EP148:清丸の事件簿「至極色の光彩(しごくいろのこうさい)」 その6
何も言わず足早に歩いていく忠平様に小走りでついていくと、毘沙門堂の隣に木の柵で四角く囲ってある中に直径一尺(30cm)ぐらいの表面が黒っぽい、丸くくぼんだ凸凹がある岩が置いてあった。
そばに立ててある説明の板には『天降石』と書いてあった。
忠平様は
「あの和歌の・・・・
『寺よりも 西にかかりて さく藤の 天の原より 降る石ぞ思ふ』
から文字通り『西寺』を読み取るなら、詳しい場所を示しているのは『天降石』のことだろう。」
こんなものがここにあるのを知らなかった私は『天から降ってきた石なの?何気にスゴイ!!こんなものがあったなんて!』と感動し、もっと時間があるときにゆっくり見たい!と後日また来ることを決意した。
どこかに次の文があるのかしら?と木の柵の周りや岩との間を見てみると敷き詰めた砂利の中から紙の切れ端が見えたので掘り出してみるとやっぱり結ばれた文で急いで広げてみた。
同じように『申二つ(16時)までに次の場所へ来い。』とあり、謎の和歌が記してあった。
私が集中して真剣にその和歌の意味を解読しようと考えこんでいると忠平様が耳に口を寄せヒソヒソと
「おいっ!あの『裏山吹』の狩衣の男はお前の知り合いか?さっきから後をつけてるようだが。」
ハッとして『どこっ?!』と指さす方向を見るともうそこに姿はなかった。
「いつから?私をつけてたの?」
「大日堂の前に座り込んでた時から。陰から盗み見してる怪しいやつがいたから見張られてるのが伊予だと気づいたときにはびっくりした。」
「どうして早く言ってくれなかったの!この文の差出人の一味かもしれないのに!」
忠平様は兄さまそっくりのしぐさで面白そうに眉を上げ
「言えばお前が捕まえたのか?その非力な腕で?」
ニヤニヤと冷やかした。
そこへ、ドッドッドッと規則的な蹄の音とブルッという馬の鼻息が聞こえたと思ったら馬上から目の前にヒラリと水干姿の男性が飛び降り
「侍従様!やっと見つけました!ここでしたか!上皇様が至急屋敷に参れとの命です。」
忠平様はチッと舌打ちし苛立ったようなギラついた目で私をジッとみて
「伊予、私は行くがお前は無理するなよ。時間切れになってもお前じゃなく兄上が殺されるだけだろ?それなら放っておけ!それに・・・」
言いながら辺りを見回し
「まぁいい。じゃあ、またな」
言いながら従者の乗ってきた馬に乗り北方向へ駆けていった。
従者も馬の後を走ってついていったので私はまた一人ポツンと取り残され、自力で謎を解かなければならなくなった。
そう次の謎の和歌は・・・・
『洞院の おわす東の 高き蔵 三条の門を すぎる姉かな』
(*私の解釈:洞院がいらっしゃる東の高い蔵には三条の門がありそれを姉が通り過ぎる)
が示す場所?う~~~ん。
『洞院』って天皇が位を譲った後の御所という意味だから、宇多上皇や陽成院の屋敷のこと?
それの東にある蔵の?門?
で姉?って誰よーーーーっ!
サッパリわからない。
穀倉院や大内裏の大蔵は宇多上皇御所の東にはあるけど、陽成院御所からは西にあるし・・・・。
(その7へつづく)