EP143:清丸の事件簿「至極色の光彩(しごくいろのこうさい)」 その1
【あらすじ:和歌に秘められた暗号を解いてその場所に時間内にたどり着かなければ時平様を殺すという物騒な文に、半信半疑ながら不安のあまり従うことにした私は、せめてサッサと謎を解いて犯人を突き止め検非違使に突き出し安心したいと焦るあまりに思考が空回り気味。助けてもらうのは当たり前じゃない!と反省しつつ、私は今日も人を見る目だけは自負する!】
今は、899年、時の帝は醍醐天皇。
私・浄見と『兄さま』こと藤原時平様との関係はというと、詳しく話せば長くなるけど、時平様は私にとって幼いころから面倒を見てもらってる優しい兄さまであり、初恋の人。
私が十六歳になった今の二人の関係は、いい感じだけど完全に恋人関係とは言えない。
何せ兄さまの色好みが甚だしいことは宮中でも有名なので、告白されたぐらいでは本気度は疑わしい。
ある日、大納言邸に里帰りしていた私宛てに文が届いた。
庭の散り落ちた白梅や山茶花の花片を雪まじりの雨が容赦なく穢していく様子に一抹の胸騒ぎを覚えたが、新たな芽吹きの準備だと思えば胸のザワつきはすぐに消し去ることができた。
文には
「また新しい菓子を開発したので味見して感想を聞かせてくれ。 忠平」
とあり同時に届いた文箱ぐらいの大きさの白木の箱を開けてみると白い粉が上まで敷きつめてあり、中に何が入ってあるのか見た目だけではわからないが、指をつっこんで探ってみると、柔らかいものが触れつまんで取り出してみると碁石より少し大きいぐらいのモチモチとした白いものがでてきた。
よく見てみると半透明な餅の生地で茶色いゴツゴツとした硬いものを包んであり、匂いを嗅ぐと甘い粉の匂いがした。
『う~~ん。多分、求肥(粉状のもち米や白玉粉に、水飴または水や砂糖を入れ練り上げたもの)で胡桃を包んでるのね?美味しそう!』
一つ食べてみるとやっぱり柔らかい甘い生地の中に水あめで煮て焦がしたほろ苦くて甘くてコクのある胡桃が出てきて
「美味し~~~い!」
とやっぱりほっぺが落ちそうだった。
餅と違って火を通さなくてもずっと柔らかいところがすごいよね~~~!と感心しながらも、全部食べるのは惜しい気がして後は食べずに取っておいた。
忠平様へ返事を書こうとしているところへ、私の対の屋へめずらしく竹丸が文を届けてくれた。
意外に思った私は
「今日は兄さまの退出を大内裏の門で待ってなくてもいいの?」
竹丸はプックリと膨らんだした頬をポリポリと掻きながら
「今日は昼から会議があるそうでお迎えは夕刻でいいんです。あの~~何か美味しいものありますか?すこし頂けるとありがたいなぁと」
さっきのお菓子?はちょっともったいないので山盛りに積んだ蜜柑の折敷(四角い盆)を指さし
「蜜柑なら好きなだけどうぞ。」
言うとウキウキしながら座り込んで食べ始めた。
私は受け取った文を解いて読み始めたけど一度読んだだけでは内容が信じられず、何度も読み返すうちに不安になり鼓動が速く呼吸が浅くなるのを感じた。
書いてあることを信じたくなくて竹丸に文を読ませようかと思ったけどもし内容が事実なら取り返しがつかないのでどうすべきかと悩んでいると、竹丸は五個目の蜜柑を食べ終わりやっと腰を上げ
「ありがとうございました!少し腹が落ち着きました。では。」
立ち去ろうとするので
「ちょっと待って!」
引きとめ
「これからちょっと行きたいところがあるの!一緒について来てもらえないかしらっ!」
縋る思いで竹丸の目を見つめた。
(その2へつづく)