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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見と時平の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
126/505

EP126:清丸の事件簿「紫水晶の腕飾り(むらさきすいしょうのうでかざり)」 その6

その瞬間、有馬(ありま)さんの(へや)で見た『何か』を思い出した。

『そうだ!紫水晶の連珠の腕飾りだ!有馬(ありま)さんの(へや)から逃げた恋人は伴影男(とものかげお)だったんだ!』

と一気に()に落ちた。

私は振り向き伴影男(とものかげお)が庭に落ちた刀子(とうす)をゆっくりとした動作で拾うのをぼんやりと見ていた。

これから伴影男(とものかげお)は私を刺すの?それとも顔を傷つけるの?と考えながらどこか他人事のようにフワフワして現実感がなかった。

じゃあ、あの漢文は本当に伴影男(とものかげお)のものじゃなかったの?てっきり影男(かげお)さんは・・・だと思ったのに。

伴影男(とものかげお)刀子(とうす)を見つめクルクルと手の中で回しながらボソリと

「できません。有馬(ありま)さん。」

有馬(ありま)さんの眉が吊り上がり、目が血走り、鼻の横に皺をよせ鬼の形相になったかと思うと伴影男(とものかげお)を睨み付け

「わたくしを裏切る気っ?お前までその子の味方をするのっ?あの言葉は嘘だったの?」

伴影男(とものかげお)有馬(ありま)さんを見つめ

「申し訳ありません。私は伊予殿に近づく必要があったんです。そのためにはここに配属されなければならない。古参のあなたのいうことなら中務省(なかつかさしょう)も聞き入れ都合よく事が運ぶと思ったんです。あなたほどの手練れがまさか(ねや)睦言(むつごと)を本気になどしないでしょう?」

と三白眼の黒目がさらに小さくなったように見え、ますます冷酷そうに見える表情で答えた。

『この人は一体何のために私に近づこうとしたの?狙いは何?この人なら一分(いちぶ)も表情を変えず人を殺しそうだわ!』と恐ろしさに身震いした。

有馬(ありま)さんは万事休したのか舌打ちした後、私を睨み付け

「伊予っ!このままでは済まさないわ!覚えていなさいっ」

と悪党にお決まりの捨て台詞を吐いてどこかへ立ち去った。

私は伴影男(とものかげお)に面と向かって漢文の書かれた紙を見せ

「これはやっぱりあなた宛ての文ね?漢文に見せかけた暗号文。料紙を拾ってくれる時に落としたんでしょ?」

伴影男(とものかげお)は驚いたように眉を上げ、興味をひかれたように三白眼の黒目が少し大きくなった。

「なぜ?そう思うんですか?その漢文の意味が分かったんですか?」

「そう。これは漢文でも五言律詩(ごごんりっし)でもなく、漢字と万葉仮名(まんようがな)が入り混じった日本語だったのよ!これにはこう書いてあるのよ!

以與乃(いよの)有様(ありさま)探索(さぐ)利天(りて)(つぶさ)()消息(しょうそく)()便(たより)仁天(にて)(つた)部與(へよ)

(いよの ありさま さぐりて つぶさに しょうそくを たよりにて つたえよ)』

伊予つまり私の様子を探ってマメに文で連絡しろって意味ね?ということは私を今すぐどうこうしようという意志がない人。多分私を遠くから見守ってくれている人。まだ会えていない母上(かあさま)か実の父上(とうさま)かしら?それとも祖父母(おじいさまおばあさま)?どちらにしろ私を守るためにあなたはここへ来たのね?違う?」

伴影男(とものかげお)は目を細め満足したようにうなずき

「ふふふ。見た目より賢そうな姫でしたね。そこまでわかっているなら正体を明かす必要はないでしょう?私はあなたを守るためにここにいます。これからもそのつもりです。よろしく」

とゆっくりと頭を下げた。

へへへ!答えは兄さまに教えてもらったんだけどね!見た目より賢そうってどういう意味?バカに見えるってこと?え?もしかしてバカだって言ってる?失礼ねっ!

顔を上げたときには元の冷徹そうな、自分の周りの誰も彼もを敵視するような上目遣いであたりを見回し私に軽く会釈して去っていった。

一人廊下に取り残された私は『これから有馬(ありま)さんとどう接すればいいのかしら?』とか『でも誰から身を守るために伴影男(とものかげお)を護衛に付けてくれたのかしら?一体何の危険があるの?』とグルグルと考えてみたけどとりあえず答えが出ないので思考停止して、いつもの雷鳴壺の女房の仕事に戻った。

(その7へつづく)

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