28 妖精界とラナンシ島 1
誤字報告ありがとうございます。
「アシュリン、見てごらん」
エイヴェリーの手のひらには形のない妖精が赤く輝いている。
「この子……」
「ずっと君のそばにいたんだ。君がポポロンになりたいって言いながら泣いていた時も寄り添ってたよ」
赤く輝く妖精はぽぅっと飛んでアシュリンの肩にとまる。
「なんだかくすぐったいような気持ちがするわ……」
「この子には言葉がないけどね。君のことが凄く好きだって伝えたいんだよ」
「そう、これがこの子の『好き』って気持ちなのね」
アシュリンは肩の光に頬を寄せた。
「そばにいてくれて、ありがとう。私もあなたが好きよ」
『……すき』
「え……」
エイヴェリーとアシュリンは同時に声を上げた。
形のない妖精が喋ったのだ。
エイヴェリーにとっては初めてのことではない。最近、よく形のない妖精に話しかけることがあるが、中には言葉を交わせる者もいるのだ。
その時は、形のない妖精にも会話が出来る者がいるのだと思っただけだった。
(もしかして妖精は『成長』するのか?)
『アシュリン』
「! そうよ、私はアシュリン。あなたが好き。大好き」
『だいすき』
妖精の体がふわりと広がった。
『アシュリン、すき。だいすき』
赤い光が髪の毛のように揺らめき、真ん中には目と口のようなものができた。炎の形の妖精だ。
「そんな……形のない妖精が形を持つなんて……」
思わずつぶやくエイヴェリーの脳裏に何かが浮かんだ。
「この子の名前は――『アイ』」
エイヴェリーが妖精を名付けると、アイの形は再び変化した。
目と口は人間の顔らしく変化し、むき出しの手足と炎のドレスを纏ったような胴体ができた。炎の女の子だ。
「え、何この子、可愛い……。アイ?」
『アイ、アシュリン、好き』
「好きよ! 私もアイのこと大好きっ」
新たに誕生した形のある妖精に周りの妖精たちも興奮している。
『アイ、あそぶ』
『アイ、ともだち』
『ギギギ、ギギ』
アシュリンの周りを妖精たちが飛び交う。
「信じられない。こんなことがあるなんて」
アシュリンは目に涙を溜ながら、喜びに震えている。
(いや、私もわりと信じられないんだけど……)
ここまで劇的に変化した妖精を今まで見たことがない。
(ええっと、なんでこんな変化がおきるわけ?)
『霊格が上がったのですよ』
エイヴェリーの疑問に答えるものが現れた。
声の主はメェリィだ。
そして彼の隣にはポポロンと、ゲームでお馴染みの妖精たちがいた。
どこからともなく現れたポポロンは、紫の髪に金の瞳。体全体が淡い光に包まれている。
「今日はなんって素晴らしい日なの……」
アシュリンは感極まったらしく、目頭を抑えていた。
一方のエイヴェリーは処理すべき情報が多すぎてパニックに陥っている。
「やあ、ポポロン、メェリィ。パンの味はどうだった? 今、お菓子の試食会さ。君たちも参加してくれたまえ」
結果、エイヴェリーは何事もないかのように闖入者たちを試食会に招き入れたのだ。
『申し訳ありません、エイヴェリー様。お約束を守ることができませんでした』
出されたお茶を飲みながら、メェリィが謝罪する。
「いや、構わない。主人を裏切るような真似をさせた私の方が済まないことをしたと思っている」
エイヴェリーはポポロンの方を向いた。
「君はどこまで知ってるの?」
『はい、エイヴがエイヴェリーという名前で、私と同じ精霊だと言うところまでです』
精霊?
エイヴェリー心の中で首を傾げた。
「何よ、精霊って? 初耳だわ」
アシュリンの言葉に「私も初耳だ」と、応えたエイヴェリーだが、そういえば以前妖精たちから『精霊』と呼ばれたような気がする。
『エイヴェリー、せいれい』
『エイヴェリー、いばりんぼせいれい』
『エイヴェリー、おこりんぼせいれい』
ルゥルゥたちがはしゃぎながら飛び交う。
「だまれっ」
エイヴェリーが妖精たちを睨みつけるが、彼らはますます調子に乗って騒ぎ始める。
そのうち、ポポロンの妖精たちまで合流し始めて収拾がつかなくなりそうなところでメェリィが妖精たちを静めてくたれた。
静かになったところでエイヴェリーは自己紹介を始めた。
「私はエイヴェリー。妖精を見ることが出来る女の子が生まれてくる家系の出身だ。訳合って力を隠し性別を偽って生きている」
エイヴェリーは擬態を解き、本来の姿を現した。
海のように色を変えながら揺れる髪に、薄い紫の瞳。全身にまとう光はポポロンのそれより強い。
『私は自分が妖精の見える人間なのか、妖精そのものなのか分からないんだ。ところがさっき君は私を精霊と呼んだ。私と同じ精霊だと……』
『はい、あの、エイヴ……エイヴェリーは精霊です』
『妖精ではなく?』
『ええっと、妖精とも言えます。妖精の中で霊格が高い者を精霊と言います』
ゲームにはなかった情報である。
エイヴェリーはアシュリンの方を見たが、彼女は恥ずかしそうに目を伏せる。散々舐め腐った態度をとられていたので正直気分がいい。
(偉い精霊様だぞー。敬え、敬え―。って格とか大丈夫かな)
性格悪いと降格するんじゃないかと、不安になるエイヴェリーであった。
『あー、こほん。ここからはわたくしめが説明いたします』
執事妖精メェリィが、咳払いとともに説明を始めた。
『淡い光の中に生じる核、まあ魂とでも言いましょうか。これが妖精でございます』
メェリィによると核は脆く、簡単に消えてしまうのだと言う。
『波間に揉まれて生まれては消える、海に浮かぶ泡のようなものでございます。その中から、独立したものが形のない妖精となるのです』
『霊格が上がる、ということか』
『はい、その通りです。形のない妖精は感情を知り、意思を持ち。他の生物と会話をするようになり、やがて形のある妖精となるのです』
『アイみたいになるんだね』
名前を呼ばれたアイは嬉しげにエイヴェリーの周りを飛び交う。
『だけど私はあれほど急激な変化を見たことがないよ』
『エイヴェリーの、ちから、つよい。ようせい、げんきになる』
『……私の影響を受けたのか』
メェリィによると妖精の霊格は周りの影響を受けやすいのだと言う。
『妖精界には人間界とは比べものにならないくらいの形のある妖精や精霊が沢山おります。エイヴェリー様のお力もますます強くなることでしょう』
『いや、別に強い精霊になりたいわけじゃないんだよ。そもそも人間から生まれた私がなぜ精霊になったんだい?』
正直、エイヴェリーは精霊と呼ばれることに強い違和感がある。
『そのことですが、エイヴェリー様。一度、妖精界に行ってみてはいかがですか?




