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12 彩りピンチョス

 結局、両親との話し合いは出来なかったのでエイヴェリーはパレードで起こったことを手紙に書いて渡した。ディアミドのことは所々ピンクの入った薄い金髪の青年とだけ伝えた。これだけで父オーウェンなら誰のことか分かるだろう。


 女王から発生した黒いもや、ネヴェズ家のディアミドと彼の後ろにいた形のある妖精のことを調べてくれるよう頼んだ。

 しかし妖精についてはたいした情報はないだろうと、エイヴェリーは考えている。


 十数年間、離れの二階に引きこもりながら、エイヴェリーは妖精に関する文献を手当たり次第読み漁った。結果分かったのは、妖精に関するまとまった研究は、国内外、どこを探しても存在しないということだ。あるのは民間伝承を集めた文献くらいだ。

 妖精を始祖に持つ三家ですら先祖の思い出話のような内容しか伝えられていない。

 パーソロン当主のオーウェンでさえ、今回エイヴェリーが行った妖精の使い方に驚いている。

 妖精結界に守られ、誰もが妖精を信じ愛してやまない国だが、研究対象に妖精を選ぶ人はいないようだ。


 ネヴェズ家の方はそれなりに収穫があるだろう。

 エイヴェリーはこれまで、ネヴェズ他、この国の有力な一族や政治権力にあまり関心がなかった。いずれ廃嫡される身では、権力やら派閥やらを知る必要はないからだ。

 エイヴしか興味がなかった初晴(はつはる)の記憶の中でも、ディアミドの存在感は薄い。

 ゲームの内容を書き写したノートには、【ディアミド、銀髪でピンク、陽気で明るい】としか書いていない。

 あと付けたすなら年齢、たしか同い年くらいだった気がするから二十歳、身長は180くらいだったかもしれない。

 実際に会ったディアミドの髪は白っぽい金髪で、軽い口調と微笑みを浮かべていたものの瞳は冷たく光っていた。

 髪の色は完全に記憶違いだが、ディアミドは陽気なキャラだったのは間違いない。彼にはゲームでは見えなかった違う顔があるのだろう。





「いらっしゃませ」


 丸い瞳の少女の明るい声が通りに響く。目の色、髪、太めの眉毛は全て茶色。帝国風とよばれているが、この島の人間にもよく見る色である。

 だが一見、平凡に見える少女のまわりにはキラキラとした輝きがある。


 エイヴェリーはポポロンの総菜屋を訊ねた。妖精たちはエイヴェリーの影に隠れている。これには妖精たちの抗議があったが致し方ない。

 ポポロンに妖精のことを知らせるつもりは、今のところエイヴェリーにはない。


 ポポロンは元気よく声を出したあと、「あっ」と小さな声をあげてから、ニッコリ笑って「こんにちは」と言った。

 彼女の周りにはゲームでおなじみの妖精たちが飛びかっている。エイヴェリーは素知らぬ風を装いながら、ポポロンに話しかける。


「この前のライスコロッケ美味しかったよ。あれ、品数増えてるね。おすすめはある?」


 品数が増えていくのはゲーム通りの展開だ。最初に来た時は、揚げ物とあきらかに和風の煮物が多く茶色かった商品棚は、トマトやパプリカを使った惣菜が増えたことで明るさが増している。


「はい、そこにあるガーリックトーストのトマトのせ、キノコのオムレツ、エビのアヒージョ、焼いた白ネギのソースがけがおすすめ――というか新商品です」

「いいね、全部貰おうか。あと、ほらレンコンのはさみ揚げとライスコロッケ」

「ありがとうございます。あの、ご家族の分ですか?」

「うん、みんなでちょっとずつ食べようかなと思ってるんだ」


 と言いながらエイヴェリーは、もっと品数を増やすべきかどうか悩んでいた。


「うーん、肉じゃがも食べたいけど、次にとっとくよ」


 ポポロンは素早く商品を包む。


「あ、今、一口サイズでいろいろ選べる惣菜を考えてるです。ミニトマトや生ハムやパンを小さく切ったりたたんだりしてピンで止めて一つにするんですけど、色々考えちゃってまとまらなくって――」


 エイヴェリーはそこまで聞いて、はたと気づいた。ピンで止めた一口サイズ惣菜――ゲームで出てきたはずだ。


「あ、ピンチョスって言うんですけど、バリエーションがありすぎて逆にどんなのをお店に出していいのか分からなくて……」

「日替わりで変えてもいいんじゃないかな。君がセットしてくれたら、私なら、それをそのまま買うよ。うーん、気まぐれサラダとかお任せランチみたいな名前付けてさ」


 ポポロンはしばらく考えてから、「あ」っと小さく声をあげた。


「『彩りピンチョス』!」


 そう『彩りピンチョス』だ。


 ある程度、品数が増えると一口サイズの惣菜、ピンチョスのレシピを手に入れる。そしてあれやこれやの試作の末に何種類かのピンチョスが箱に収まった彩りピンチョスが完成するのだ。


「わあ、なんだかイメージが湧いてきました。ありがとうございますっ、――ええっと……」

「エイヴ。君は――ポポロンだね」


 エイヴェリーはちらりと店の前に立ててある看板を見る。そこには『ポポロンの惣菜屋さん』と書いてあった。


「あ、お店の名前変えたんです。妖精って名前のつく店はいっぱいあるから覚えられれないってお客さんに言われて……」


 エイヴェリーの視線に気が付いたポポロンが、聞かれる前に答える。


「いい名前だね。私も気に入ったよ」


 エイヴェリーはそう言うと、惣菜の入った紙袋を持って、その場を立ち去った。




 『ポポロン絵日記 妖精のお店屋さん』ではいくつかの条件を満たすとポポロンが新しいレシピを覚える。そして覚えたレシピで商品を作り、店に置くことによって新たな攻略対象者が現れるのだ。


 『彩りピンチョス』はその一つである。


 現れる攻略対象者はディアミド。


 ゲームではエイヴとディアミドに接点はない。もっともエイヴはポポロン以外と一切からみのないキャラである。


 ポポロンの店が完全に見えなくなると、エイヴェリーは妖精たちを呼び出し、あたりを監視させた。監視といっても「まわりをよく見て、私のことを見たり話している人がいたら教えてくれ」と言っただけだが。


『あいつ、ほら、あの金持ちそうなやつ、暇そうだな』

『ちっ、いいご身分だぜ』

『ねえ、あの人、キレイね』


 ………………。

 見張られているような心配はないようだ。


『あそこ、リーアム、いるよー』


 ルゥルゥの言葉に反応したエイヴェリーは、思わずリーアムを探そうとしたが、何事もない風を装いながら進路を変えた。このまま帰るのはまずい。エイヴェリーは公園に向かう。


『わあ、こっち、みてる』

『あーそーぼ』


 妖精たちは無邪気にリーアムの出現を喜んでいる。


(みんな、影に入って――、いや、いい。そのままリーアムをよく見てておくれ)


 エイヴェリーはひどく動揺していた。

 公園に向かいながら、できるだけ人通りの多い道を選び、あちこち回り道をしているうちにいつの間にかリーアムの姿は消えていた。


(偶然? いや、まさか――)


 パーソロンの離れに戻ってからも、エイヴェリーの思考は堂々巡りをしていた。

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