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17 アシュリン、前世を語る

 騒動が収まり、人々は三々五々に解散していった。

 エイヴェリーも立ち去ろうとしたが、なぜか付いてきたアシュリンと共に公園にいる。


 アシュリンについて分かったことは多くない。ロベルタ商会の会長の六人いる子どものうち、四番目で十七歳。母親は義母。帝国で上流階級の子どもの通う学校で学んだこともあるらしい。

 若く美しく健康な未婚女性。が、人となりは分からない。

 十七歳の少女の評判なぞこんなものだろう。


 エイヴェリーにとっては関わりたくない人物であるが、今日のアシュリンの振る舞いには心惹かれるものがあった。

 無謀だが兵士に怯まずポポロンを庇い、店の片付けを率先して手伝った。単なる金持ちの我が儘なお嬢様と言うわけではないようだ。

 もしかしたら前世は初晴よる年上なのかもしれない。


 エイヴェリーとアシュリンは空いているベンチに座った。


「ねえ、君、ロベルタのお嬢様なんだよね? 昼とはいえ、男と二人きりになって大丈夫なのかい」


 アシュリンは良家のお嬢様にしては行動が自由すぎる。普通、付き人が付いてくるものだ。


「うちは放任よ。帝国にいた時は一人じゃ通りを歩けなかったけど、キーアンじゃ、みんな自由にやってるじゃない」


 アシュリンによると帝国では治安と身分の問題で、一人で行動することが許されなかったらしい。


「身分に相応しくない行動をするとすぐに評判が落ちるの。上流階級から追い出されるわ。その点、ラナンシはのんびりしてていいわ」

「でも今日みたいなことがあると、そうも言ってられないね」

「そうね。ほんとは今日、止められたのよ。最近物騒だから一人で歩くなって。無視したけどね」


 やはり跳ねっ返りであった。


「人が消えてるって噂はあったけどね、私も信じてなかったのよ。田舎の子が都会に来て音信不通になるなんてよくあることらしいから。でも今回消えた子は貴族じゃないけど三家の関係者だったみたいね」

「三家の!?」


 三家、と言う言葉にエイヴェリーは思わず反応したが、アシュリンはさほど気にせず話し続ける。


「商会の方にも偉そうな役人が来たわ。帝国に人身売買をしてる組織があって、うちがそこと繋がってるんじゃないかって。少しでも帝国に繋がりがありそうな人間はみんな睨まれてるみたい」

「帝国の人身売買組織って確かな話なのかい?」

「帝国じゃ、公然の秘密だったわ。ラナンシ島の人間で珍しい髪や目をしてるとよく売れるんですって。私も危ないことが何度かあったくらいよ。さらわれないまでも髪を売れって追い回されたりね」

「まさか、そんなことが……」


 エイヴェリー思わずアシュリンの赤毛を凝視してしまった。彼女の髪は赤薔薇のような明るく美しい光沢を持っている。カツラにするために手に入れたいと思っても無理はない。


「でも、それは帝国にいた時のことよ。ラナンシ島まで来て人狩りをしてるかどうかまでは分からないわ」


 しかし現に大規模な捜査が行われているのだ。本当に帝国の犯罪組織がラナンシに入り込んでいるのかもしれない。


「開放政策で帝国の人間がいっぱい来てるけどね、なんか最近雰囲気悪いのよ」


 アシュリンはため息をついた。


 エイヴェリーは度々市井を巡るものの細々とした変化には気がつかないでいた。ラナンシは平和な国、王都キーアンは都会だが安全な場所で、人は穏やかに暮らしているものだと思っていた。


「もしかして、この国は意外と物騒なのかな?」

「あら、帝国に比べれば、天国みたいなもんよ。他の国はもっと怖いみたいだし。あんたは、外国に出たことないの」

「外国どころか、キーアン以外の土地は知らないよ」

「いやだ、ほんとに箱入りなのね」


 本当に箱入りなので否定しようがない。


「でもこんな物騒なイベント、ゲームには出てこなかったじゃない。なんかゲームと違って色々裏がありそうな世界よね」

「…………」


 そうだよね、と頷いてしまいたいが、うかつなことも言えない。


「ポポロン、可哀想だわ。妖精の国から来たのに、帝国の人間扱いなんて……」


 アシュリンはエイヴェリーの意向など頓着せずに話を進める。


「あのね、君、妖精の国から来たとか適当なことを吹聴するものじゃないよ」

「あら、こんな話、あんたとしかしないわよ。転生者じゃないと分からないもの」


 エイヴェリーが転生者であることは、アシュリンにとって確定事項のようで、「あんた」と言う雑な呼び方も同じ世界の同年齢の人間に対する気安さからなのだろうと、エイヴェリーは考えた。

 傍若無人に見えるアシュリンだが、ふいに暗い顔をして俯きながら、声を落としてボソボソと話し始めた。


「私、どうせならポポロンになりたかった。ポポロンになって可愛いお菓子をいっぱい作りたかったし、お菓子でみんなを笑顔にしたかった……」


 その声があまりも悲しげだったので、エイヴェリーは何かフォローしなければいけない気持ちになった。


「君は大きな商会の娘さんなんだろう? お菓子を作って売ればいいじゃないか」


 ゲームに出てくるアシュリンは破滅必至な悪役令嬢というわけではない。少し当たりがキツいが、美人でお金持ちの女の子だ。

 家は裕福、甘やかされているようでもあるし、本人は行動力もある。かなり恵まれていると言っていいだろう。


「ダメよ。妖精が見えないんだもの。私は妖精とお菓子が作りたいの。アシュリンじゃ、ダメなのよ」


 赤毛の少女の表情は暗い。


「そりゃ、アシュリンが恵まれてるのは分かってるのよ。前の頃の十七歳って言ったら結婚して旦那に殴られてたしね」


 ?!

 DV夫? 十七歳?


「それに戦争がないのがいいわ。前は空襲に怯えてたからね。帝国はしょっちゅう戦争してるけど中央は戦火とは関係なかったから」


 ――この人、戦争をリアルで知ってる?!


 エイヴェリーは混乱していた。

 もしかして日本人ではない? いや、あのゲームは日本で開発されたものだ。外国人ユーザーかもしれないが、しかし――。


「子どもも孫も結婚してやっと自分の時間ができたから、携帯の小さい文字を頑張って読んでポポロンになりきってゲームを楽しんだの」


第二次世界大戦(せんそう)を知ってて、孫がいて、『ポポロン』ユーザーって……、高齢――、いや――)


 ――後期高齢者、と言う単語がエイヴェリーの頭に浮かんだ。


「私にとって『ポポロン』は単なるゲームじゃなかった。体験できなかったもう一人の私、ありえなかった少女時代だったのよ」


 情報の洪水に混乱するエイヴェリーは、アシュリンの告白を黙って聞くしかなかった。


「お菓子を作って見たかった。ポポロンが作るようなキラキラしたお菓子。でも台所はIHとかでガスじゃなくなったから料理も億劫になったの」


 スマホは出来るのに、IHクッキングヒーターは使いこなせなかったらしい。

 正直、そこら辺のことはピンとこない。初晴もエイヴェリーも体験したことのない世界だ。


「楽しみは『ポポロン』だけだったのに、特養に入って携帯を取り上げられてね。もう生きてる意味がないじゃない? 最期は魂が抜けるようにスーッとね」


 トクヨウ???


「はあ、あの……。だいぶ年上の方だったんですね……」


 アシュリンの前世語りに圧倒されたエイヴェリーは、思わず転生者であることを告白してしまったのだ。

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