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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見と時平の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
113/505

EP113:清丸の事件簿「後宮の万葉(こうきゅうのまんよう)」 その5

と聞くと兄さまは

「吸うと幻覚を見せる麻の葉を乾燥して香炉に入れてあったことと、入内(じゅだい)以降几帳に文字を書くことができる人物ということは身近な使用人。茶々(ちゃちゃ)杉葉(すぎよ)でないなら残りは麻葉(まよ)しかいないですが、どうですか?」

茶々(ちゃちゃ)の妹・麻葉(まよ)に向かって話しかけた。

麻葉(まよ)は顔は茶々(ちゃちゃ)に似てるけどもっと丸顔で全体的にぽっちゃりして、扁桃(アーモンド)形の目は同じだけど目の間が少し広めの性格は茶々(ちゃちゃ)よりも大人しそうな、今まで一言も声を出してない子だった。

麻葉(まよ)が何か言うより先に桐壺更衣が今まで眠そうだった目をパッチリと開いて怒った口調で

「そんなことあるわけないでしょ!麻葉(まよ)は私の一番の理解者でずっと一緒に育ったんだからっ!誰よりも仲良しだし、茶々(ちゃちゃ)杉葉(すぎよ)に話してない秘密のことまで全部知りあってる仲なのよっ!入内(じゅだい)するまで一緒に寝てたし、いつまでも一緒にいましょうって約束して私についてきてくれたのに!絶対っっ私を怨嗟する(うらむ)はずないわっ!」

と必死で言いつのった。

麻葉(まよ)が観念したようにため息をつき

「もぅ~~~これだから世間知らずは嫌なのよ。私があなたに嫉妬したことがないとでも言いたいの?一生一緒にいるですって?私に結婚させないつもり?あなたのわがままをどれだけ我慢してきたと思ってるの?自分だけ最高の幸せを手に入れれば乳姉妹(ちきょうだい)なんてどうでもいいと思ってるの?」

と桐壺更衣を睨んだ。

けど、私には麻葉(まよ)が目に涙を浮かべ、それが流れ落ちるのを必死でこらえているように見えた。

するとクルリと桐壺更衣に背を向け兄さまに向かって

「大納言様、私の罪は一体なんですの?麻の葉で幻覚を見せた罪?果物の汁で『(えん)桐壺更衣』と書いた罪?呪詛(じゅそ)の罪で検非違使(けびいし)に突き出されるのでしょうか?」

と呟くと、兄さまは

「麻の葉で幻覚を見せたのは悪質だが桐壺更衣が許せば大事(おおごと)にせずにすむが、お前は罰せられたいのか?」

麻葉(まよ)は黙って涙を流し続けていた。

桐壺更衣がその背中に向かってビックリするぐらいハキハキとした大声で

「誰が検非違使(けびいし)になんて突き出すもんですかっ!麻葉(まよ)っ!後宮(ここ)や私が嫌になって実家に帰りたいなら帰ってもいいわ!でもいつでも遊びに来てちょうだい!いつでも待ってるわっ!あなたを結婚させないつもりなんてなかったわ!そんなに怒ってたなんて知らなかったの!ごめんなさい!許してちょうだいっ!」

と言いながら立ち上がって麻葉(まよ)の腕を取り振り向かせると麻葉(まよ)は泣きながらうつむいて嗚咽(おえつ)で全身を震わせ

「違うの・・・ヒッ・・・あなたは悪くないの・・・ックッ・・・・わたしが勝手にっ・・・ック」

と言いながら涙を手のひらで(ぬぐ)い兄さまを見上げると

「できれば実家に帰らせてもらいたいんです。ここから出ていきたい。」

ときっぱりと告げると、兄さまは桐壺更衣に

「と言っていますがいいですか?」

桐壺更衣は兄さまを見て、眉根を寄せて不安そうに麻葉(まよ)をみて

「ええ。もちろんです。なぜ麻葉(まよ)がここを離れたいのかはわかりませんが、きっと私に至らぬところがあったんです。ごめんなさい麻葉(まよ)。またいつでも来てちょうだいね?おしゃべりしましょう?ねっ?本当に来てね?私あなたがいないと寂しくて仕方がないの!約束よっ!」

麻葉(まよ)が顔を(そむ)けて目も合わそうとしないのに腕を揺さぶり、涙を流しながら必死で訴えかけていた。

・・・何だか別れを切り出された恋人に必死ですがってヨリを戻そうと説得してるみたい。

私も小さいころ遊びに来てくれた兄さまを少しでも長く引き留めようとするとき、ジッと目を見つめて懇願すると気持ちが通じたのか見つめ返してくれてそのまま時間が経つので、しびれを切らした竹丸に兄さまが引きずられて帰っていったっけ~と思い出し胸に迫るものがあった。

茶々(ちゃちゃ)杉葉(すぎよ)もそのあまりに突然のあっけない・予想外の幕引きに呆然(ぼうぜん)とし、麻葉(まよ)と桐壺更衣がお互い泣きながら別れを悲しんでいるのを『理解できない』という感じでボンヤリと見つめるばかりだった。

実際なぜ麻葉(まよ)があの文字を書いたり、麻の葉で幻覚を見せたのか理由がさっぱりわからないし、実家に帰りたいならそう言えばいいだけじゃない?と頭は『なぜ?』でいっぱい。

大騒ぎを起こして楽しむという(へき)?にしては本気で悲しそうだったのも謎。

茶々(ちゃちゃ)になぜ?と聞いてもわからないと首を横に振り考え込むばかりだった。

 兄さまが麻葉(まよ)を後宮から実家に帰す手続きを終え、私の(へや)を訪れたので早速

「なぜ麻葉(まよ)はあんな騒ぎを起こしたの?ちゃんと話せば桐壺更衣は許したでしょ?親友なんだから。」

兄さまは胡坐(あぐら)のまま腕を組んでウ~~ンと唸ったかと思うと

「確か、坂上郎女(さかのうえのいらつめ)の和歌に


『夏の野の 茂みに咲ける 姫百合の 知らえぬ恋は 苦しきものぞ

(なつ)の野の茂みにひっそりと咲いている姫百合(ひめゆり)のように、人に知られない恋は、苦しいことです。)』


というのがあったな。

長年想い続けた恋しい人への想いを断ち切るためには、何か大きなきっかけが必要だったのかもな。」

と言った。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

毒も薬も食べ物もお菓子もすべてを植物に頼っている動物はしょせん植物の『しもべ』のような気がしますがどうでしょう?

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