18 エイヴェリー、沈黙を貫く
「ポポロンになれなかったのは残念だけど、せめて友だちになって妖精を見せてもらえたらって、一緒に『虹色ターキッシュデライト』を作れたらって思ったのに、あの子、惣菜屋になってるじゃない。こんな理不尽なことってある?」
いや、どちらかと言うとあなたの言動の方が理不尽ですが、とエイヴェリーは心の中でツッコミをいれた。
「まあ、惣菜屋を選んだのは仕方ないことよね。妖精が見たいから友だちになりたいなんて不純だと思うけど、でもポポロンのことがほんとうに好きなの」
アシュリンはため息をついてから押し黙り、うつむき、さめざめと泣き始めたのだ。
エイヴェリーは慌てて辺りを見回した。これでは女の子を泣かしている男に見えない。アシュリンの知り合いにでも見られたら大事になるかもしれない。
『みてるよ』
『みんな、みてるよー』
妖精たちが追い打ちをかける。
『ディアミド、いるよ』
ディアミド?!
『エイヴェリー、みてる』
『ごあいさつ、する』
「こら、やめなさい」
ディアミドの名前に動揺したエイヴェリーは妖精たちへの言葉を思わず口に出してしまった。アシュリンがビクリと肩を震わせ、頭を上げる。
「ああ、すまない。君じゃないんだ。えーと……、君は妖精が見たいんだね」
エイヴェリーはアシュリンに話しかけながら、頭の中では妖精たちと会話を続けた。
(ディアミドにちょっかいをだすな)
『はずかしがりやのようせい、いるよ。ディアミドのうしろにかくれてる』
妖精たちはディアミドの肩のあたりにいる木馬の妖精と遊びたいようだ。
(おまえたち、ディアミドをよく見ておくんだ。あと、彼の妖精は恥ずかしがり屋みたいだから、そっとしておきなさい)
『はーい』
『はーい』
妖精に指示を出し終わると、すぐさま意識をアシュリンに向けた。アシュリンはエイヴェリーの挙動不審にまったく気がついていないようだ。
「そうよ。まあ、この国の人間ならみんな妖精を見てみたいわよね。女王様が力を使ってくださればいいのに」
「ああ……、うん。そうだねえ……」
アシュリンの言葉に適当に相打ちを打ちながら、エイヴェリーは別のことを考えていた。
ディアミドがたまたま公園にいるとは思えない。兵隊たちの騒動のあたりから見張っていたと考える方が自然だろう。彼は何故自分たちをマークしているのだろうか?
「妖精が見たい。一緒にお菓子を作りたい。せっかくこの世界にいるんだもの」
再びうつむくアシュリンの周りに形のない妖精たちが寄り添う。
エイヴェリーは迷っていた。妖精が見えるという事実を彼女に打ち明けるべきだろうか? いや、危険だ。パーソロン家の内情を話さず納得してもらえるとは思えないし、貴族の勢力争いに巻き込まれる危険がある。少なくともディアミドが監視している今のこの状態で言うべきではないだろう。
「えーと、私は、ポポロンが望む道へ進めるように見守っているんだ。君がポポロンの友人になってくれたら、きっと彼女も心強いと思うよ」
「ねえ、あんたって何者なの? 隠しキャラとかじゃないの」
「今は話せない。ただポポロンの敵ではないし、君を応援したいと思ってるよ」
「ふうん? まあ、あんたには興味ないからいいんだけどね」
ひどい言い草である。
「ところでさっきからディアミドがこっちを見てるんだ。彼とはもう会った?」
「えーっと、誰だっけ」
「…………」
どうやら本当に攻略対象者に興味がないようだ。
「あ、あー、分かった。確か三家の……ネヴェズの人ね。そうか、ゲームに出てきてた奴だわ」
「君ね、その口の聞き方は直した方がいいよ。そのうちボロが出るから」
「分かってるわよ。で、彼がどうしたの」
「私たちを見張っているみたいだ。どんな疑いをかけられているか分からないが口裏を合わせておいた方がいい」
エイヴェリーとアシュリンは、共にポポロンの惣菜屋の常連客である。たまたま兵士たちの横暴に出くわし、堪らず抗議の声を上げた。後で怖くなったアシュリンはエイヴェリーに付き添われて帰路につく途中に休憩のために公園にやってきた。そこで疲れと恐怖のために泣いてしまったのだ――と言う設定にした。
そんなわけでエイヴェリーはアシュリンを家まで送ることになった。
屋敷の手前で使用人らしき人物に捕まりいろいろと詮索されそうになったが、アシュリンに任せてさっさと退散した。
パーソロンの末席の問題児、穀潰しのエイヴが大商会の令嬢にちょっかいをだすなどあってはならない。
パーソロンの離れに帰り、今日の出来事を父オーウェンに手紙で報告する。兵隊の話をすると外出禁止になるかもしれないが、情報が欲しい。ディアミドの動向も気になる。
ノリスに手紙を渡すと、エイヴェリーは一人、部屋に残された。頭を占めていたのはアシュリンのことだ。
前世では愛したゲームを取り上げられて衰えて死んでしまったらしいアシュリン。彼女のポポロンへの熱い思い――。
(アシュリン、君の周りには沢山の妖精がいて、彼らは君を愛してるんだ)
エイヴェリーはアシュリンにそう伝えたかった。
妖精を見せて一緒にお菓子作りをすることはエイヴェリーにも出来る。
(でも何も伝えないことが、彼女を守るんだ)
エイヴェリーは自分に言い聞かせるように、心の中で呟いた。




