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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見と時平の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
111/505

EP111:清丸の事件簿「後宮の万葉(こうきゅうのまんよう)」 その3

女房の(へや)と更衣様の寝所を隔てる几帳の(かたびら)は白っぽい中にうっすらと青が混じった『()の花色』で、同系色の糸の直線と曲線が混じった複雑な線で花弁の重なりが描かれた牡丹のような豪華な花と、茎の曲線が平面を均一に埋め尽くしそこに緻密に計算された形の葉が心地いい配置に置かれた唐花(からはな)模様が織り込まれていた。

美しい模様をまじまじと見つめていると兄さまが下の端を持ち上げて私に

「これだな。見てごらん」

というので見ると黄色がかった茶色の汚れが擦ったように線状についていて、それに加えて指の跡が何本もついていた。

形がはっきりしているのもあまりよくわからないものもあった。

う~~ん。子供が泥で汚れた手を拭いただけじゃないの?と思ったけどそれなら一週間前に突然浮かび上がるのも不自然だし、桐壺(ここ)にはおろか今上帝にはまだ一人も子供がいないはずだから警備厳重な後宮に外から子供が忍び込んで手を拭いて帰るのも不自然。

はっきりしてるのはこの綺麗で豪華な調度品をためらいなく汚せる人もしくは子供の霊がいるならよっぽど美意識の低い人ってこと。

「あっこれを見てみろ!」

とその几帳の裏側を見ていた兄さまが叫んだので私も裏に回ってみてみると、ちょうど手の跡の裏側にこんどは少し濃い茶色で指で書いたぐらいの太さの文字が浮かび上がっていた。

その文字を目を凝らして読んでみると

(えん)桐壺更衣』

と読めた。

驚いて思わず

「えぇっ!ちょっと茶々(ちゃちゃ)っ!ちょっと来て来て!これって気づいてたっ?」

茶々(ちゃちゃ)に手招きして呼び寄せ茶々(ちゃちゃ)が急いで寄ってきて腰をかがめてみてみると

「えぇ~~~~!ナニコレぇ~~~!気持ち悪~~~い!マジでやだぁ~~~!」

と大声で言った後、ハッとして声をひそめ

「どうしよう?更衣様には黙っとく?」

私も小声で

「これって、桐壺更衣を恨んでる人がいるってことだよね?ここにあるってことは働いてる女房とか訪問客ってことじゃないの?心当たりないの?」

とヒソヒソと顔を突き合せていると兄さまも声をひそめ顔を寄せて

「これも指の跡が浮かび上がった時期からあったのかどうかわかるか?」

と聞くと、顔が近いのにギョッとした茶々(ちゃちゃ)は頬を赤らめ

「ありません!指の跡が見つかった時、徹底的にすべての調度品を調べつくしたんです!確かにその時はここには何もありませんでしたっ!」

と小声でも湯気が出そうなぐらい真っ赤になって照れながら早口に言うのでその態度に『ん?まだ狙ってる?』と怪しんだ。

兄さまが不思議そうに

「桐壺更衣を恨んでる人に心当たりは?」

と聞くと茶々(ちゃちゃ)は頬を染めたままウ~~ンと考え込んで

「誰にも恨まれるようなご性格ではないですしぃ、私たち姉妹は幼馴染で親友ですし、・・・杉葉(すぎよ)は殿がつけたしっかり者でいわば私たちが一番頼りにしてる人ですし、・・・強いて言えば(ちょう)を競う相手という意味では他の更衣様方や御息所(みやすどころ)といった主上(おかみ)のお相手の方達かしら?でも主上(おかみ)は本当の意味で寵愛されているお相手はまだいらっしゃらないんじゃないでしょうか?まんべんなく足を運んでいらっしゃいますし。だから心当たりはないっちゃない・・・」

と言いながらふと顔を上げて兄さまがじっと見てるのに気づきまた湯気を出して黙り込み顔を伏せた。

あの~~~、そこまで(うい)々しくて可愛い反応をされたんじゃぁ女の私まで『むぎゅぅっっ~~!』と抱きしめたくなるんでやめてもらえます?立派な誘惑ですよぉ~~!と冷ややかな視線で見てた。

「よしっ!」

と兄さまが腰を伸ばし

「じゃあもう少し調べ、桐壺更衣に話を聞いてそのあと私の仮説を話そう。」

とみんなでそこから離れ、その他の調度品を見回り、黒い(もや)が見えたという天井の隅に何もないことを確認し、兄さまは香炉の中を開け匂いを嗅いでいた。

桐壺更衣に許可を得て寝所の畳の下とか(しとね)の下にお(ふだ)とかの呪物がないかとか、舎人には桐壺の床下も調べさせ異常が無いことを確認した。


 桐壺更衣が顔を扇で完全に隠して座り、対面して兄さまが座り、その間には左右両脇に茶々(ちゃちゃ)麻葉(まよ)杉葉(すぎよ)、私が座った。

兄さまが口を開き

「少し確認したいので、ぶしつけな質問ですがお答えいただきたい。」

桐壺更衣は少し警戒したようにピクっと扇を震わせたがゆっくりと頷いた。

「まず、普段の寝姿勢(ねしせい)は仰向けが多いのではないですか?うつ伏せや横向きではなく?」

更衣は『うん』と頷く。

「子供の指の跡を見て以来ゆっくり眠れない日が続いていらっしゃいますね?」

これにも『うん』と頷く。

「金縛りにあった時は、その前に御酒を召してらした?それに昼間にお眠りになった時ではないですか?」

更衣はビクッとしたかと思うとブルブルと扇を持つ手を震わせ、声を絞り出し

「・・・はいっ。その通りでございます。どうしてお分かりになったの?夜は怖くて眠れず、酒を飲めば眠れると杉葉(すぎよ)から聞いたものですからそれを試したのです。まさか杉葉(すぎよ)が告げ口を・・・」

と慌てた。

確かに金縛りにあった時の様子を見てたとしか思えないけどなぜわかったの?

(その4へつづく)

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