64 玉座を巡る諸問題
次回更新は15日の予定です。
エイヴェリーとアシュリンは小麦粉を帝国産と、レルタ産で使い分けることにした。
来年の夏にはレルタ産小麦を使いカラフルクッキーを量産する。人を雇い入れて、小さなお菓子工場を作る予定だ。
エイヴェリーと妖精たちが作るパウダーには妖精の粉が入っているし、妖精たちが活性化しているレルタ村の作物には、妖精の粉がついている。これなら、普通の人間が作ってもアシュリンらが作るのと遜色ない妖精のカラフルクッキーが出来るだろう。
『虹色』閉店後、エイヴェリーとアシュリンは今後の方針について話遇うのが日課となっていた。
目下の課題は雇用だ。
「出来たら料理に……火の扱いに慣れてる人がいいわ。それと妖精に好かれてる人じゃなきゃ」
「焼き菓子作りだから、竃の妖精たちに好かれてる人が必要だろうね」
アシュリンのそばでアイと赤い妖精たちが、嬉しげに舞っている。彼らは焼き菓子作りのプロである。材料さえあれば、一日中お菓子を焼き続けたいと思っているワーカーホリック妖精たちだ。
「ノリスなら妖精と仕事をしてくれるんだけど……」
歳をとったノリスは、エイヴェリー坊ちゃんの世話と『虹色』の厨房の料理人として二足のわらじを履いている状態だ。あまり無理をさせられない。
「私さえ、いなくなれば解決する問題なんだよ」
エイヴェリーの言葉にアシュリンは表情を曇らせる。
エイヴェリーにとっては、次のステップに進みたいだけなのだが、たしかにセリフ自体はかなりネガティブだ。
廃嫡されたパーソロン家の嫡男エイヴェリー。当初の予定では、田舎で静養中に短い人生を終了するはずだった。
「色々あって先延ばしにしてたけどさ、エイヴェリーが消えれば二重生活ともおさらば出来るんだ」
エイヴがレルタ村に向かう際に、ついでにエイブェリーも療養に出せばよいと、エイヴェリーは考えていた。
頃合を見計らってエイヴェリーの死亡届けが出されるだろうが、廃嫡された青年の死を気に止める者はいないだろう。
「しばらくしたら、地方から妖精の見えるパーソロン系の女性が現れてリーアムの婚約者として、発表されるわけね」
「エイヴとして店には立たないけど、これまでどおりパウダーとパート・ド・フリュイは作って納品するよ」
しかし、この案は両親に『却下』された。正確には『保留』である。
「いきなり、一旦死んで、妖精の見える女として戻って来て、リーアムと結婚しますって言ったら、そりゃ、ちょっと待てってなるわよね」
ご両親に同情するわ、とアシュリンは言った。
「まあ、唐突なのは認めるよ。でもさ、リーアムは兵舎から出られないし、家族できちんと話す機会もなかったんだよ」
「焦る気持ちは分かるわよ。あんたもリーアムも、こっちの世界じゃ、いい歳だものね」
「うん、まあ、結婚を焦ってるわけじゃないけどさ……」
「だけど、妖精が見えるってことになると、あんたが女王になるわけ?」
「……分からない。そもそも、女王か王妃にならなくても結界を維持したり、土地を妖精で満たしたりは出来ると思うんだ」
実際、エイヴェリーは王都やレルタ村の妖精たちに力を与えている。
「結界の仕組みは分からないけど、私は自分の出来ることを隠し立てせずに堂々とやりたいんだ。この国のためにね」
「あんたが純粋にラナンシのために力を使いたいのは分かるわよ。でも利用しようとする連中が絶対に現れるし、ネヴェズ公も黙っちゃいないわ。女王の力だって、まだ分からないのよ」
女王には妖精が見えていない。だが妖精を喰らう闇を持っている。いや、妖精だけではない。人間も喰らうのだ。
エイヴェリーは人攫いの男女二人が闇に飲まれていったのを、思い出していた。あの時、闇を出したのはディアミドだったが、エイヴェリーにはディアミドが闇を出したように思えないのだ。もし、ディアミドが闇を出せるなら、あの木馬の精霊はとっくの昔に闇に喰われているだろう。
「分からないことだらけだし、リスクはある。でも動かなくちゃ、ネヴェズに好き勝手されてるのは、腹が立つからね」
オーウェンやリーアムがラナンシのために働いても、全てネヴェズ公の手柄にされてしまう。リーアムに至っては、成果を上げれば上げるほど左遷され、不遇な食に追いやられるのだ。こんな理不尽がいつまでも続くなんて、到底我慢できない。
妖精が見える女getで一発逆転を狙いたい――というのがエイヴェリーの本音だ。
「あんたが女王になる気がなくても、妖精結界が女王や王妃じゃなきゃ、維持できないものだったらどうすんのよ」
妖精結界の仕組みは三家の当主さえ知らない。歴代の王妃と女王だけの秘密だ。
「表舞台に出るなら、女王か王妃になるしかないと思うわ。たぶん、リーアムとネイル、どちらかと結婚することになるでしょうね」
「ネイル?! 十五と二十歳だよ?!」
「政略結婚なら、全然ありでしょ。あんたが、その気がなくても、周りは絶対そうなるように動くわよ」
「でも、リーアムと結婚するって言えば……」
「そしたら王家がラナンからパーソロンに移る可能性があるじゃない。そんなのラナンが許すわけないでしょ。いい? ラナンはあんたとネイルが結婚するように働きかけるわよ。絶対にね。他の貴族だって、そっちに動くわよ」
「でもネイルはポポロンと……」
『あのう』
「だからっ、政略結婚かつ玉座を巡る問題なのよっ! あんたらの惚れた腫れたなんか、どうでもいいんだってばっ」
『失礼いたしま――』
「ど、どうでもよくない。そんなの、リーアムと結婚出来ないとか、そんな――」
『あのう、ポポロン様のことでお話が――』
「そうだよ、ポポロンだって――って、え?!」
エイヴェリーとアシュリンは自分たちの会話に入り込んでいた第三者にやっと気がついた。
声の方を見ると、そこには羊頭に執事服の妖精がふわりと浮いていた。
『そのう、ポポロン姫のことで、お知恵を拝借したいのですが……』
執事妖精メェリィが、なんだか申し訳なそうに小さな声で話しかけてきた。




