EP109:清丸の事件簿「後宮の万葉(こうきゅうのまんよう)」 その1
【あらすじ:友達になったばかりの女房が勤める桐壺で主の更衣様が様々な心霊現象に襲われているという。お節介で帝に心霊現象の解決をお願いして首尾よく大納言様と調査することになった私は、怖いものは得意じゃないけど原因が分からない方がもっと不安。なので幽霊に会ったら近づいて触ってやる覚悟!毒も薬も好きも嫌いも裏も表もよろずの葉!】
今は、899年、時の帝は醍醐天皇。
私・浄見と『兄さま』こと藤原時平様との関係はというと、詳しく話せば長くなるけど、時平様は私にとって幼いころから面倒を見てもらってる優しい兄さまであり、初恋の人。
私が十六歳になった今の二人の関係は、いい感じだけど完全に恋人関係とは言えない。
何せ兄さまの色好みが甚だしいことは宮中でも有名なので、告白されたぐらいでは本気度は疑わしい。
ある日、大納言である兄さまが帝のお伴をして椛更衣のいる雷鳴壺を訪れた。
椛更衣は私が先ほどお願いしていた通り
「主上、実は伊予からお願いがあるとこのことで、少し話を聞いてやっていただけませんか?」
と仰ってくださると、帝はまだ十四歳の少年ながら頼りにされることが誇らしいらしくゴホンと咳払いをした後、顎をグイッとあげ胸を反らし
「あ~~、伊予、朕に何か頼みがあるなら目の前に出てきて申すがよい。」
私は『ハイ』と小さく返事をし几帳の陰から帝の御前にでた。
「実は、桐壺更衣様に仕える女房から聞いたのですが、近頃、桐壺で立て続けに怪異が起こっており、桐壺更衣様がご心配のあまり夜もゆっくりお休みになれないと伺いました。」
帝はまだあどけなさの残る端正な目を丸くして
「朕が桐壺へ行った折には何も申しておらなんだぞ!どういうことだ?」
「はい、それは、もし桐壺更衣様がお告げになったら、主上の御渡りが途絶えることを憂慮されたのだと思います。私も桐壺更衣様に申し付かったわけではなく、友人の女房がよもやま話に話していたのをお節介から主上にお伝えいたしたく思っただけでございます。主上なら何か解決策を下さるかと思いまして。」
帝は扇で口元を隠しう~~~んと唸ったかと思うとそばに控える兄さまに
「時平、どう思う?お前がやってくれるか?」
と丸投げすると兄さまは畏まって頭を下げ
「ははっ。では、伊予を連れてお話を聞きに桐壺へ参ってもよろしいでしょうか?」
「うんっ!頼んだぞ!」
と肩の荷を下ろしたことに安堵したように帝が頷いた。
私が桐壺の怪異の話を聞いたのは茶々からで、それは一緒にxx寺へ行った後、宮中に帰った私が気まずさを解消しようと茶々に文を書き一緒に雷鳴壺でお菓子でも食べましょうとなった時だった。
雷鳴壺の隣の梅壺では茶々みたいにせっかちな一・二輪の梅が小さな白い花を咲かせている。
私の主の椛更衣は例えるなら最後にやっと蕾を綻ばせる梅花のようにいつもゆったりしていてほのぼのとした空気で周囲の人を癒してくれ、正反対だけどどちらも大好きなお友達。
茶々のようにせっかちな梅の花は水瓶の水を凍らせる夜の冷たさに耐え、まだ固い他の蕾たちのなかで誇らしげに自分の美しさを見せつけているが、その枝にモフモフに毛羽立った『毛糸玉に尻尾が生えた』みたいな小鳥がとまっているのを見ると『いいもの見たなぁ~』と一日中幸せになる。
私の房に茶々が来てくれたので、菓子の蜜柑と白湯をだしどうやって切り出そう?と考えながら
「あのぉ~~、実は・・・・」
ともじもじしてると茶々が大きな口をザックリと開けて手を横に振って笑いながら
「いいのいいのっ!ぜ~~んぜん気にしてないわ!それにしてもあのイケメン雑色が大納言様とはねぇ~~~!平次さんですって?ああやって身をやつしていろんなところに二人で出かけているのぉ?っか~~~っ!!羨ましい~~っ!!でも意外ねぇ~~~!大納言様が寵愛する女房が雷鳴壺にいるって聞いた時はもっと色気駄々洩れの肉食女かと思ったのに、伊予ってはっきり言ってアレでしょ?!可愛らしいけど艶っぽくはないしまだ裳着前って言ってもおかしくないくらいの見た目でしょ?」
とズケズケと言われる。
「初めに会った時にちゃんと本当のこと言わなくてごめんなさい。・・・せっかくできたお友達を失いたくなかったの。」
というと茶々はアハハハハっ!と笑って
「だから別にいいってばぁ~~あやまらなくて!そんなの言わなくったってラブラブの恋人同士の間に割り込めるわけないし、あの時私キッパリフラれてたじゃん!ってゆーか私も大納言様との繋がりがあれば今後ミスった時とかもみ消してくれたり何かと便利でしょ?だから友達でいましょ!」
私が良かったぁ~~とホッとしていると、茶々は目を細めながら口角を上げニヤリと笑い
「それに・・・伊予だっていつまでも大納言様の恋人でいられる保証はないでしょう?次の恋人の座は私に回ってくるかもしれないし・・・ヒッヒッヒ!」
と企み口調で言うので、私はプッと頬を膨らませ指で茶々をつつき
「ムゥ~~~~っ!させてたまるかっ!」
とじゃれながら、ズケズケ言い合える間柄超楽し~~~~~~っ!って思った。
(その2へつづく)