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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
本編(恋愛・史実)
11/460

Ep11:女房伊予

<Ep11:女房 伊予(いよ)

ぎくしゃくしたまま別れてから以降、時平は浄見の前に現れなかった。

女房伊予には公達の誘いがみるみる増え続けた。

中でも兵部卿宮はしつこかった。

一度顔を合わせたのがいけなかった。

たまたま他に手が空いてる人がいなかったので伊予が白湯と菓子を運んだのだ。

何度はっきり断っても、和歌を引用した文を返しても、あきらめない執着だけは立派だった。

そんなときは運も巡り合わすのか、夜の取次に浄見が付くことになった。

公達の気配が御簾の向こうにして

「伊予殿に御取次をお願いしたい」

と兵部卿宮の声がかかった。

浄見は

「伊予はもう寝ております。お引き取りください。」

と答えたが、

「その声は伊予殿ですね。少しお話しませんか」

と食い下がった。

浄見は舌打ちしながら

「では、このまま少しなら・・・」

と答え、相手の出方を待った。

「月やあらぬ 春や昔の春ならぬ 我が身ひとつはもとの身にして」

と兵部卿宮は詠んだ。

浄見は在原業平の歌だと分かったが知らぬふりをして

「見る人に 物のあはれをしらすれば 月やこの世の鏡なるらむ」

と返した。(by崇徳院)

兵部卿宮は

「私には物のあはれが分からないという皮肉ですかな?はっは!面白い。」

浄見は

「ではこれでは?」

といって

「音に聞く 高師たかしの浜の あだ波は かけじや袖の ぬれもこそすれ」

と詠んだ。(by祐子内親王家紀伊)

兵部卿宮は

「どうやら私はよほどの浮気男だと思われているようですがそれは誤解です。

私はひとりの人を生涯愛し続けるタイプの人間で・・・・」

話が長そうなので浄見は無視して奥に退いた。

 浄見は考えるにつけ、兵部卿宮も時平も結局どちらも客観的には好色漢の浮気男に違いないと思った。

なのになぜ時平を許せるのか?

兵部卿宮ぐらい嫌いになれたら気が楽なのにと思った。

兵部卿宮が立ち去った後また、御簾越しに月を眺めた。

伊勢の歌を思い出して口に出してみた。

「荻の月 ひとへに飽かぬものなれば 涙をこめてやどしてぞみる」

すると、御簾の向こうから

「月夜には それとも見えず梅の花 香をたづねてぞ知るべかりける」(by凡河内躬恒)

と詠む声が聞こえた。

浄見は、自分の香を知っている人?もしかして?と思って

「時平様?」

と聞いた。

一応別人だった場合、「平次兄さま」はまずい。

「伊予は粋になったねぇ。月を見て歌を詠むなんて。」

と時平の声が聞こえた。

浄見は御簾をめくって飛び出した。

ほろ酔いの時平が立っていた。

「どうしたの、慌てて。そんなに会いたかったかい?」

と冗談めかして言った。

浄見は思わず頷いた。

時平が酔ってるところを初めて見たけど、上機嫌なぐらいで他に違いはなかった。

「私も浄見に会いたかったよずっと。ずーっとね。

どれくらいかっていうとかれこれ七年・・・」

とそこまで言って黙った。

「兄さま酔ってらっしゃるでしょ?中に入って休んでいってはどう?」

と言って時平を御簾の中に引き入れた。

畳を敷いて時平を座らせた。

「御白湯をもってくるわね」

といって歩きかけた浄見の手を時平が掴んで

「行かなくていい」

と言って引き戻し、自分の目の前に座らせた。

じっと浄見の目を見て

「他の男にもこんなことをしてるのか」

と聞いた。

浄見は悲しくなって、泣きそうだと思った時にはすでに涙があふれていた。

時平は少し慌てた

「ごめん、これはどっち?作戦?」

と言いながら両手で浄見の顔を包んで親指で次から次にあふれる涙を拭った。

涙が止まらないので時平は自分の袖で拭いた。

いつもと違って浄見の目をじっと見つめながら

「ごめん。私が恋人を探せと言ったのに矛盾したことを言ったね。」

浄見は首を横に振りながら

「違うの。兄さまに疑われて悲しくなって。そんな女だと思われてることが。」

時平は浄見を抱き寄せた。

浄見は時平の鼓動が激しく速く打つのを感じた。

幸せだと思った。

時平が浄見を胸から離して

「気持ち悪いなら、逃げてもいいよ」

と言った。

浄見は、時平の顔を引き寄せ、唇に口づけた。

「兄さまこそ、怖いなら、逃げてもいいのよ」

と言うと、時平は素早く浄見を抱き寄せ、強く長い口づけをした。


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