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75 動き出す陰謀

「」内、人間のセリフ

『』内、妖精、精霊のセリフ

()内、妖精の力を使った会話、および心の声


分かりづらくてすみません。

「ああ、君か!」


 エイヴェリーに声をかけてきたのは、使用人用の待機部屋にいた帝国貴族に仕えるラナンシ人だった。


「助かったよ。誰も捕まらなくてさ」


 やっと捕まえた給仕が顔見知りだったことに安心したのか、男は漆黒の肌から白い歯を覗かせて笑った。


「失礼いたしました。給仕仲間の中に体調を崩す者がおりまして……。あの、皆さんはお体に何か違和感を感じることはありませんか」


 エイヴェリーが訊ねると、男は少し考えんこんでから言った。


「今、主人がカードをやってるんだけどね、どうにも眠気がとれなくて難儀してるところさ」


 主の目を覚ますために、何か飲み物を探しているらしい。


「酒とあのハーブティーは駄目だ。コーヒーが欲しいんだ」

「申し訳ありません。コーヒー、紅茶は明日の朝の分しかないのです」


 眠たかったら寝たらいいじゃないか、とエイヴェリーは心の中で呟いた。男はエイヴェリーの内心を察したようで、帝国人のパーティー作法を教えてくれた。


「ああ、帝国人はね、パーティーとなると夜通し遊ぶんだよ。苦いコーヒーでも飲んで無理矢理にでも起きてなきゃいけないのさ」


 しかし、ないものはないのだ。

 どうしたものかと思っていた所に、新しい領事らがティーラウンジに向かうのが見えた。


「参ったなあ、領事様まで合流か……」

「とりあえず、明日の分を出してもらうように厨房に頼んでみます」


 途方に暮れる男を見かねて、エイヴェリーはコーヒーを出して貰えるように頼み込んでみることにした。


「無理だぜ、止めとけよ」


 エイヴェリーたちの話に気付いて声をかけてきたのは、同僚の給仕だ。


「さっき、俺も頼んでみたけどよ。料理長が偉い剣幕でさあ。はあ、まいったよ」


 よほど嫌な思いをしたのだろう、客の前だというのにぞんざいな口調で給仕は言った。


「じゃあ、お客様方に断りを入れないといけないんだね」


 エイヴェリーが気の重い仕事に取りかかろうと、ティーラウンジに向かったが、そのタイミングで帝国貴族らが立ち上がった。どうやら領事が、カードゲーム大会をお開きにしたようだ。


 次に領事はエイヴェリーらに近づいてきた。


「君たちも、慣れない船上の催しで大変だっただろう。さあ、早く仕事を終えて休みなさい」


 エイヴェリーは無言で頭を下げた。

 隣の男は、「お気づかいありがとうございます」と言ってから、主の元へ向かった。


(新しい領事っていい人だな)


