EP101:清丸の事件簿「底闇の灯火(そこやみのともしび)」 その4
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「結局、私のことを廉子様はご存じ無いままなの?」
と私は遠慮がちに兄さまにたずねるとウンと頷きながら
「でも、きっと察しているからあんなに拒絶したんだ。」
聞きたくないと言ってる人にワザワザ嫌な事を言う必要ある?と兄さまの無神経にちょっとムッとしたけど、原因は私にもあると思いなおしてちょっと凹んだ。廉子様が聞きたくないなら隠しておいても構わないと思うけど・・・
「どうしてわざわざ廉子様に言おうとしたの?というか恋人ができたら全部報告していたの?」
兄さまが私の目を不思議そうにじっと見て
「今までの恋人で報告した人なんているわけない。遊び相手だし、妻が傷つくことをわざわざ言う夫はいないだろ。」
だ~~か~~ら~~~!と眉をひそめて口をとがらせ
「なぜ私のことはワザワザ言おうと思ったの?今まで通り黙っていればいいのに。」
兄さまはもっと不思議な事を聞くなという表情で
「なぜ言わずに済ますことができるんだ?相手が浄見なのに?」
私は明らかに『?』と顔に書いていたと思う。頭にもいっぱい浮かんでたから。『どういう意味?』って。
兄さまがほっぺを摘まんで
「言ってなかったっけ?廉子と結婚したときに私が『想い人がいる』と告げたことを廉子が思い出したみたいだって」
ほっぺを摘ままれながら首をブンブンと横に振る(だって初耳だもん)と
「だから、三日前、堀河邸に帰った時に廉子にその『想い人』と付き合い始めたから以前とは違うと伝えようとしたけど拒否されたんだ。聞きたくないって耳を塞いで思いっきり拒否られた。でさっき車の中から浄見のことを見ただろ?きっとすべて気づいたと思う。今頃泣き崩れているか、周囲に当たり散らしてるだろうな。」
私は頬にぐっと力を入れて頭を振り兄さまの指を振りほどくと兄さまの頬を両手で挟み『う~~ん?』と首をかしげて
「廉子様と結婚したときって八年前でしょ?・・・八歳の私のことを『想い人』って言ったの?」
と悪戯っぽく言うと、兄さまがみるみるうちに耳まで真っ赤になり
「イヤっ!その時は何歳とか言ってないし!今気づくとそうかなってわかるだろうけど!それにその時はもう別れたっていったんだよ!べ、別に当時だって何も悪いことしてないしっ!てか焦る必要もないし!何だよっ!おかしいかっ!ああそうだよっ、わかってるよっ!異常だよなっ!」
と焦りながらクドクドと言いつのり最後は逆切れした。
う~~ん、可愛すぎるので後でギュッと顔を抱きしめるとしよう!フム。
そんなことをしてると行列のどこからか
「・・・去年は確かに見えたのに今年は見えなかったと心配してる奴もいりゃあ、去年も今年もばっちり見えたって奴もいるぜぇ。あれは確かに力のある神様か閻魔様の作った井戸だよぉ」
という声がした。
それを聞いて
『毎年見え方が違うの?不思議!どういう仕組みかしら?それとも本当に霊的な力のある井戸?』
と一層ワクワクした。
そうこうしているうちに帷の端が少しめくられ中から
「次どうぞ!」
と聞こえ私たちの順番になり二人で帷を押してはいるとすぐそばに座っていた男が
「一人ずつにしてくれ。一人は戻って待っていてくれ。」
と言うので兄さまが私に頷いて外へ出た。
私は一人になってちょっと緊張し、周りを見回すと、中央に直径四尺(1.2m)ぐらいの井戸があるその部屋は二間(3.6m)x二間(3.6m)ぐらいの広さで、屋根が板葺きになっている。
部屋の北と南の二面は遣戸で閉じられており、東と西の二面にはそれぞれ帷がかかった入り口と出口があり、それに続く壁面部分は格子が閉じられ内側に御簾をおろして目隠しをしている。
御簾や帷を透けて光が外から入るので、真っ暗ではないが薄暗いので部屋の四隅には灯台に火がともしてるが、奇妙なのは井戸の真ん中の真上には天井からロウソク立てを吊るし、火が灯してあること。
何か宗教的な意味でもあるの?
キョロキョロしてると入り口付近に紙束の山を積んだ机とその前に腰かけているハゲ頭の男性がいて、その男性がしわがれただみ声で
「はい。『予言の井戸』へようこそ。井戸の予言を受けるためにはまず十文支払ってね。」
私は大人しく十文支払うと井戸の持ち主は
「はい。では予言の受け方を説明します。え~~井戸のどの部分からでもいいので中を覗きこんでみてくれ。それはあなたの一年後の姿です。もし、真っ暗で何も見えなかったり顔が映って無かったりすると一年後のあなたに不幸が訪れるということです。勇気あるものだけが幸せになれるよぉ~~!」
とニヤリと笑うのでちょっと怖くなったが、とりあえず井戸の周りをぐるぐると回りながら、ここかな?という場所で中を覗き込んだ。
(その5へつづく)