EP105:清丸の事件簿「揺動の心柱(ようどうのしんばしら)」 その3
塔丸は腕を組んで考えこみウ~~ンと唸ると
「まず折烏帽子は確か『しっかりくっつかないと先へ進めない』とか『はめ込む』とか『アワビやサザエもある』とか話していました。萎烏帽子は『いいケツして可愛くて仕方ない』とか『根元がしっかりしないと折れる』とか『かぶせる』とか言ってましたし、立烏帽子は『おかみのせいで台無しだ。雷でも落としてもらわねえとどうにもならねぇ』と話してました。」
私は『う~~ん、女性関係と食べ物関係と政治批判?』と解釈。
どれが茶々の憧れの人なのかしら?それにしても欲深い下世話な話しかしてないわね!と自分たちの恋バナは棚に上げて思った。
「あなたはどんな人たちだと思います?その三組の方達は?」
「折烏帽子はどこかの貴族の従者たちで萎烏帽子はゴロツキどもで立烏帽子は地方の農民と言ったところでしょう。」
じゃあ萎烏帽子以外ならいいのねと考えながら茶々に
「これだけじゃ身元なんてわかりっこないわね?他の人にも聞いてみる?」
と今度は別の場所で掃除してた十代の坊主頭に話しかけ三組の男性二人連れについて聞いてみると
「折烏帽子は『石でひたすら柔らかく擦る』とか『松脂やクジャク石や青瑠璃を使って』と話してましたし、萎烏帽子は『子を産んだばかりで乳の張りがよくて一層可愛い』とか『はねの天秤がうまく調節されてる必要がある』と言ってましたし、立烏帽子は『りとうの取り立てで忙しい』とか『恨まれるのは我々ですからね』とか言ってました。」
ふ~~~~~ん。って一体何の話?やっぱり下ネタ?と恨まれる商売の人たち?と全くわからなくて残念。
「あなたはどんな人たちだと思いました?」
「そうですねぇ。折烏帽子は傀儡子(雑芸をして各地を渡り歩いた芸人)でしょうか?萎烏帽子はどこかの雑色でしょう。立烏帽子は借金取りですかねぇ。」
今度はどれも嫌ねぇ。と思いながら茶々に
「どう思う?まったく手掛かりがないどころかどの人たちでもガッカリな気がしない?」
と真面目な顔で聞くと茶々はため息をつき
「はぁ~~~そんな風には見えなかったけど・・・。せめて手巾とかわざとよろめいて抱き着いた拍子に何か身に着けてるものをくすねておくべきだったわ・・・」
とガラの悪い事を言う。
と思ったらサッと顔を上げ何かを思い出したように
「確か!何かの紙包みを持っていた気がするわ!」
「何の?」
とそこへ『お~~い!』と手を振りながらさっきの坊主・塔丸が走ってきて
「思い出しました!確か萎烏帽子の一人が『山茶花の花を枝ごと二・三本欲しい』と言うので切ってあげました。」
私は茶々の顔をみて
「紙包みってそれじゃない?その人たちじゃないの?やったじゃない!きっとそうよっ!」
とテンションが上がったけど、まてよじゃあ『ゴロツキ』か『下衆雑色』なの?どのみち下世話な人たちっぽいしガッカリねぇと微妙な空気になったけど茶々は自分に言い聞かせるように
「別に塔丸たちの言う通りの人じゃないかもしれないし、まだわからないわ!それにここに何度か通ううちにまた会えるかもしれないし!ぜんぜん凹んでないからね!人生まだまだこれからよ!あの人が見つかるまでここに通うことにするわ!」
と前向きな発言。
「じゃあ今日はもう帰りましょう」
と竹丸が待ちくたびれたように歩き出し石段を降りはじめ私たちもついていった。
石段のちょうど中ほどまで来たところで、下から上がってくる男性が見え、横の茶々が私の袖を引っ張り
「ねぇ!あれ見て!あの人何だか雰囲気がそっくり!もしかして!」
というのでそちらを見ると灰色の筒袖・紺色の括袴で萎烏帽子を被ってるので塔丸たちが見た人達で正解だったよう。
その男性は足元の石段を見ながら慎重に登ってくるので顔は上げてくれないと見えない。のでイケメンかどうかも判別不能。
「今日は一人だけど、あなたの憧れの人じゃないほうかも?」
茶々は立ち止まってゴクッと息をのみ
「顔を見ればわかるわ!イケメンだし。」
と呟く。
それにしても偶然また会うなんて茶々って『持ってる』わねぇ!と羨ましくなった。
でもそれなら『ゴロツキ』か『下ネタ雑色』じゃないの?いいの?と思って茶々の顔をみると目がキラキラと輝いて、石段の途中で足を止めてジッと上がってくる姿にくぎ付けになってるので
「危ないから広くなってるところまでおりましょうよ!また落ちるかもしれないわ」
と冷や冷やしながら促してそこまで降りた。
先に広くなってるところまで降りてた竹丸が
「あれ?平次さんですか?どうしてここに?」
と気の抜けた声で話しかけ
「ああ。竹丸か。清丸を迎えに来たんだ。」
と低くて少し硬い声が響きドキッとしてその男性の顔をみると目が合いニッコリと微笑みかけ
「驚いたか?大納言邸でここにいるって聞いて迎えに来た。」
と嬉しそうに言った。
(その4へつづく)