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21 嵐吹く 3

 店主たちの計画はこうだ。

 まずはアシュリン含む地下の四人を殺し、服屋の店舗に火を放つ。隊長は何食わぬ顔で隊の指揮に戻り、店主と女は混乱に乗じて港に入る。


「私はしばらく帝国で大人しくするしかないだろう。君との関係もこれっきりだ」


 店主はそう言うと、何やら重そうな袋を隊長の前に出した。隊長は袋を開け、小さく頷く。金貨でも入っているのだろうとエイヴェリーはあたりをつけた。


「時間がない。下の始末は全員でしよう」


 店主の言葉に隊長と女がうなずく。


(まずい、どうする?)


『わるいやつー』

『やっつけろー』

『これは一大事。殺して、火を付けるなどとんでもない。ああ、ポポロン様』


 すでに妖精たちは、悪党三人組の頭を叩いたり、膝を蹴ったりしているが、もちろん人間たちは気がつかない。

 メェリィなら自らの意思で能力を解禁させ、物理的な影響力を行使することも出来るはずだが、突発的な事態にどう動いていいのか分からないようだ。


(みんな、今からそっちに行く)


 エイヴェリーは飛んだ。その髪は青く、時折海のように色を変え、体全体は不思議な光を帯びていた。妖精の粉がふわりふわりと雪のように地上に降りていく。

 人にも見えるはずだが深夜である。今のところ誰かに見つかって騒動にはなっていない。

 しかしエイヴェリーはある程度の人間に不思議な現象に『遭遇』して貰うつもりだ。


(この家が分かるかい。今夜はここでパーティーだよ)


 エイヴェリーはラナンシ島には珍しいシックな色合いの店舗の景色を妖精たちに示した。


『パ……、ティー……』

『アソブ……』

『…………』

『…………』


 形のない妖精たちは明確な意思を持っていないことも多い。しかし、エイヴェリーの声かけに皆が喜び興奮していた。


 あちこちで形のない妖精たちが赤く、黄色く光りはじめる。その光はとある一点に集まり始めた。服屋の店舗の周りだ。


 ディアミドが手勢を連れてやって来ても間に合わないかもしれない。可視化された妖精たちを見せることで近場の兵隊や警邏の人々が服屋の店舗に集まるだろう。そうなれば人を殺して火を付ける時間はないはずだ。





「隊長! 隊長!」


 ドアの外から聞こえる声に三人はぎょっとしたように顔を上げた。


「なんだ? 警邏どもは追い出せと言ったはずだぞ」


 隊長が低い声で怒鳴る。


「いえ、それが、あの……」

「どうした、はっきり言え」

「妖精ですっ」

「はあ? お前、何を言って……」


 その言葉とともに部屋の中の妖精たちも可視化された。


『わるものー、わるものー』

『ギギギ』

『アシュリン、しばった。アシュリン、いたい』


 妖精たちはポカポカと三人組の頭を叩いたり膝を蹴っている。力はないが、煩わしいことこのうえない。

 ついにメェリィも姿を現した。他の妖精とは違い知的に悪者たちの説得し始めた。


『あなた方は悪い心を持っていますね。いけませんぞ、いけませんぞ。その心を抱いたままだといずれ魂が闇に溶けてしまいますよ。さあ、悔い改めなさい』


 魂が闇に?


 メェリィの言葉にエイヴェリーは、例の黒いもやのことを思い出した。

 だが今はそのことを気にしている場合ではない。



「外は任せた」


 店主は妖精たちを振り払いながら、隊長に言った。隊長はうなずき、部屋から出る。


「下の連中はどうします?」


 視界を邪魔する妖精に顔をしかめながら女が訊ねる。


「捨てておこう、火を付ける」


 とりあえず炎を放ち、捕らえた者たちは見殺しにするつもりのようだ。


『止めたまえ』


 エイヴェリーは応接室に残る二人の前に現れた。突如として現れた光をまとう人の形に、店主と女は唖然とする。


『閉じ込められている人はどこだい?』

「そ、そこだ。おい」


 店主は女に目配せする。女が本棚をスライドさせると、そこには扉があった。


『ここだよ』


 ルゥルゥが扉を開ける。


『アシュリンの拘束を解いて助け出しておいで』

『はーい』

『アシュリン、アシュリン』

『あそぼー』


 妖精たちは興奮状態で地下に行く。初めてアシュリンの前に姿を見せることが出来るのがうれしいのだ。


『さて……』


 エイヴェリーは二人の男女を見る。


『もうすぐネヴェズの若君も到着されるだろう、観念するんだね』


(メェリィ、姿を消して声だけになって外の人間をここへ誘導してくれ)

『「かしこまりました」』


 メェリィはエイヴェリーの意図を察し、すっと姿を消して頭で会話した。さすがは執事妖精である。


 しばらくすると隊長の怒声とともに『あちらに人が捕らえられておりますよ』と言う声が聞こえた。いずれここにも人がくるだろう。


 エイヴェリーはフワリと宙を舞うように、開け放たれている地下室のドア付近に移動した。


『さあ、逃げたければどうぞ』


 妖精化したエイヴェリーだが、ドーンと魔法を放って敵を倒すような術は持ってないので、さっさと部屋から出ていってもらって役人なりなんなりに拘束して貰った方が都合がいいのだ。

 無駄にここで抵抗されてアシュリンらが人質になるほうが厄介だ。


 店主と女は入り口に向かわず地下室行きのドアの反対側に移動した。壁に掛けてあった巨大な絵画をスライドさせると扉が現れた。彼らは素早くドアを開け、闇の中に消えていったのだ。


(忍者屋敷かよっ)


 エイヴェリーは唖然として二人の逃亡劇を見送った。


「誰? 妖精なの?!」


 後ろから声が聞こえる。振り向くとアシュリンがいた。


「え、あなたエイヴ?」


 エイヴェリーは素早く()()し、元の黒髪に戻った。


「詳しい説明はあとでするよ。それより、他の人は?」

「それが……」

『みんな、おそと、こわいこわい、だって』


 それぞれの事情から密入国を企てていた彼らは純然たる被害者とはいえないだろう。救出されたところで明るい未来があるとは思えない。


「……まあ、いずれ役人に引っ張り出されるだろうね」


 気の毒だが後のことはしかるべき機関に任せるしかない。

 エイヴェリーは巨大な絵画の隣の扉を指さした。


「店主と女はあそこから逃げていったよ。私は追うから君は救助を待っていたまえ」

「待ってよ、なんって説明するの」

「君が見たままを説明すればいい。できれば私のことは黙っていてくれ」

「はあ? どうやって――」


 アシュリンの声を無視して、エイヴェリーは妖精たちとともに消えた二人を追っていった。

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