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7 女王の秘密

過去の話ですが子供が死にます。

「確かなことではありません。憶測に過ぎないのですが……」

「しかし、妖精結界が維持されているのは何故だい?」

「妖精結界は王家の秘儀ですから、詳しいことは分かりません。しかし、あれは契約なのですよね。確か契約者が死んだ時か新女王、若しくは王妃が誕生した時に解除され、新たに契約が結び直されるはずです。妖精が見えなくても契約だけは維持されているのではないでしょうか」



 ラナンシ島は弓のように曲がっているため、海の三日月と呼ばれている。この島を大きく包み込む半球形のようなモノが妖精結界だ。半透明であり、誰でも肉眼で確認することができる。

 外から結界内に入ろうとしてもいつの間にか外海に押し出される。逆もまたしかりで、内側から船で外に出ようとしてもいつの間にか船はラナンシ島に向かっているのだ。

 これでは鎖国というか島民全体が軟禁されているようなものだ。そこで結界には自由に出入りが出来る妖精門が設けられている。

 歴代の女王、王妃によって形態が異なり、現女王の妖精門は巨大なアーチ状になっている。

 女王の意志で自由に開閉できるが、現在は開放政策の一環として常に開け放たれた状態だ。


「女王はいつ頃から妖精が見えなくなっているのかね?」

「二十年以上前ではないかと考えています」

「……君が生まれた時にはすでに女王には妖精を見る力――妖精を使役する力が失われていたということか」

「おそらく。私が()()されなかったのは離れに引きこもっていたからではなく、女王が力を失っていたからでしょう」


 エイヴェリーとオーウェンの会話を聞きながら、サーシャが身じろぐ。言いたいことがあるが逡巡しているような仕草だ。母の訴えたいことを察しながもエイヴェリーとオーウェンは話し続けた。


「二十年前か……。確かにあの頃、女王は妖精の可視化をやめられた。あの方は歴代の女王より妖精を見る力が弱いと言われていたから、無理な可視化をやめられたのだと思っていたが……」


 催事があれば女王が姿を現す。その際、女王の周りの妖精たちが華やかな色をまといながら可視化されるらしいが、エイヴェリーは見たことがない。

 エイヴェリーが物心ついた頃には女王は可視化を行わなくなっていたし、女王が市井に姿を現す時にはパーソロンの離れの二階からけして出ることはなかったからだ。


「妖精門の開閉が行われなくなったのもその頃だ。開放政策のためだと思っていたが……」


 しかし誰も女王が妖精が見えなくなっているなどと思ったことはなかった。妖精が見えなくなるなど聞いたこともないし、妖精門はしっかり維持されている。王国民としては特に問題はないのが現状だ。

 エイヴェリーも女王が妖精が見えることを疑ってはいなかった。初晴(はつはる)の記憶を思い出すまでは――。




 『ポポロン絵日記 妖精のお店屋さん』の攻略対象者には女王の息子、ネイル王子がいる。王道攻略ルートである。(ただし人気はない)


 ネイル王子攻略に成功すると王宮の庭に呼ばれて女王とお茶会をすることになるのだが、そこで交わされた会話によってユーザーは混乱に陥った。


【ありがとうポポロン、ネイルを選んでくれて。あなたに妖精結界を託します。妖精が見えなくなって二十年。あやうく私の代でこの国が終わるところでした】


 ――お、お前、妖精見えとらんかったんかいっ! 


 ユーザー総ツッコミである。



 女王が妖精が見えないのに何故妖精結界が維持されているのかという問いに、公式は「妖精結界は契約によるものです。女王の死か、新たな契約者が現れるまでは維持されます」と回答した。


 つまりポポロンがネイルを選ばず数十年後に女王が死ぬと、契約が切れて妖精結界は消えてしまうのだ。

 結界がなくとも島が消えるわけではない。普通の島国になるだけだが、地政学的に考えて帝国の下に置かれることは確実だろう。


 ――ネイル選ばなかったら、全部バッドじゃねえかっ――。

 ユーザーは怒ったが、多分契約が消え、帝国の侵攻を受けるのは数十年後なので『ポポロン絵日記 妖精のお店屋さん』終了時点ではハッピーエンドという認識で間違いない。

 とはいえ、ユーザー的にはもやもやが残る話でネイル不人気の一因でもある。




「私が女王陛下の前で可視化されないレベルでこの子たちを出しても多分女王は気が付かないのではないでしょうか」


 この子、と言ったところで好き勝手に飛んでいたルゥルゥがすいっとエイヴェリーのそばにやってきた。


『ねえ、じょうおうさま、こわくない? そしたら、おそと、でていいの』


 ルゥルゥの言葉に他の妖精たちも反応する。


『あそぶ、おそといく』

『コロッケ、たべにいく』


 妖精たちはエイヴェリーのそばで騒ぎ続ける。


「そうだね、少し私の練習が必要だから、ちょっと待っててほしいな」



「だったら……」


 母サーシャがボソリと言う。


「全部無駄だったの?! エイヴェリーを隠して男として育てて……」

「サーシャ……」

「あんまりよ。あんまりだわ。今更、女の子でした。妖精が見えますなんて言えないわ。どうするの?! エイヴェリーの人生はめちゃくちゃだわ」





◆◇◆


 二十年と少し前のことだ。パーソロン家に女の子が生まれた。二歳の頃には妖精と一緒に空中を浮遊するほど強い能力を持っていた少女は、次の女王候補だった。

 現女王は子どもに恵まれなかったためだ。


 しかし女の子は妖精たちと共に二階の窓からふわりと飛びだして、そのまま地面に落ちてあっけなく亡くなってしまう。

 不思議なことに事故当時、屋敷中の者が強烈な眠気を感じて意識を失うように眠りこけてしまったという。母サーシャは狂わんばかりに嘆き悲しんだ。あまりにも妖精を見る力が強すぎたことで起きた悲劇であると、人々は思った。

 しばらくしてネヴェズ家の三歳の娘に妖精が見えていることが分かった。しかし、この子も行方不明になり数日後井戸で発見された。

 また公にはならなかったが、ネヴェズの分家の少女も変死した。


 妖精の見える少女たちの相次ぐ不審な死――。


 事ここに至ってパーソロン家の当主オーウェンは、女王の関与を疑い始めた。


 ラナン、ネヴェズ、パーソロン。


 元妖精である初代王妃の三人の娘を祖とし、代々妖精が見える少女が生まれる家系である。

 ラナンに妖精の見える少女が生まれればそのまま女王となる。ネヴェズ、パーソロンならラナンの王子と結婚して王妃となる。

 しかし現女王には子どもがいない。ネヴェズ、パーソロンから女王を出せば、ラナンは王族としての特権を失う。それを恐れた女王の凶行であるとオーウェンは考えた。

 悲しみを乗り越え、二人目の子どもを懐妊した妻サーシャに、オーウェンは言った。


「この子は男として育てよう」

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