に帰るか、宿直(とのい)なら直廬(じきろ)でしょ?行ってみたの?」


影男(かげお)さんはウンと頷き

直廬(じきろ)蔵人頭(くろうどのとう)に聞くと『ここにいないとなると恋人のところじゃないかな?』と仰るので宣耀殿(せんようでん)に行き取次の女房に尋ねると実際そこにいたようで、文を渡してもらえるとのことでした。」

こともなげに言った。


はぁ?何言ってんの?

まず『恋人のところじゃないかな?』といわれて真っ先に思いつくのは雷鳴壺(ここ)でしょ!

私のいるところでしょ!

影男(かげお)さんはなぜ宣耀殿(せんようでん)へ行くっ!?

そして兄さまはなぜそこにいるっ!?

と二重にイラっとした。


次会った時は絶対問い詰めなきゃっ!

(その3へつづく)

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