EP121:清丸の事件簿「紫水晶の腕飾り(むらさきすいしょうのうでかざり)」 その1
【あらすじ:宮中で女房として頑張ってるのに不運続きの私はぜったい誰かに狙われてる!でもあまりにも思い当たる敵が多くて疑心暗鬼で被害妄想がち?ぼんやりゆっくり過ごしていたい私は今日も程々に頑張る!】
今は、899年、時の帝は醍醐天皇。
私・浄見と『兄さま』こと藤原時平様との関係はというと、詳しく話せば長くなるけど、時平様は私にとって幼いころから面倒を見てもらってる優しい兄さまであり、初恋の人。
私が十六歳になった今の二人の関係は、いい感じだけど完全に恋人関係とは言えない。
何せ兄さまの色好みが甚だしいことは宮中でも有名なので、告白されたぐらいでは本気度は疑わしい。
ある日、内侍に頼んで内蔵寮(皇室の財宝を管理する倉庫)から受け取った料紙を盆にのせ雷鳴壺へ運ぶ途中、もう少しでつくというところで風が吹き、庭に料紙が舞い散ってしまった。
重ねただけの数十枚の料紙を盆にのせて運んでいた私がバカだったといわれればそれまでだけど、重ねた紙を丸めて束にしてくくっておけば良かったと後悔しても遅いなぁ~拾うのめんどくさいな~と思いながら渋々庭に降りて料紙を一枚ずつ拾っていると
「はい、向こうはほぼ拾い終わりましたよ。」
と料紙の束を手渡された。
その人はいつも庭の落ち葉や雑草を掃除してくれている大舎人(交替で宮中に宿直し、行幸の供や雑用をした下級官人)で顔見知り程度の男性で、歳は二十代半ば、顔は真面目そうな、特徴と言えば目が三白眼でいつも上目遣いに見えるぐらいの人だった。
薄い唇と冷ややかな三白眼が人嫌いで冷たい酷薄そうな雰囲気を醸し出しているので、舞い散った料紙を拾い集めてくれたというちょっとした親切にさえ意外なほど心が動かされた。
「ありがと~~~!ございますっ!」
とウキウキとお礼を言ってペコリと頭を下げ、『でもこの前親しくなった内舎人に痛い目に遭ったんだったなぁ~~』と思い出し余計なおしゃべりもせずいそいそとその場を離れた。
料紙が汚れていないかを調べていると、折れ目がついた紙が混じっていたので手に取ってみると既に文字が書いてあり読んでみると
『以與乃有様探索利天具仁消息尾便仁天伝部與』
とあった。
パッと見チンプンカンプンだったけど、そういえば『難しい漢文だって読めるようになったんだから!』と兄さまに自慢したことがあったなぁと思いだし、もう消えかかっているあやふやな記憶から勉強した乏しい漢文の知識を引っ張り出し無理やり読み下してみると
『與を以て乃ち様有り 利天の具探索して 仁の息尾を消す 便ち仁天、部與を伝ふ』
ともっとチンプンカンプンになった。
う~~~ん。『論語』とか『詩経』にこんな漢文は無かった気がする。
『天』とか『仁』とかはでてきそうだけど・・・と五里霧中。
(その2へつづく)