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49 暴力

暴力描写があります。

 リーアムが保安隊に戻ると、すでにディアミドが事件現場から戻っていた。


「やられた。陽動だ」


 ディアミドによると、酒に酔った帝国人の労働者の一群が建物の内外で花火を使い暴れていた。幸い軽症者ばかりだったが、酒が回りまともに話せる者はいないようだ。


「誰が花火を持ち込んだのか分からないが、何者かが意図的に連中を焚きつけたんだろう」


 いつものように笑顔を見せるディアミドだが、表情には焦りが見える。肩にいる木馬の悲しみと寂しさが、エイヴェリーに伝わってきた。




 夕方にはパーション家のメイド二人は解放されていた。パーション家から、日用品の盗難届けが出ていないので事件化されなかったのだ。

 ただしハンナは令嬢の貴金属、ドレスを持ち出した上に、帝国工作員の疑いがある。取り調べは続けられた。


 そこに爆破事件の通報があった。結果的には馬鹿げた騒ぎに過ぎなかったが、この時点では最悪を想定して動いていた。


 ディアミドら第一隊と第二隊、第五部隊の一部が出動。第三、四部隊は平民の多く住む区画を担当しているので、召集できない。保安本部は平民で編成された第五部隊の一部に任せられた。



 ハンナは保安隊本部で拘束されていたが、そこへパーション家の使いを名乗る者がやって来た。この人物は貴金属等の盗難届けを取り下げたのでハンナを返すようにと訴えた。担当者が戸惑っていると、領事のサインが入った文書を見せられたと言う。


 平民である担当者は、帝国領事の文書の真偽を確かめることもせず、ただひたすら平伏し、言われるままにハンナを引き渡した。


 そこへ事件性なしと判断したディアミドらが帰って来て、ハンナの引き渡しを知らされた。パーション家に確認したが、ハンナの件は知らないと言う。


「領事館に逃げ込んだ可能性は?」

「ゼロではないが、難しいだろう。領事館一帯は保安隊が常時貼り付いているからな」


 現在、保安隊はハンナの()()に全力を挙げているらしい。


『リーアム』


 エイヴェリーは妖精の力を使いリーアムに話しかけた。


『状況は把握した。港を中心に私も動く。何かあったらすぐに知らせる』

(すまない、だが無理をするな)


 リーアムと僅かな会話を交わして、エイヴェリーは意識を伸ばし、妖精たちに話しかけた。


『この人たちを探すんだよ』


 頭の中にハンナの顔を思い浮かべ、妖精たちに探すべき人物を伝えるが、エイヴェリーの記憶の中のハンナの顔はすでにあやふやになっていた。


 ハンナが消えた時間を考えると、そう遠くには行ってはいないだろう。怪しいのは領事館とその周辺、そして港に停泊中の船だ。


『…………………………』

『いたい、いたい』

『こわい、こわい』


 形のない精霊たちが怯えている。


『エイヴェリー、あそこ、だれかがないてる』


 ルゥルゥが指し示し先には群島から来た、比較的小ぶりの船だ。かつては直接やり取りをしていた大小の島々だが、帝国の領土に組み込まれてからは、帝国の船という扱いを受けている。


『近づけるかい?』


 エイヴェリーは話しかけるが、妖精たちは怯えて近づこうとしない。

 ただちにエイヴェリーはリーアムに船の存在を伝えた。


『帝国の船を検めることは出来るかい?』

(領事の船ではない限りは問題ない)


 船には、ほどなく保安隊がのりこむだろう。


 ハンナはどんな状態なんだろう?

 エイヴェリーは考えた。


 ハンナの容姿は曖昧だし、服や髪型を変えられて普通の精神状態なら、妖精たちには分からないだろう。


 エイヴェリーは領事館に意識を伸ばす。かつて国王の愛人の住まいであった館の内装は、所々帝国式に変えられているようだ。

 実のところ、建物の中に入り、生活する人々を観察するのはあまり好きではない。エイヴェリーの人間の部分が、こんな風に力を行使することに抵抗しているのだ。


 親しげな雰囲気の年配の婦人とラナンシ人の若い男、何かブツブツ言っている男の使用人たち、喧嘩のような怒鳴り声が響く台所、領事らしき男が帝国貴族たちとカードゲームをしている。何か重要なやり取りをしているのかもしれないが、そこには意識を集中し続けることが出来ない。

 領事館のどこにもハンナは見当たらなかった。


(エイヴェリー)


 妖精がリーアムの思考を拾う。


(船には捕らえれている少女を救出した。ハンナは居なかったが、事件だ)

『ラナンシ人?』

(いや、たぶん島の娘だ。この船は海賊船だった)


 情報が整理出来ない。取りあえずこの事件は保安隊に任せるとして、エイヴェリーはハンナを探すことにした。


 エイヴェリーはパーション邸の妖精たちに話しかけて、助けを求めた。彼らはハンナの姿を知っているはずだ。


『きらい』

『いじわる、うそつき、いじめる』

『こわいよ、ともだち、つれていくよ』


 中々の嫌われっぷりである。


『友だちを、どこに連れて行ったんだい』


 エイヴェリーは形のない妖精に話しかける。彼らの言う『ともだち』とは、ハンナが売り払った貴金属のそばにいた妖精たちのようだ。


『こっち、こっち』


 形のない妖精たちが案内してくれたのは、港に酒場だ。

 ラナンシらしいカラフルな壁の可愛らしい外観だが、中からは男たちの品のない笑い声と女の嬌声が外にまで響く。建物の周りには保安隊員がいて、周辺を用心深く見張っている。


『ここ、きらい』

『いや、はいりたくない』


 パーション邸の妖精たちに拒否られたので、ルゥルゥたちが中に入った。

 さほど広くない店内にバーカウンター、テーブル席四つ、それからビール樽が置いてある。満席、と言うより溢れている。外に叩き出された酔っぱらいが保安隊に絡んでいる。

 何がそんなに愉快なのか分からない。取りあえず、男も女も奇声をあげている。


『エイヴェリー、した』

『ギギ、ギギギ』


 どうらや地下があるようだが、入り口がどこにあるのか分からない。が、妖精たちには壁も床も関係ない。

 皆で地下へ向かった。 


 暗い地下室はカンテラの灯りで、辛うじてなかの様子が分かる。

 男の黒い影が二つあった。


 さして彼らの足元にある、塊。


「中々、死にませんねえ」


 男の一人が、()()を蹴る。


「もういっそ、縊り殺しちまったら、どうですかい?」

「いや、保安隊による拷問死に見せなきゃならんからな。不自然な跡があるのはまずい」

「水でもぶっかけますか?」

「馬鹿、地下だぞ。でも、そうだな。ワインの酸っぱいヤツでもかけとくかな」


 男は笑いながら、再び塊を蹴る。塊は細いうめき声をあげながら、体を伸ばした。頭がカンテラの灯りに晒される。

 そこには無惨に腫れあがった顔があった。

 長い髪が無造作に散らばっている。女だが、女ということ以外は分からない。


(ああ……、知らせないと……)


 衝撃でエイヴェリーの思考は鈍る。


「しぶといな、こいつ」


 男が忌々しそうに呟いた。




『リーアム……』

(エイヴェリーか)

『早く……、死んでしまう……』

(見つかったのか?)

『急いで……、お願い……』

(エイヴェリー? 君は泣いているのか?! エイヴェリー?)

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