 エイヴェリーは、少し前のウィスキーの件はすっかり忘れて、新領事に好感を持った。




 それからエイヴェリーは、パーティー会場や客の個室の皿や茶器を片付けに回った。途中何度か貞操の危機を感じたが、なんとか乗り切り、厨房に入って皿洗いを手伝った。


「いやあ、今日のパーティーは楽勝だったねえ。えーと、あんた――」

「エイヴだよ。ラナンシ人だ。君は帝国の人?」


 皿洗いの途中に隣にいた若い料理人に声をかけられた。

 相手をよく見ると、まだ少年のようだ。料理人と言うよりは見習いなのだろう。


「うーん、まあ帝国っちゃ、帝国だね」


 少年はぼかしながら答えた。

 あまり話題にしたくないのだろう。エイヴェリーは構わず、質問を続けた。


「私はこういう大きなパーティーは初めてなんだ。君はしょっちゅう、こんなパーティーで働いてるのかい?」

「ああ、そうだよ。帝国じゃ、お偉いさん方が毎晩遊びたくってるからな。今日はいいよ。客がお行儀よく、さっさと寝てくれて」 

「お客は寝るのはいいよ。だけど給仕も料理人も少なくないかい?」


 今、厨房にいるのはエイヴェリーと見習いの少年、そして料理長だけだ。あとの従業員は具合が悪くなったのか、皆ベッドの中だ。


「おいっ、お前ら」


 背後から、料理長の鋭い声が響く。少年は分かりやすくビクつき、エイヴェリーは皿を落としそうになった。


「今日はもういい、休め」


 叱責を覚悟していたエイヴェリーは拍子抜けした。


「でも、まだ皿が拭き終わっていませんし……」


 厨房の掃除も出来ていない。この状態で今日の業務終了などと言ったら、『虹色』ならアシュリンに張り倒されるところだ。


「仕方ないだろ、三人しかいないんだぞ。出来ることはもうない。お前らも、早く寝て明日に備えるんだ」

「でも……」

「ありがとうございます! 失礼しますっ」


 納得いかないエイヴェリーの隣で、少年は早々とエプロンをとり、厨房を後にした。仕方がないのでエイヴェリーも大部屋に向かう。


 途中、アシュリンに呼びかける。


(アシュリン、どうだった)

(どうもこうもないわよ)


 アシュリンは、疲れきった声で言った。


 案の定ネイルは別れ話に納得することなく、時間ばかりが過ぎていき、最後は迎えに来たディアミドとリーアムによって眠っていた付き人ごと回収されたらしい。


(別れるって決めたら、話し合いなんて必要ないのよ。どうせ相手は納得しないんだから。正直、ポポロンの傷が深くなっただけだったわ……)


 二人を会わせたことを、アシュリンは後悔しているようだ。


(ねえ、それより船内の様子はどう? やっぱり何か変な感じがしない?)

(うん、おかしいね。まるで船全体が眠りについたみたいだ)


 エイヴェリーは寝室に入ると、ベッドに入り、擬態をとき、精霊化した。

 意識を船全体に伸ばして、くまなく船内を観察する。


 寝室の隣には使用人の待機部屋があり、そこには深夜当番が控えている。

 しかし、妖精の目を通して部屋を覗くと三人の男が机に突っ伏して寝ていた。側には例のハーブティーがあった。

 本来なら、給仕や厨房係はパーティーの片付けで忙しく働いているはずの時間である。


 もちろん起きている人間はいた。

 船長を始めとする船の乗組員たちである。流石に眠る訳にいかないのか、船長はコーヒーを飲み、上級の航海士らしき男に指示を与えている。場所はおそらく船長室だ。


「皆、寝たか?」

「客や下働きは寝ていますが、ラナンシの保安隊の連中があちこちをうろついています」

「ちぃっ」


 船長の人相が急に悪くなる。口と顎に蓄えられた豊かなヒゲのせいで海賊のような迫力がある。


「構わずやれっ」

「し、しかし、なんと申し開きすれば……」

「無視しろっ。文句を言うなら海にでも落とせ」

「相手は帯剣した兵士ですよ?」

「俺たち海の男が、ラナンシの田舎剣士に負けるわけがなかろう?」

「…………」

「いけっ」

「はっ」


 船長が低い声で唸るように指示を出す。航海士は上擦った悲鳴のような声で返事をして、踵を返し、船長室から出ていった。

 そして待機していた船員らに、何事か指示を出す。 



(リーアム、リーアム、聞いているかい?)

(エイヴェリー、どうした)

(船員たちが何かたくらんでいる。連中は抵抗すれば保安隊を海に落とすと言っている)

(!!)

(保安隊は何人いるんだ)

(僕とリッキーをいれて五人だ。確認したが、ディアミドと殿下の護衛も寝ている)


 五人……、エイヴェリーをいれても船員を押さえ込むには少なすぎる。何よりここは海の上である。どんな邪な計画たてていようが、彼等の協力なしでは陸に辿り着けないのだ。



 エイヴェリーは、アシュリンらに船の異常を伝えた。


(アシュリン、ポポロン、船員たちが動き出した)

(なんですって)

(あの、何かあったのですか?)

(分からない。とりあえず君たちは部屋から出ないでくれ。船員たちはかなり気が立っているみたいだ)


 エイヴェリーは擬態に戻り、ベッドから降りて部屋を出る。

 突然激しい揺れに襲われて、バランスを崩したエイヴェリーは派手に転んだ。


『エイヴェリー、ふね、うごいてる』

『何だって?!』


 ゆっくりと立ち上がりながら、精霊化したエイヴェリーは妖精の目で空から船体を俯瞰して見た。


 いつの間にか帆が張られていた。

 船員らは不気味なほど静かに動いている。


『あっちに、いくよ』

『あっち、ようせいけっかいの、むこう』

『ばいばい、あっちは、こわいところ』


 月明かりに照らされ、てらてらと不気味に光る黒い海を割るように、巨大な船体が進む。


 その先にあるのは妖精門だ。

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