EP145:清丸の事件簿「至極色の光彩(しごくいろのこうさい)」 その3
確信はないけどとりあえず『思い当たるある場所』へ行ってみることにして、動きやすいよう久しぶりに水干・括り袴を着て、角髪を結った少年風侍従姿に着替え、大納言邸の東門で竹丸と合流すると竹丸はめんどくさがって馬の鞍から降りようともせず
「どうぞ~~後ろに乗ってください。そうそう、鐙をしっかり踏んで!勢いをつけて登ってくださいっ!もぉ~~~鈍くさいなぁ~~。ハイッもう一回頑張ってっ!」
と口だけでゴチャゴチャ言い、私は必死の思いで何度も挑戦してやっと竹丸の後ろによじ登り座ることができた。
すでに手足がダルくなるぐらい疲れた。ふぅ~~~。
馬を並足でかけさせながらブツブツと
「若殿から姫には影男?とか言う身辺警護がついてるって聞きましたけど、その者じゃダメなんですかぁ?」
私は先日の兄さまの反応を思い返し
「ダメよっ!影男さんと親しくすると兄さまが不機嫌になるから!」
「そういえば確かに何だかスネてましたねぇ。『どーせ私はずっとそばにはついていられないし、浄見は近くにいるヤツにすぐ懐くからなぁ。つまらんっ!』って愚痴ってました。」
そうこうするうちにやっと目的の場所に到着し、私は竹丸に
「そう!『東市』よっ!花か柴を売ってる場所を見つけてちょーだいっ!」
と告げ、人混みをかき分けながらキョロキョロし、花か薪を売ってる場所を探した。
『たれかへと 雪の花さく 市柴に 春をうるまの 冬の宮人』
という和歌の意味をあまり考えず、使われた文字通りなら『市』で売られてる『柴』か『花』と考え、あとは西か東かを特定するために『東』宮という手掛かりがあると考えた。
だから『東市』に来たってワケ。
路の両端に並ぶ商品を行き交う人々の隙間からチラチラと確認しながら進み、やっと水瓶にたくさんの水仙や百合の切り花を挿した花売り場を見つけたので『やった!』とテンションが上がりすぐに花売りの女性に向かって
「あのぉ・・・!」
話しかけたものの何と言っていいのか思いつかずに戸惑い、次が続かず固まってしまった。
気を取り直してさっきの和歌を思い出し
「あのっ『たれかへと 雪の花さく』から始まる和歌を知ってますか?」
と聞くと『さぁ?』と首を傾げられたので『いいえ、何でもないですよ~~~』と愛想苦笑いでその場を離れた。
そばで竹丸が
「あっちに柴(雑木の小枝)を売ってる場所がありますよ!」
そこへ行ってみると、数十本の木の枝を束ねて一抱えの大きさに作った薪の束が何段にも積み重ねて売ってある場所があった。
そこの売り主に
「あのぉつかぬ事をお聞きしますが・・・『たれかへと 雪の花さく』から始まる和歌を知ってますか?」
目をじっと見て反応を待つと、人のよさそうな中年男性の売り主が
「ああ、あんたか、これを渡してくれと言われたよ」
袂から結ばれた紙を取り出して渡してくれた。
「ありがとう!」
受け取ってすぐに開いてみようとしたけど『そうだ!』と気が付いて
「この文を渡すようにあなたに頼んだのはどんな人ですか?」
売り主は肩をすくめ
「さぁ?普通の貴族さまじゃないかな?よくわかんねぇよ。若い色男だったかな?」
男性だと分かっただけでも収穫。
未三つ(14時)に鳴る鐘の音も聞こえないので間に合ったし。
でもまぁこれで兄さまが殺されることはなくなった!とホッとして紙を解いてみるとそこには
『申一つ(15時)までに以下の歌が示す場所に来なければ大納言を殺す。
「寺よりも 西にかかりて さく藤の 天の原より 降る石ぞ思ふ
(*私の解釈:寺から西にかけて咲く藤の花が天の原から落ちてくる石の事を思う)』
とまた謎の和歌が書いてあった。
(その4へつづく)