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92 女王のメダルとエイヴェリーの仮説

 ディアミドの沈黙はしばらく続いた。

 開こうとした口を閉じ、視線を彷徨わせている。

 誰もが彼の気持ちが落ち着くのを辛抱強く待った。

 

 エイヴェリーは初めて自分の体から黒いもやを出した夜のことや、女王の闇が妖精を喰らった日のことを思い出していた。


 ルゥルゥやギギが、きゅっとエイヴェリーの腕を掴む。

 木馬妖精も鼻面でディアミドの頬を撫でる。

 おぞましい記憶に苦しんでいるディアミドとエイヴェリーを、妖精たちが慰めようとしているのだ。

 押し付けられた鼻面がくすぐったいのかディアミドがふっと笑う。そして、真剣な顔でエイヴェリーたちを見る。


「暗い地下道だったからね、正直何が起きているのか分からなかったんだ」


 ディアミドの目には突然、二人が騒ぎ始めたように見えたらしい。


「あの二人は陛下とラナンシを侮辱した。すぐにでも捕まえて口を塞ぎたかったが、出来なかった。その時、不思議なことが起こった。あいつらの体の一部が見えなくなっていったんだ。最初は暗闇のせいだと思ったよ。だが、違った」


 ディアミドによると、二人は下半身から消えたように見えたと言う。闇ははっきりとは見えなかったらしい。


「二人は助けを求めてきた。恐怖で顔が歪めてね。私たちは逃げた。ただその場から離れるのが精一杯だった……」


 ディアミドが苦しんでいるのが、エイヴェリーには分かった。

 たしかに彼らは悪党だった。人も殺してきたかもしれない。それでもあんな恐ろしい最期を迎えるべきではなかった。

 救えるものなら救いたかったに違いない。


「君たちが無事なだけでも良かったよ。逃げることが必要な時もあるさ。あの闇に対処する方法は私も分からないんだ」

「エイヴ、君はあの場にいなかったのに、まるで見てきたように話すんだな」

「見てたよ。妖精たちが私の目になるからね」


 エイヴェリーが疑問に答えると、ディアミドはアイスブルーの目を見開いた。


「君はそれほどまでの力があるのか。とんでもないな」


 あきれたようにディアミドは溜息をついた。


「それでも、あの闇をどうすればいいのか分からないんだ」


 つられるようにエイヴェリーも、軽く息を吐いた。

 闇は妖精だけではなく人も喰らう。しかも女王のいない所にも発生するのだ。妖精界から来たメェリィたちも対策を立てることが出来ない。


「それとね、別の場所でも闇が人を喰ったんだ」


 エイヴェリーはそれだけ言って、ちらりとメアリーを見た。これ以上の話をこの女性に聞かせていいのだろうか?

 するとエイヴェリーの懸念を即座に察したらしいメアリーは、強い口調で言い放った。


「私だって三家の人間よ。聞く権利も覚悟もあるわ。ここで聞いたことを外に漏らさないってディアミドとも約束したのよ」


 いつの間にか、彼女の瞳には強い光が宿っていた。


「エイヴェリー、構わない。話しなさい」


 オーウェンに促されて、エイヴェリーはゆっくりと頭の中で情報を整理するように話し始めた。


「ディアミド、父上が群島の男と接触してるのは知ってるね。そいつは商人で海賊で軍人で、だいそれた夢を抱いている。例の客船に近づいて領事たちを逃したやつで、さらに客船の船長の最期を見たんだ」


 昼間に知った情報は、素早くパーソロン家で共有されている。そこでエイヴェリーは新たな事実を知り、そして一つの仮説を立てた。


「――ショーンが発見した時にはすでに船長の体は縦半分消えていたらしい。消えた所から黒い霧が見えたって言ってた――」


 ディアミドとメアリーは厳しい表情でエイヴェリーの話を聞いていた。すでに話を聞いているパーソロンの面々の顔も強ばっている。


「やがて船長は完全に消えた。これだけ残してね」


 エイヴェリーは、ショーンから受けとったメダルの入った箱をテーブルの上に置き、蓋を開けた。禍々しい物を見るような目でディアミドは箱のメダルに視線を向ける。


「これは……記念メダルか……」


 なんの変哲もないメダルにディアミドは戸惑っているようだ。


「うん、普通の記念メダルに見えるよね。私もそう思ってたんだ」


 言いながらエイヴェリーは、メダルの入った箱ををすいっとディアミドに近づける。


「これ、純金なんだ」

「なんだって?!」


 ディアミドは箱を持ち、中のメダルを手にとった。


「確かに……よく見ると出回っているメダルより小ぶりで重たいな」


 メダルは建国二百年を記念して作られた物だ。妖精ニーヴの横顔と彼女が愛したというアイビーがデザインされていて、ここにあるメダルより大きく金メッキで出来ている。


 エイヴェリーは知らなかったが、パーソロン家には同じデザインだが小ぶりで純金製のメダルがあった。


「これは確か三家の当主とネイル王子が持っているはずだ。それが――」


 そこまで言ってディアミドは沈黙した。

 このメダルを所有しているのは、オーウェンと前ネヴェズ公(持ち出していないなら現ネヴェズ公であるディアミドが所有)、ラナン家の当主でもある女王陛下、そしてネイル王子の四人のはずだ。それが何故か船長が持っていたのだ。


「パーソロンにはちゃんとあるんだ。ネヴェズはどうだい」

「爵位を継いだ時に確認している。持ち出されていたら話は変わるが……。いや、罪人の手に渡ることはないだろうな」

「そうなるとこのメダルはネイル王子か陛下の物ということになるね」

「待て、エイヴ。待ってくれ」


 ディアミドはエイヴェリーの話を止めようとした。しかしエイヴェリーは構わず話続ける。


「私は妖精の目を通してラナンシのあらゆる所を見ることが出来るし、精霊になればどんな場所にも行けるよ。でもそれは私が精霊だからさ。人間の女王陛下には、昔みたいに妖精が見えたとしても、ここまで自在には力を操れないと思うんだ」


 ならばどうやって、人々を眠らせたり、幼子を窓から落としたり、井戸に誘導することが出来たのだろう? どうやって本人(じょおう)のいない所へ闇を運んだのか?


「ディアミド、地下通路で君はメダルのような物を取り出していたね」

「ああ。あれは、陛下の権限を一時的に臣下に移譲するためのメダルだ」

「そして女王候補の女の子の側にもメダルがあった」

「………………」

「あくまで仮説だけどね。女王は自分の力を行使するさいにメダルを媒介にしてるんじゃないかな」


 部屋はシンッと静まり返り、しばらく誰も言葉を発することはなかった。

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