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54 嫌われ公爵

「俺とトマスが副隊長を辞めた時にな、ディアミドも隊長を辞めようとしたんだ」

「ディアミドもかい?」


 リッキーのもたらした情報に、エイヴェリーは驚いた。

 リッキーによると、抗議のために役職を辞した隊員は結構いたらしい。


「ディアミドが最初だったんだ。リーアムに責任があるなら、自分にもあるって言ってさ」


 後に続いた者の解職願いは受理され、降格された。しかし、ディアミドだけは、本人の意思を無視された形で隊長のままだ。

 結果、空いた役職には、ネヴェズ系の人間ばかりになったらしい。


「俺たちは、直接ディアミドと話したことがあるけどな、そうじゃない連中はディアミドごとネヴェズを嫌ってるんだ」


 ネヴェズを嫌うのは平民ばかりではない。リッキーのような貴族出身でも、宮廷に出入りする身分でない者は、やはりネヴェズを疎んじているらしい。


「こんど隊長職になった連中もさ、実力じゃねえんだよ。ネヴェズ公に賄賂贈った奴ばっかりなんだ」

「そこまで、ひどいのか……」


 新しく出来た組織なのに汚職まみれ。

 エイヴェリーは暗澹とした気持ちになった。


「アッという間にネヴェズに汚染されちまったって、みんな言ってる」

「え、みんな言ってるって、それは不味いんじゃないかな。誰が聞いてるか分かんないよ?!」


 リッキーの直裁的な物言いに、エイヴェリーは思わず辺りを見回す。妖精たちのおかげで周りに監視者がいないことは分かっているが、それでも不安になるのだ。


「ああ、分かってるよ。あちこちに鼠が入り込んでる。さっきのジャックみたいな奴らがな」


 鼠とはスパイのような意味で使われているようだ。


「あちこちって、保安隊の中ってこと?」

「そうだ」


 リッキーの表情は暗い。

 同じ職場に監視者がいるのだ。それで本来の業務が出来るのだろうか?


「最近、ディアミドと話した?」

「近づくことも出来ない。俺、第一部隊の副隊長だったんだぜ?」


 第一部隊の顔ぶれもガラリと変わった。

 リッキーによるとディアミドはいつも誰かに囲まれた状態だと言う。


「口の悪い連中はさ、ディアミドの親衛隊とか呼んでるけどな、俺から言わせりゃ監視者だな」

「ディアミドは誰に監視されてるんだい?」

「そりゃ、あの親父――ネヴェズ公さ」

「父親が息子を?」

「知らないのか、あそこの家は無茶苦茶仲が悪いんだぜ」


 リッキーによるとわりと有名な話らしい。

 ネヴェズ公には三人の娘がいたが、全員妖精が見えなかった。腹を立てたりネヴェズ公は、妻と娘を追い出し、新しい妻を迎え入れた。


「新しい奥さんは女の子は産めなかったけど、嫡子を産んだわけ」


 リッキーは、ディアミドの前に女の子がいたことは知らないようだ。


 当然、分かれた奥さんと三人の娘はネヴェズ公を嫌っている。それなら、二番目の妻はどうかと言うと、「療養」を理由に田舎に引きこもっているらしい。


「その……二番目の奥さんの療養って、いつ頃から?」

「さあ、そこまでは分からないなあ……」


 もしや娘の不慮の死で心を閉ざしたのではないかと、エイヴェリーは考えたが、推測の域をでない。


 ディアミドの幼少期がどんなものだったかは分からない。

 だが貴族の間では息子とネヴェズ公は上手く行っていない、というのが公然たる事実となっているらしい。


「まあ、それを偽装って考えてる奴もいるけどな」

「偽装? 親子仲が悪いふりをして、どうなるんだい?」

「ネヴェズ公に不満がある奴が、ディアミドに接触してくるだろ? ディアミドは間抜けなそいつらの情報を不仲説のある父親に差し出すのさ」

「みんな本気でそう思ってるのかい?」

「俺は思ってないよ。だけど用心のために近づくまいって思うのは自然なことだ」


 だからディアミドは孤独なんだ――。


 リッキーの言葉が胸に刺さる。

 ゲームの通りディアミドはいつも笑顔を絶やさない軽い感じの男だ。だが目の奥からは剣呑な光が覗いているし、まとう空気は尖っている。

 もっと彼と話しておくべきだった――。エイヴェリーは、ひどく後悔していた。

 話したからといって、ディアミドを理解できるとは思わない。ただただ純粋に同じ時間を共有したかったと、今さらになって思う。


「短刀術メンバーでパブに行っとけばよかった……」

「そうだよ、お前、なんだかんだ断りやがってさ」

「いや、だって、身分が違うじゃないか」

「はーーっ、王都の奴はこれだから嫌になるよ。貴族なんて、帝国の真似しただけなんだから真に受けるなよ」

「え、そうなの?」

「王都の連中だけだって、貴族とか有り難がってんの。うちだって、地元じゃ誰からも男爵なんて呼ばれたことないぜ?」


 そういえば、父オーウェンもパーソロンの旦那としか呼ばれていない。この国では帝国の貴族制度があまり浸透していないのかもしれない。


 エイヴェリーの考えは、半分正しく、半分、間違っていた。

 彼女の知らない世界では、父は公爵と呼ばれ、市井で人気者のリーアムも全く違う評価を受けていた。

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