EP150:清丸の事件簿「至極色の光彩(しごくいろのこうさい)」 その8
大きなお屋敷の門から入って侍所につくと中に向かって
「ごめんください!あの~~~」
話しかけると中に座っていた警備の下人が
「何の御用ですか?」
私は文を見せて
「これを出した人に会いたいんですけど!」
怒りを込めた口調で言い捨てた。
警備の下人は首を傾げ
「ここには主はめったに来ません。食料や衣類や調度品や貴重品を置いておく倉庫ですが?」
驚いて思わず
「えぇっ?ほんとっ?」
じゃあと考えて
「主は誰なの?名前を教えてくださる?」
明らかに不審者を見る眼付に変わり
「誰の屋敷かも知らずに訪ねてきたんですか?・・・・お前こそ何者だ!怪しいやつめっ!出ていけっ!」
と追い出された。
私が門からスゴスゴでてくると路で待ってた影男さんが呆れたようにため息をつき
「ここじゃなかったんでしょ?文を見せてください。」
見せるとサッと目を通し
「『三条の門』は『三条大路』を指すのではなく『三条坊門小路』を指すんでしょう。つまり一つ北にある屋敷です。」
さっきの過ちを繰り返さないように、いつにもまして冷ややかで酷薄そうに見える三白眼の影男さんを上目遣いで見て
「そこは誰のお屋敷か知ってる?」
影男さんは無表情にスッと目を逸らし
「自分でお聞きなさい。その屋敷の主があなたを呼び出した調本人じゃないですか?」
その一軒北にあるお屋敷の門をくぐる前に、今までの自分の態度があまりにも無作法かなと思い直し影男さんに向かって
「あの、さっきは怒鳴ってゴメンナサイ。守ってくれるのが当たり前みたいな態度はどう考えてもおかしいわね。いつもあなたが守ってくれてると思うと安心するし、これからも頼りにしてます。」
ペコリと頭を下げた。
顔を上げた時、影男さんはうつむいて目を逸らしていたので表情はよく見えなかったけど照れて少し赤くなってるように見えた。
今度こそ!と門をくぐり侍所で案内を乞うと侍女が主殿にスンナリと通してくれた。
主殿の廊下から御簾越しに中へ向かって侍女が
「お連れしました。」
と報告すると御簾の奥から
「うむ。ご苦労。伊予殿入ってくれ。」
線の細い澄んだ男性の声がした。
警戒しながら御簾を押して入るとその男性はすぐ目の前に立っていて私を見ると
「会いたかった。長い間お前にずっと会ってみたかったんだ。」
細い澄んだ声で言い
「私は在原元清だ。」
と名乗ったその男性は、くっきりとした二重まぶたの大きな瞳を長い睫毛が縁取り、細い鼻梁の長いツンとした鼻、少し厚い小さい唇、肉の薄い頬、丸い輪郭の二十代半ばの上品そうな男性だった。
表(上側)は黄色、裏(下側)は紅色の『裏山吹』の重ねの色目の狩衣を着た姿は東市で目が合ったあの男性だった。
名前を名乗られても兄さまを人質にして謎の文を送り付け、ここへおびき出した在原元清の意図がわからず警戒を含んだ声で
「そうですか。あなたが誰でもいいけど、大納言に危害を加えるという脅しで私を呼び寄せて何がしたいの?付きまといなら過去に経験があります。今も近くに私を守ってくれる身辺警護がいるから変な真似は無理よ。大声で叫ぶとすぐに駆け付けてくれるし。」
クギを刺す。
在原元清は寂しそうに首を横に振り
「お前を傷つけることはしない。私はお前の実の、血がつながった兄だよ。」
と呟いた。
(その9へつづく)