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81 ニケア帝国とラナンシ

次の更新は21日の予定です。

 ニケア帝国は800年の歴史を持つ大国である。

 異民族の侵入、内乱、後継者争いが度々起こり、二百年ほど前の大動乱の結果、国土の三分の二を失った。

 帝国の動乱は、あらゆる地域に波及した。群島周辺には海賊が跋扈し、ラナンシ島はしばしば海賊の進入に悩まされていた。

 元々妖精の多い島であったラナンシは、自然からの恩恵を受けた豊かで美しい島で、海賊にとっては宝の山だったのだ。

 ニーヴが結界を張ったのは、最初は海賊対策のためだった。しかし、帝国は安定せず周辺地域が次々独立していく中で、ラナンシも国として独立を宣言したのだ。


「帝国が安定したのは先帝の時代ね。今の皇帝になってから、物凄い勢いで国土を取り戻してるわ」


 エイヴェリーはアシュリンと歴史のおさらいをしていた。


「いや、取り戻すって言うけどさ、その土地に住んでる人にとっちゃ、侵略じゃないか」


 エイヴェリーは帝国視点の歴史にブーブー文句を垂れている。

「帝国史」では、人々は僭主の悪政に苦しめられていたところを帝国に解放されたことになっているのだが、この記述を真に受けるほどエイヴェリーもお人好しではない。


「でも土地によっては、帝国の支配を歓迎した地域もあるし、悪政からの解放もあったのは事実よ」


 特に帝都に近い土地は、帝国が安定すると積極的に帝国領に組み入れられることを望んだのだと言う。


「その時の成功体験のせいで『世界の人々は帝国の領土になることを望んでいる』って考えが、帝国にはあるのよ」

「そんなの歪んでるよ」

「そうなんだけどね、あながち間違ってるわけじゃないのよ。だってみんな、帝国のモノをありがたがるし、世界中から帝都を目指して人が集まるのよ。ラナンシ人だっていっぱいいるわ」

「いや、だけど……国として優れた所があるのと、その国に支配されたいかは別だよね?」


 乱れた国ならともかく、ラナンシは安定しているのだ。わざわざ帝国の支配下に入る必要はない。


「でもね、それを帝国で――帝都ではっきり言ってるラナンシ人っていないのよ。私もだけどね」


 ラナンシ人は対立を嫌う。土地や財産、自身の権利を守るために戦ったことがない。必要がなかったからだ。

 妖精結界に守られ防衛に力を注ぐ必要がなく、贅沢をしなければ飢えることはないのだ。争いは欲の深い者が起こす忌まわしいことである。


「でもね、嫌なことは嫌って言わなきゃ、ひたすら踏みつけられるだけよ」


 アシュリンはキッパリと言うが、エイヴェリーは納得しない。


「じゃあ、群島はどうなのさ」


 群島の人々の気性は荒い。彼らは海の民で船の扱いに長けているが、商船か漁船か海賊船か分からないと言われている。独立心と縄張り意識が強く、帝国からの再三の攻撃に耐えてきた。

 しかし、結局は帝国の軍門に下ったのだ。


「したたかな群島も最後にはやられちゃったんだよ? 戦い方を知らないラナンシがはっきり主張したって、帝国が手を引くわけないよ」


 アシュリンは厳しい顔をしている。

 出会った時は、前世の記憶が甦ったばかりだったらしく、ゲームの設定に拘泥していた。

 今は別人のようだが、これが本来のアシュリンなのだろう。


「群島は縄張り意識が強すぎて団結して戦えなかったのよ」


 帝国の支配下に置かれることをよしとしなかった群島は、海の覇権を巡って帝国と小競り合いを繰り返していた。

 しかし帝国の調略により、群島の一部が帝国に恭順を示し始めたことで、次第に戦意を失い、大きな戦い至ることなく帝国領となった。

 平和的に領土を得たことで、現皇帝は高く評価されているらしい。


「でもラナンシはそれ以前の問題。自分たちの国をどうしたいか、はっきり示してないのよ」

「そりゃ、平和が一番で、ええっと、今のまま――つまり、ラナンシはラナンシ人が治めるのがべきだと思うよ」

「だったら、それを、あんたら貴族がっ、帝国に対してはっきり言わなきゃいけないのっ」


 アシュリンの圧が強くて、エイヴェリーは窒息しそうだ。


「貴族の中でもあんたら三家が問題なの。三家が帝国に大使を送るなり、留学するなりして、帝国内部でラナンシの影響力を増すような努力を、なんでしないのよ」


 ちなみにラナンシが帝国に送った大使は、ネヴェズの傍系で、現在亡命を希望しているそうだ。


「それは決まりだからさ。三家の直系は王都を離れちゃいけないって」


 三家の使命は政ではない。妖精の見える女の子を生むことだ。

 だから()()()()()()()()()も、なかなか廃嫡の許可が下りなかったのだ。


「ルールを決めるのはあんたらなんだから、そんなクソルールさっさと変えて国を飛び出してみなさいよ」


 アシュリンの正論に、エイヴェリーはただ頷くしかなかった。


 実際、元ネヴェズ公が去った王宮は変わりつつある。女王とパーソロン家は急速に接近し、パーソロン公オーウェンは王宮内での力を取り戻した。

 新たなネヴェズ公爵ディアミドは保安隊長官となり、リーアムは第一隊長になる予定だ。

 定例会議にはネイルも加わり、積極的に議論を戦わせているらしい。


 彼らは共通見解として、帝国との外交姿勢を見直すべきと考えている。


 少しずつ――、いや急激にラナンシは変わりつつある。


「それでも間に合わないかもしれないのよ」


 アシュリンは暗い目をしていた。


「ああ、そうだね。帝国が本気を出したらラナンシの兵力ではひとたまりもないだろう」


 鍵は妖精結界だ。


 妖精結界を維持できる新たな人物が現れれば、帝国は強引な手段には出ることはないだろう。

 そのためには、ポポロンかエイヴェリー、あるいはその両方が正体を明かし女王に要求しなければならない。


 女王の座を返上し、妖精結界の制御権をよこせと。

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