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63 レルタ村のその後

 王都キーアンに帰ったエイヴェリーは忙しく動いた。

 レルタ村での詳細を両親に報告して、土産物はアシュリンに持っていった。


「ちょっと、これがお土産? 毛皮よ! この銀色、信じられないわ……。金貨がいるわよ」

「え? そこまで?!」


 なんだか高価そう……と思っていた土産の品々はやはり高価だった。特に狼の毛皮は最高品質であるらしい。


「これって確か灰色狼だっけ」

「馬鹿ね、これは銀色よ。銀色狼の毛皮って呼ぶの」


 銀色狼と言うのが、分類上、正しいのかどうかは分からないが、銀の毛皮は超高級品であるらしかった。


「あんたも、村人も阿呆ね。こんなのホイホイあげるもんじゃないわ。そりゃ、盗人に目を付けられるわよ」


 馬鹿だ、阿呆だと言われても反論することも出来ず、エイヴェリーはアシュリンの話を黙って聞いていた。


「これ、私じゃ手に負えないからお父様に――、待って、ダメだわ。パーソロン公に報告した方がいいわね。一介の商人で決めることじゃないわ」


 どんどん大袈裟な話になっていくので、エイヴェリーはひたすらびびっていた。

 結局、毛皮も他の土産物も、パーソロン邸に持っていくことになった。



「ねえ、もしかして、あの村というか王都以外って、かなり危ない状態なのかな」


 妖精結界のおかげで外敵は来ない。安定した気候に肥沃な大地。妖精の加護。犯罪は少なく、疑うことを知らず、よそ者が来たら力いっぱい持てなし、外国では金貨が飛び交うような品々を惜しみなく土産にする。

 帝国人ならこんな無防備な民が住む島をどうするだろう?


 エイヴェリーの呑気な問いにアシュリンは、溜息をついた。


「私、ラナンシ人だけど王都しかしらないのよね。ロベルタ商会としてもラナンシの地方は手つかずだわ。私が考えてた以上に、ここは宝の島なのかもしれない。帝国に目を付けられたら……、いえ、もう目を付けられてるけど……」


 アシュリンがブツブツ言っている最中にエイヴェリーは、別のことを思い出していた。


「そう言えば食材は豊富なんだけど、味つけはさほどでもなかったよ。あ、でもビールは美味しかったな」

「あんた、危機感がないのね……」

「あそこに足りないのは、香辛料だと思う。うまくしたら、名物料理になりそうな気がするんだ」


 エイヴェリーは、アシュリンにレルタ村の様子を話した。


「夢みたいな土地ね。王都にそこそこ近くて、海に、草原に、森があるなんて」

「でも、何もない土地だからって出ていく人が多いらしいよ」

「宝の持ち腐れだわ……」

「王都に近いけど、交通の便はすこぶる悪いんだよね」


 街道と宿を整備すれば、王都との行き来も便利になる。物資の行き交いが増えれば、レルタ村の人々も満足するかもしれない。


「あら、いいことばっかりじゃないわよ。簡単に王都に行けるようになったら、出ていく人も増えるかもよ」

「あ……」

「それに、宿屋に現れた泥棒みたいなのが増えるわよ。治安は悪くなるわね」

「…………」



 エイヴェリーはサイモンのことを思い出していた。


 王都への道すがら、エイヴェリーとサイモンが、交わした言葉は多くなかった。


「今のままじゃ、村は廃れちまう。それは分かっています」

「でも、王都は刺激が強すぎる」

「あまり沢山の荷物は持つべきじゃないと、昔の人は言っとります」


 サイモンの言葉の端々から、変わりゆく世界への不安が感じられた。


 彼は今頃、パーソロン邸で歓待を受けているだろう。

 すでにサイモンにや村の情報は、妖精を介して父オーウェンに伝えている。

 サイモンが前言を撤回して、小麦の話をなしにしたら――エイヴェリーは不安だった。




 ありがたいことに、エイヴェリーの心配は杞憂に終わった。

 小麦の大量生産体制を作ることを約束したサイモンは、翌日の朝早くパーソロン邸を出立した。そして交番勤務のリーアムに会うこともなく、一路レルタ村を目指して帰った。

 もっともリーアムの実兄が王都に来たことは、前日のうちにエリン通りの人々に伝わり、夕方にはパーソロン邸に土産物を持参した平民が押しかけたようだ。

 サイモンの荷馬車には、行きと遜色ない量の王都土産(おうとみやげ)が積まれている。『虹色』のお菓子も霞む勢いだ。


 帰りの馬車も盗難の心配があるので、エイヴェリーは妖精たちを使ってサイモンを追った。幸いなことに、ロベルタ商会の人間が兵隊を雇ってサイモンについて村まで行ったので、悪党の出番はなかった。


「これまでラナンシ側からの輸出品って、珊瑚や真珠だったんだけど、量も多くないでしょ。海産物も他の島から獲れるからあまり需要がなかったのよ」


 アシュリンによると、森を有するレルタ村と隣の漁村に商機を感じたロベルタが動き出したらしい。


「大丈夫かな……、乱獲とか」

「絶対とは言わないけど、念をおしといたわ」



 エイヴェリーの父、パーソロン公オーウェンは、女王に大型の荷馬車が通るための街道整備と、保安隊増設を訴えた。

 賄賂の毛皮が効いたのか、女王は乗り気だ。


 あとはネヴェズ公だが、意外にもオーウェンの計画をすんなりと承認したらしい。


 父からその話を聞いたエイヴェリーは素直に喜んだ。


「やはりネヴェズ公も、国の発展に繋がることを無下に突っぱねることは、出来なかったのですね」

「……ああ、そうだね……」


 父オーウェンの返答には奇妙な間があった。エイヴェリーを不審に思ったが、その時はその場で流してしまったのだ。

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