67 船上パーティー
※アシュリン視点です。
「何度見ても不思議な光景ね」
シャンパンゴールドのドレスに身を包んだアシュリンは、星空にかかる紗のカーテンをみつめていた。
船上パーティーは、ラナンシ側の妖精結界が見えるぎりぎりの所で行われていた。
個室のバルコニーの椅子に座り、空を見上げるアシュリンの隣には、アクアブルーのドレスを着たポポロンがいる。
「その、あの……、このドレスって……」
ポポロンが所在なげにモジモジしていた。
「急いで作らせたのよ。でも想像した通りね。凄く似合ってるわ」
『ああ、やはり姫様にこのようなドレスがお似合いでございます』
『ポポロン、おひめさま』
『きれい、かわいい』
『きらきら、きらきら』
アシュリンが微笑むと、メェリィを始めとするポポロン付きの妖精たちが口々に褒め称える。
当初は侍女として船に乗り込むつもりだったが、侍女では王子との対面が難しくなる。そこでアシュリンの友人として参加することにしたのだ。
アシュリンは満足げにポポロンの頭のてっぺんからつま先まで眺める。
アシュリンのドレスにはふんだんに金糸を使い見事な刺繍が縫いつけられていたが、ポポロンのドレスはシンプルだ。
ただし絹糸を使った繻子織りである。
ポポロンが歩くと、高めのウエストにたっぷり入ったギャザーが光沢を持って揺らめき、さながら海を纏うかのように不可思議な光景となる。
「ネイル王子だって、あなたから目を離せなくなるわ」
アシュリンの口から出たその言葉に、ポポロンはさっと表情を強ばらせた。
「ねえ、エイヴェリーから聞いたでしょ。今、ネイル王子は動けないのよ」
エイヴェリーは父であるオーウェンやリーアムからネイル王子周りの事情を探り出していた。
領事の事件が発覚したあと、保安隊の人事異動が行われた。その時、ネイルの側近も入れ替えられ、全てネヴェズ公の息がかかった者ばかりになってしまった。
王子や女王と私的な付き合いのあるディアミドは、保安隊第一部隊隊長という地位は変わりないが、部下を入れ替えられ腹心とは引き離された。彼は保安隊の執務室から身動きがとれない。
ネイルは監視下におかれ、外に出ることも手紙を出すことも出来ない状態だ。
だからネイルは、けしてあなたを諦めたわけじゃない――アシュリンはそうポポロンに伝えたかった。
ポポロンの軽く首を横に振る。大きな瞳は寂しげでいつもの明るさはなかったが、強い意思の光を宿していた。
失意と諦め――、そして決意を秘めたその表情はあまりにも人間的だ。
もしかしたらこれ以上長く人間界に留まると、もう妖精には戻れないのかもしれない――、精霊の事情は何一つ分からないが、アシュリンは直感的にそう思った。
ふいにノックの音がして、妖精たちが慌てて隠れる。
「失礼致します。時間になりますので、パーティールームへ、お越しください」
そう言いながらドアを開けたのは、給仕姿のエイヴェリーだった。
「いやあ、ぎりぎり間に合ったよ。なんとか堂々と潜り込むことが出来たんだ」
場違いな陽気を振りまくエイヴェリーに、アシュリンは眉をひそめる。
「あんた、目立ち過ぎるわよ」
お仕着せに身を包む下僕は、主人の格を示すために見目麗しい者が選ばれるのだが、いくらなんでもエイヴェリーは華やかすぎる。
「あの……お仕事なんですか?」
事情が飲み込めないポポロンが、ポカンとしている。
「ああ、給仕の仕事にねじ込んで貰ったんだ。表向きはね。で、正体は保安隊の民間協力者エイヴってわけさ」
エイヴェリーがこの潜入劇を楽しんでいるのが、アシュリンには分かった。文句の一つでも言ってやりたいが、時間がない。今は情報交換だ。
「リーアム様やパーソロン公はどうしてるの? ネイル王子のことは分かる?」
「父上は欠席、名代にリーアムを寄越してる。ネイル王子のそばにディアミドがいるけど、ネヴェズ公もベッタリだね」
「警備はどうなってるの?」
「第一部隊と、王子専属の近衛兵がいるね」
「あんた、顔を知られてるんじゃないの?」
「心配ないよ、親しい保安隊員は警備から外されてるし、いざとなったらディアミドに出てきて貰うつもりだ」
エイヴがハンナ救出の立役者であることは、リーアムを通じてディアミドも知っているらしい。今回の潜入もディアミドが手配したものだと、エイヴェリーはアシュリンたちに説明した。
「待ってよ、どんな名目で潜入したの? まさか、ネイル王子とポポロンの密会のお膳立てじゃないわよね」
「みっ――」
アシュリンの言葉に反応して、ポポロンが顔を赤らめる。
その時、初めてポポロンのドレスに気づいたらしいエイヴェリーが軽く目を見開く。
「やあ、ポポロンすごく――」
「本題っ!!」
アシュリンが、脱線しそうなエイヴェリーを睨みつける。
「表向きは新しい領事の動向チェック。で、本命はネヴェズ公さ」
「ネヴェズ公が、何か企んでるの?」
「まあ、しょっちゅう何か企んでる人みたいだけどね。最近は特に変だって父上がね――」
ネヴェズ公は秘密裏に帝国となんらかの取り引きをしている――あくまで懸念でしかないが、パーソロン公は警戒しているのだ。
「この船上パーティーで何かあるってわけ?」
「どうだろう? 取りあえず君たちはネイル王子に会うことに集中してくれたらいいよ」
エイヴェリーは微笑みを湛えながら言った。
(こいつ、ゲーム並に胡散臭い顔してるわね)
アシュリンは、心の中で軽く毒づいた。




