EP144:清丸の事件簿「至極色の光彩(しごくいろのこうさい)」 その2
竹丸は面倒くさそうに『えぇ?』と言った後、『う~~~ん』と腕を組みながら
「若殿のお迎えが酉の刻(17時)ごろでいいったって私だって暇じゃないんですよぉ~~!」
口をとがらせた。
ふんっ!どーせゴロゴロ昼寝したいからとかお菓子を食べるからとかそんな理由でしょっ!と心の中で毒づいたが口には出さず、いいことを思いついたので
「そうだっ!食べたことない美味しいお菓子をあげるわっ!コレよっ!」
さっき忠平様にもらった小箱を取り出し蓋を開けて中を見せた。
竹丸が不審そうに粉の中に指を突っ込みかき回してお菓子を摘まみだし、匂いを嗅ぎ
「確かに美味しそうですねぇ~~~。コレを食べたら姫についていかなくちゃならないんですか?夕刻まででいいんですか?全部くれるんですよね。後いくつ残ってるんですか?」
半分あきらめたように呟くので私はブンブンと首を縦に何度も振りながら
「そうよっ!大丈夫っ!夕刻までには帰ってこれるわ!まだ一つしか食べてないからたくさん残ってるはずよ!」
誇大広告すると竹丸はハァ~~と呆れたようにため息をつき
「わかりました。ではこれはもらいますよ。モグあっ!ほんとに美味しいですねっ!モグ、遠出するなら馬が必要ですか?準備してきますから東門で待っててください。」
一つを口に入れてモグモグさせお菓子の箱をちゃっかり私から奪い取って立ち去った。
『よしっ!』
とりあえず警護人を手に入れたので具体的な行き先を考えなくちゃ!ともう一度文を開いて読んでみた。
『未三つ(14時)までに以下の歌が示す場所に来なければ大納言を殺す。このことを誰かに話しても大納言を殺す。
たれかへと 雪の花さく 市柴に 春をうるまの 冬の宮人
(*私の解釈:市で売られる柴に雪の花が咲いたのを誰かに送るのだろうか?冬の宮人は春を感じるために)』
私は想像しただけで怖くなってブルっと身震いした。
兄さまを殺す?と言ったって嘘かイタズラもしれないし、そんなに簡単にできるわけない!と思うけど、万が一ホントの事だったら・・・後悔してもしきれない!
さっき未一つ(13時)の鐘が鳴ったばかりだからあと半時(1時間)しかないわっ!間に合うかしら?
この和歌がどこかの場所を示すの?一体どこなの?
市かしら・・・?でも市って西市?東市?
宮人・・・?宮って内裏のこと?内裏のどこ?
雪とか花とか柴とか春とか冬とか何が関係あるのっっ??
もーーーーーっっ!!全然っわかんないじゃないっ!
誰かに話しても殺すってゆーしっ!どーしろってっ!
・・・・待って!
春・・宮と言えば春宮!
春宮は東宮、皇太子のお住まい!
つまり東宮御所のこと?!
でも許可なしに入ることはできないわっ!
この文を書いた者が東宮御所内にいたとしても、私が簡単に入れる場所じゃないことは知ってるはず。違うっ!
だとしたら多分・・・・あそこじゃないかしら?
(その3へつづく)