33 塩対応がデフォルトです
王道ルートネイル王子攻略は比較的簡単である。しかし、情報の少なかった初期は失敗したユーザーも多かったのだ。
攻略対象者の多くはポポロンにあらゆる要求をしてくる。彼らの要求に応え満足度を上げることが基本的なプレイとなるか、ネイル王子だけは少し気をつけないといけない。
ネイル王子の要求はかなり理不尽だ。
【お、やっと店を開けたか。よし、商品を全て買うぞ】
【おい、僕に付き合え。仕事中? しるかっ】
【お前、それ、最後のマカロンじゃないか。よこせっ、僕のものだ】
【今日は店を閉めるんだ! 理由? お前には関係ない】
俺様ならぬ僕様キャラとして、ユーザーのヘイトを稼ぐのだ。
攻略のために我慢してあらゆる我が儘に付き合うと、最後には【思ったよりつまらん奴だな】【失望した】などと言って去って行く。キャラデザに惹かれたのに心が折れたしまったと言う声も少なくない。
しかし、コツを掴めば比較的攻略は簡単だ。
キーワードは【塩対応】である。
まずあからさまに理不尽な要求はキッパリと断る。そうするとネイル王子は顔を真っ赤にしてわめきちらしながら去って行くが、しばらくすると多少横柄だが普通の客としてお菓子を買っていく。
再び調子こいてやらかしたら、すかさず【いいえ】を突きつける。ネイル王子怒る→反省する→まともになる→調子こく――この繰り返しである。
最後は【みんな、僕が何を言っても逆らわない。ただへらへら笑うだけだ。君は違う。君だけが僕に本気で向き合ってくれた】と言って、告白が始まるのだ。
エイヴェリーたちは、事前にネイル王子対策を作っておいた。と言っても一般国民らしく王子に逆らわず、理不尽な要求を飲み、ペコペコしさえすれば問題ないだろうと高をくくっていたのだ。
まさか総菜屋をやってもポポロンに寄ってくるとは思わなかった。しかも妖精の国から来たポポロンに王子という権力者は理解出来ない。
物怖じも、こびへつらいもしないポポロンの態度は新鮮に映ったことだろう。
お茶とぼた餅を食べ終わったネイルはすぐさまポポロンの元に向かった。
そして、
「王宮に献上する栄誉をやろう。その菓子をすぐに百個用意するがよい。母上も喜ばれるだろう」
などとのたまったらしい。
「申し訳ありません。このお菓子はここにある分で全てです。あと、お金も貰いますよ」
ポポロンはあっさり断った。
ネイルはゲームと同じく顔を真っ赤にして怒ったが、ポポロンは動揺することもなく泰然としたものだったらしい。
焦ったのはアシュリンだ。これでは好感度上昇ルート突入である。
そっと「あれはネイル王子よ」と教えたものの、その真意が分からなかったポポロンは、
「わあ、王子様だったんですね。ようこそ、王子様」
と、挨拶したらしい。
「お、お忍びで来てるんだぞっ」
「あら、そうでしたか。また来てくださいね。あ、そうだ百個は準備できませんけど、お母様の分なら用意できますよ。餡、きな粉、黒ゴマの三種類を一個づつ、いかがですか」
王子を翻弄するポポロンの様子にいつの間にか出来ていたギャラリーが、内心拍手喝さいを送っていたことだろう。
「もうね、ネイルの好感度メーターがギュンギュン上がっていくのが見えてきそうだったわ」
アシュリンはポポロンとネイルのやりとりに割って入った。ぼた餅は日持ちがしないこと、庶民向けで上品さに欠けること、大きく崩れやすいので貴婦人が公式な場所で食べるには向かないことなどを説明した。
結局、三種類のぼた餅の通常サイズ三個づつ、一口サイズを二十個づつ。夕方までに作ることになったようだ。
ネイル王子攻略失敗の鍵は、とにかく理不尽な要求を飲み続けることだ。ヘラヘラ笑ってゴマすりに努めれば、いずれは興味を失って去ってくれるはずだ。
「――と言ってもポポロンに説明するのは難しいわよね。とりあえず王子には逆らうなって言っといたけど……」
前途多難であることは間違いない。先の予測できなさに二人は頭を抱えた。
その時、訪問を報せるベルの音が鳴り響いた。エイヴェリーは妖精をサッと隠す。
「また、ネイルが来てポポロンに絡んでないといいけど……」
アシュリンがブツブツ言いながら、王宮からの使者をむかえに行く。その後ろからナイト、いや使用人のようにひっそりとついて行ったエイヴェリーは、訪問者の姿を見てギョッとした。
「初めまして、アシュリン嬢、いや、『虹色』の店主アシュリン殿。それから、えーっと従業員のエイヴくん、でいいかな?」
わざとらしく喋っているのはディアミドだった。
なんであんたが来るのよっ、と言うアシュリンの心の声が聞こえてきそうな展開である。
もちろんアシュリンは如才なく女主人として挨拶をして、ディアミドがネヴェズ家の名を出すと初めて知ったように驚いてみせた。
そういえばリーアムは名乗りながら挨拶周りをしているが、このディアミドはフラフラあちこちに出現する割に家名を名乗ることはない。
エイヴェリーは店員Aとして空気と化しているつもりだったが、ディアミドはそれを許さなかった。
「やあ、エイヴ、君に謝りたくてわざわざ来たのさ。殿下に面白いお菓子屋が出来る予定だって話しちゃったからね。まさか、いきなり飛び出すとは思わなかったよ。いや、済まなかった」
(お前か! いや、私が喋ったからか……)
前にいるアシュリンからぶわっと怒気があふれてきたように感じたが、エイヴェリーは己の精神衛生のために気のせいだと思うことにした。
「この度は王宮からの発注という栄誉をたまわり、誠に有り難うございます。正式に店の運営が始まりました際には是非、今一度ご利用下さいませ」
アシュリンは「まだ準備も出来てないのに来んなよ」と、言外に匂わせながら言ったが、ディアミドは悪びれることなく対応する。
「正式に開店した折には、個人として買い物に来るつもりだ」
いや、来んな。




