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93 希望的観測

次の更新は1月4日の予定です。

 沈黙を破ったのはリーアムだった。


「エイヴェリー、だとしたらメダルを持っている者はみな危ないのではないか?」

「うちにある純金のメダルを確認してみたんだけど、何も感じなかったよ。たぶん女王がメダルを介して力を行使出来る時間は限られてるんじゃないかな。それに女王陛下は自分の力を知らないのかも」


 エイヴェリーはパレードのことを思い出す。あの時の女王は、体から出た黒いもやにまるで気がついていないようだった。

 妖精が近づいても、黒いもやが妖精を喰らっても、ただ優しげに微笑む女王。

 自身の周りで起こっているおぞましい光景を無視できるほど女王が冷酷な人間だと、エイヴェリーは思えないのだ。


「いや、エイヴ、それはおかしいんじゃないか?」


 反論したのはディアミドだ。


「パーソロンとネヴェズのメダルはちゃんと保管されている。つまりこのメダルはネイル殿下か陛下の物だ。船長が盗んだか、奪ったというのか? あり得ないな」

「うむ、メダルはなんらかの意図を持った人物によって、船長の持ち物になったと考えるのが筋だろうね」


 ディアミドとオーウェンの言葉を受けて、エイヴェリーも思考を巡らせる。

 一番考えられるのは、女王が船長を喰らうつもりでメダルを持たせたという線だ。だとしたら余りにも残忍すぎる。悪魔の所業だ。

 もっとも船長はネイルを殴り海に落としたのだ。エイヴェリーですら腸が煮えくりかえるくらいなのだから、母である女王の怒りは相当のものだろう。

 だが、しかし――。


「パレードで見た女王は妖精に愛されていたし、私も嫌な気持ちにならなかった。彼女が邪悪な意図を持って動いているなんて信じたくないんだ」

「精霊である君の勘か……」


 ディアミドの言葉にエイヴェリーはあわてて訂正をいれる。


「あ、私たち妖精って人の正邪を見抜く力があるわけじゃないからね。悪い人間に簡単に騙されちゃうから」


 エイヴェリーにも他の妖精にも、女王の複雑な心情や立場を理解できるわけではない。


現在(いま)の女王陛下には妖精が見えず、妖精結界をコントロールできない。しかし闇を生み妖精や人を喰らう。メダルを使い離れた場所にいる人間でも始末することが出来る――こう言うことだな」

「メダルで力をコントロール出来るかどうかは、私の憶測だけどね」


 オーウェンがまとめ、エイヴェリーが補足した。


「それで、これからどうするつもり?」


 尖った声を上げたのはメアリーだ。


「あなた方パーソロンの話が本当なら、女王は私たちの娘を奪ったのよ。我が子が殺されているのに黙っているの?」


 メアリーの言葉に誰も答えることが出来ない。


 しばらくしてオーウェンがゆっくりと話し始めた。


「王を罰することは出来ない。裁判にかけるなら、まずあの方を一貴族に戻すことから始めねばならない」


 つまり女王ではなく、ラナン家当主を糾弾するのだ。


「母上、三家の当主が裁判にかけられた事例はありませんよ」


 ディアミドは諫めるように言う。


「泣き寝入りするの? ああ、最悪。あの男が去っても何も変わらないのね」


 妻と息子からあの男呼ばわりされている前ネヴェズ公だが、自業自得である。


「ねえ、メアリー。証拠がないのよ。妖精を使って幼子の命を奪ったなんて、あの方が認めると思う?」

「女王が妖精を使い人を害したとなると、この国が根底から揺れることになる、三家としてそれを許すわけには行かないね」


 パーソロン夫妻の言葉にメアリーは反論出来ず、沈黙した。しかし納得しているわけではなく、燃えるように輝く黒い瞳でパーソロン夫妻を睨みつけている。


「女王の所業は公に出来ないまでも、あの方には退位していただくつもりだ」


 オーウェンの言葉に反応したメアリーは、今度はエイヴェリーを睨みつけた。


「その娘を女王にするつもり? そう言えばこれまでの話って、随分、パーソロンに都合がいいわねえ」

「母上!」


 ディアミドが鋭い声をあげた。

 パーソロンが女王に濡れ衣を着せラナンから王座を奪おうとしていると言いたいのだろうと、エイヴェリーは察した。

 残念ながら女王の罪は全て憶測であるから、メアリーの見立てを否定する材料がパーソロン側にはない。


 メアリーの侮辱ともとれる言葉に、オーウェンはあくまで冷静に対応する。


「いや、エイヴェリーは王になる教育を受けていない。ネイル殿下が相応しいだろう」

「なら王妃になるのかしら?」

「それもない。殿下はすでに心に決めた方がいらっしゃってね。その人物もエイヴェリーに匹敵する力を持っている。我々としては、心身に不安のある女王には一線を退いていただき、ネイル殿下を中心とした体制で帝国に対峙したいと考えているのだ」




 エイヴェリーは久しぶりに初晴(はつはる)の記憶を思い出していた。


 ネイルを【選択】したヒロインポポロンは、ネイルの母である女王と王宮でお茶を飲む。そこで初めてユーザーは、女王が妖精が見えないことを知るのだ。

 女王は妖精の見える少女ポポロンを歓迎し、ゲームはハッピーエンドとなる。


(もしかしたら、何事もなく上手くいくのかもしれない)


 パーソロンもネヴェズも死んだ子どものことを追求せず、闇についても素知らぬふりをつらぬけば、王位は平和的に移譲されるのかもしれない。


「メアリー、あなたの苦しみは私の苦しみよ。でも今は耐えてほしいの。女王を刺激した結果、どんな事態が起こるか分からないの」


 母のサーシャが、噛んで含めるようにメアリーを説得する。次第にメアリーの目から強い光が消えていき、初めと同じ虚ろな表情となった。

 その様子にエイヴェリーは心を痛めたが、彼女を慰める術はなかった。

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