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85 海賊問題

次は12日の予定です。

(王? ばかな、ネイルはどうなる?!)


 エイヴェリーは混乱していたし、腹も立てていた。


「ああ、違う。我が国の話ではない」


 エイヴェリーの勘違いに気がついたオーウェンは即座に否定した。


「群島を束ねる者になるだろうと、言う意味だ」

「待って下さい。あの男が何者であろうと、群島は帝国の支配下にあるじゃないですか」


 群島のリーダーになったとしても、独立しない限り群島の王にはなれないのだ。


「父上、群島が独立すること思っているのですか?」


 質問したのはリーアムだ。彼もオーウェンの言葉に衝撃を受けたようで、額に皺を寄せ険しい顔をしている。

 厳しい顔もセクシー、などと数秒リーアムの横顔を見つめていたエイヴェリーだが、すぐに正気を取り戻して父に向き合った。


「父上とリーアムは、あの男と何を話していたのですか」

「ああ、少し彼のことを話さなくてはいけないね」


 オーウェンはまずは男の名前と身分を話した。


「彼はスライゴーのショーンと名乗っている」


 群島の民には苗字はない。まずは島の名前を言ってから、個人の名前を言う。


「今、彼は島々を束ねる立場にあるようだ。もちろん納得していない者もいるだろうが、群島がまとまりつつあり、その中心に彼がいるのは概ね間違いないだろう」

「群島は縄張り意識が強く団結することはないと聞きました。あの男がバラバラの群島をまとめたと言うのですか? 仮にそうだとしたら帝国が黙っているわけがないでしょう?」

「帝国が群島の動きにまったく気がついていないとは言えない。だが、帝国が彼の正体を知っていたならば、客船事件の時に彼を使わなかったと思うね」


 ショーン自身の説明によると、帝国では彼は群島の便利屋として知られる存在であるらしい。帝国のために汚れ仕事をしながら、秘かに群島のリーダーとしても動いているというのだ。


「帝国は活発になった海賊に手を焼いているが、群島がまとまりつつあることまでは把握していないようだ」

「仮に帝国が群島の動きを知らないというのが本当だとしても、あいつの話を信じる根拠にはなりませんよ」


 世間知らずで人のいいエイヴェリーだが、さすがにあの胡散臭い男の話を素直に信じる気にはなれない。エイヴェリーの言葉にリーアムが頷く。


「彼は本当に群島のリーダーなのかもしれません。しかし、彼が我の強い群島民を正しく統制できるのでしょうか?」

「だから、彼はそれを証明すると言っている。まずはお手並みを拝見しようじゃないか」


 余裕ぶっこいた悪人みたいな態度を示す父の姿を見て、嫌なフラグじゃないかとエイヴェリーは不安になった。前世に影響されすぎである。


 ショーンはラナンシの船を海賊たちに襲わせないと約束した。これが守られるなら、彼が群島を掌握している証拠となる。

 一方、パーソロン公爵はショーンとなんの取り引きもしていない。ラナンシの船が海賊の難から逃れられたからといって、その見返りを群島から要求されてはいない。


群島(かれら)が欲しいのは、我々(ラナンシ)の信頼だ」

「ならば海賊行為自体を止めるべきではないですか」


 リーアムが相変わらず険しい顔で反論する。義理の父と息子ではあるが、忌憚ない意見が言い合える仲になっていることにエイヴェリーは感動していた。

 父がチラリとこちらを見たように感じたエイヴェリーだが、気のせいだったのかオーウェンは何事もなく話し始めた。


「群島の民にとって海賊行為は、魚を捕ることや畑を耕すこととそう違わないのだ。止めろと言っても無理だろうね」


 さらりととんでもないことをオーウェンは言う。

 平均的日本人の倫理観を持つ初晴(はつはる)の記憶せいだろうか、エイヴェリーは父の言葉に嫌悪感を持った。

 いや、エイヴェリーだけではない。隣のリーアムの体からぶわりと怒気が膨らむのを、エイヴェリーは感じた。しかし、オーウェンは構わず話し続ける。


「それに、海賊行為は帝国の支配に抗う彼らの戦い方でもある。一概に避難することもできまいよ」


 オーウェンの言葉に、エイヴェリーは大陸のどこかで起こっているカカオ農家の反乱を思い出していた。理不尽な搾取に抗い、それぞれのやり方で皆戦っているのだ。


「仮に全てが上手くいって群島が独立したとして、勢いづいた海賊たちがラナンシに上陸するかもしれません。商船を装う技術は、おそらくここ数百年のうちに高くなっているのではないでしょうか」


 リーアムがもっともな懸念を示す。

 妖精結界があっても、悪意ある者を全てを排除することはできない。

帝国に対抗出切るほど群島が強くなったとしたら、ラナンシにとって群島が再び脅威となるだけだ。


「だからこそ、ラナンシは群島と信頼関係を築かなくてはならないのだよ」

「そんなの彼らが海賊行為を止めるのが先ですよ。ラナンシの船だけ襲わないなんて言われても、安心できません」


 エイヴェリーはすかさず反論した。


 ラナンシより一足先に帝国の脅威にさらされ続ける群島の立場が理解出来ないわけではない。

 しかし、周りの人間は殴りつけるがお前は殴らないから感謝しろ、と言われて喜ぶほどラナンシの民もバカではない。


「だいたいラナンシに略奪品を持ち込んだり、人攫いまでやってる連中ですよ。忘れたのですか、港にいた海賊船のことを。捕らわれていた少女を」

「ああ、そのことだが彼が君にも礼を言いたいと言っていたよ」

「私に、礼?」


 オーウェンの言葉にエイヴェリーは戸惑う。隣のリーアムが義父の言葉を補足する。


「正確にはエイヴに対してだよ」


 領事と組んで略奪品をラナンシでロンダリングしていた海賊たちとショーンは対立していた。次々と群島の海賊たちを傘下におさめていくショーンに対抗するため、海賊たちはショーンの娘を攫ったのだ。


「娘?! あいつに娘がいたのか」


 若くないかもしれないとは思ったが娘がいる年齢の男だったのは意外だった。エイヴェリーがただただびっくりしている間にも、リーアムが丁寧に説明してくれた。


 保安隊が保護した少女は家族の元へ送られた。彼女から直接リーアムのことを聞き出したショーンは、父として直接リーアムに礼を述べた。

 リーアムが少女を発見しまのはエイヴであると伝えると、ショーンはエイヴにも礼をしたいと言いだしたらしい。


「おおげさだなあ、何をしたってわけでもないのに」


 エイヴェリーは女性の泣き声がする船があるのを、リーアムに告げただけだ。直接助けたわけではない。


「しかし、娘を救ってくれた相手だ。礼を述べたい気持ちは、同じ娘を持つ親として分かるよ。ショーンはエイヴのことも知っているようだから『虹色』に来るかもしれないね」


父の言葉に、エイヴェリーは新たな厄介事が舞い込んできたのを悟った。

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