EP139:清丸の事件簿「失踪の技師(しっそうのわざからくりし)」 その4
ニキビ面が顔長男に向かって
「剣理徳清からの文では取引相手は決まったとあったんだろ?それが帝ってことか?」
顔長男が頷き
「そうだ。だからもう一度剣理徳清と交渉しようと今朝、大山崎離宮八幡宮までわざわざ馬を飛ばしたら宮司が剣理徳清は今朝から行方不明だと言ってただろう。」
ニキビ面が困った表情で
「そうだよな。困り果てていたら上皇侍従が後からやってきて神官から話を聞きどこかへ向かったからそれについていったんだよな。そしたらこの女を攫ったから何か知ってるとハズだと思って銭を払ってゴロツキに一芝居打たせたのに当てが外れたなぁ。」
とため息をついた。
その時小屋の入り口から
「おいっ!どうするっ!凄い数の検非違使が都中をうろついて車をいちいち止めて尋問して誰かを捜してるぞっ!今その女を連れて動けば見つかるぞっ!ここに捨てていくかっ?どうせ何も知らないなら役に立たないぞっ!」
と少し前から見張りに出ていたもう一人の賊が小屋に入ってきて叫んだ。
ニキビ面が私の前にしゃがみ込みイヤらしいニヤニヤ顔で舌なめずりして顎をつかみ
「上玉じゃねえか。どうせならヤッちまってから捨てていこうぜっ!いっつも稚児ばかりじゃ物足りねーと思ってたところだ。都で芸人女を買うよりは安上がりだぜぇ~。」
と臭い息を吐きかけるので、
『やっぱりどこかの寺の生臭坊主ねっ!私に手出ししたらどこにでも噛みついてかみちぎってやるから覚悟しなっ!』
と決心した。
顔長男がバカにしたように鼻で笑い
「何を言ってる!さっさと剣理徳清を探すぞっ!ホラっ早く行くぞ!そんな女ほっとけ!」
と踵を返して立ち去ると、見張り男もついていったが、ニキビ面はあきらめるどころか袴の紐をほどいて下半身を出そうとするので私は身をよじって両手を解こうとし、なかなか解けないので焦ってまずは立ち上がって逃げ出そうとすると足で肩を蹴り飛ばされて仰向けに寝転ばされた。
近づいてきたら男を蹴り飛ばそうと身構えながら大声で
「助けてっーーーーーー!乱暴者よーーーーっ!誰かぁーーーーっ!」
と今度こそ喉が裂けそうなくらい大声で叫んだ。
ニキビ面が慌てて汚い手で口を押えてくるので噛みつくと
「痛っ!何すんだっ!このアマっ!」
と馬乗りにのしかかってきたので
『くそっっ!頑張ったけどここまでかぁっ!でも大人しくしてると思ったら大間違いよっ!いいタイミングで蹴ってやるっ!絶~~~っ対あきらめないからねっ!』
と思ってるとどこからか腕が伸びニキビ面の首を絞めると白目をむいて横に崩れ落ちた。
崩れ落ちた身体の後ろから影男さんの姿が現れた。
やっと見慣れた人の顔を見れた安堵で思わずポロポロと涙をこぼしながらモゾモゾと何とかして上半身を起こし
「やっと来たぁ~~~~も~~~~守るって言ったくせに全然来ないんだもん~~~~~ふぇ~~~ん」
と泣きながら愚痴ると影男さんは刀子で手の縄を切ってくれながら
「すいません。助ける時機を見計らいすぎたようですね。上皇侍従殿の屋敷では下人が多く、ここにいた坊主どもは武力に長けてないと見くびっていましたから。」
私は怖い思いと痛い思いから解放されて安心してすっかり気が緩んで
「ふぇ~~~~~ん怖かった~~~~!」
と泣きながら影男さんの胸に顔を押し当てて思う存分泣いてしまった。
しばらくそうしてると影男さんが恐る恐る髪をなでてくれた。
さあ帰りましょうと立ち上がった時、水干の胸のあたりが私の涙とヨダレと鼻水でグチャグチャに濡れてるのを影男さんがすご~~~く嫌そ~~~な顔で見てたけど気のせい?
大納言邸にやっと帰りつくと兄さまも竹丸もいなくてガッカリしたけど、とりあえず私は自分の対の屋で汚れた衣を着替えて顔を洗い、それが終わると話を聞こうと侍所から影男さんを自分の対の屋に呼び出して対面して座らせた。
影男さんにも着替えを用意しますと言ったけど断られたので私の体液で汚れた水干そのままの姿で向かい合って座り、私はモヤモヤと頭に渦巻いている疑問を一つずつぶつけることにした。
「ええと、まずあの生臭坊主たちは一体どこの誰なの?」
(その5へつづく)