姉と弟と妹②
読んでいただいてありがとうございます。
異世界でユキと涙(?)の再開を果たしたのはいいが、まずはユキにこの世界がユキが死ぬ前にプレイしていた乙女ゲームの世界なのかどうかの確認を取らねば、と思い聞いて見た。
「ねぇ、ユキ。この世界ってユキが死ぬ前にやってたあの乙女ゲームの世界なの?」
「ほぼ間違いないと思うよ。だって、登場人物があのゲームに出てきた人ばっかりなんだよ?メリッサちゃんはあのバカ…第一王子の婚約者の悪役令嬢だし、私だって出てきたもん。愛妾の産んだ第一王子をいじめる悪役義理ママ役で。ってゆーか、ここに転生して来て分かったけど、あのバカをいじめるとかじゃなくて、あれはきちんとしたマナー講座だわ。父親の今の国王もすぐに愛妾の元に逃げ込んで慰め合って普通の親子ごっこしてるんだから、お前等もう平民になれや!って正直、思う。愛妾も愛妾で「王族だけ好きな人と結ばれないなんてかわいそう」とか言いやがるし。ドリーマーでポエマーな人たちには付き合いきれない」
あーそっちタイプかぁ。そうだよねー、神殿の末端の末端もいいところの自分のところにも、王様って頼りなくね?みたいな話は聞こえてきているんだから、近くで王を支えている人たちの苦労が察せられる。
ユキは曲がりなりにも王妃という地位に就いている女性なのでその苦労は計り知れない。
「もういっそう、隣国の帝国の支配下になろうか、っていうところまで議会で検討して実際に打診してる最中よ」
妹よ、最高機密をぺらぺらとしゃべらないで欲しい。なんで見習い巫女の自分にそこまで漏らすかな、この妹は。絶対わざとだろうけど。
「いいじゃない、別に。お姉ちゃんくらい、私の愚痴相手になってよ。それに帝国の皇帝って隠しキャラだから主人公次第では嫌でもそのうち登場予定だし。バカ一家に国をめちゃくちゃにされる前に帝国の支配下になった方がいいと思うんだよね」
もし乙女ゲームのストーリーそのままに話が進めば、メリッサは悪役令嬢として断罪されてしまうし自分だってどうなるか分からない。ゲームだとその後は主人公と王子がいちゃついて終了するか、色んな隠し要素さえクリアしていれば隠しキャラの帝国の皇帝が現れてこの国を滅ぼしてから主人公の聖女を連れ去ってしまうのだ。そして生まれた国を滅ぼした皇帝に中々心を開かない主人公とのべったべたな溺愛恋愛劇場が開幕する。
「ゲーム内なら一般人とか関係ないからいいけど、今現在はみんなちゃんと生きてるんだからバカ一家の犠牲になるなんてまっぴらごめんよ」
「国王はともかく、第一王子の教育はどうなってるのよ。洗脳とか出来たでしょう??」
教育とはある意味洗脳だ。幼い頃から、こうだ、と教え込めばそれが常識になる。ゲーム上の第一王子がどうしようも無い人間でも、こっちの世界の本人を幼い内からある程度仕込めばそれなりの人間になったはずだ。
「……無理でした。私だってそう思って頑張ったんだよ?でも、でもね、それ以上にアイツの生まれ持ったクズっぷりの方が上でした。何かあると父親と一緒で母親の元に逃げ出すし、そのくせ妙に自意識だけは高いから、他人は優秀な自分に従って当然って感じだし。勉強だって、前世で言うところの小・中学校でやるような基礎的なものばかりなんだよ?国王になろうって王子が自分の国の地理や歴史を知らんってあり得ない!それに多分、母親からそう聞かされてると思うんだけど、アイツの母親は平民の生まれで貴族の養女になって愛妾になってるんだけど、聖女でも何でもなかったくせに、自分は聖女だったが国王に見染められて聖霊を手放して愛する人の元に来た、ってゆー作り話してるらしいわ。誰の元に嫁に行こうとも聖霊たちは一緒に来てくれるし、そもそもお前が聖女だったら正式に側妃になれるっての。側妃どころか聖女なら勉強次第では正妃にだってなれたのに!そしたら私は悠々自適に暮らしてたのにー!!」
妹の国王と愛妾、その息子に対する不満は大きい。確かに聖女なら生まれが平民だろうがしっかりと勉強をがんばれば正式な妃として国王の隣に立てただろう。聖女じゃなくても貴族の養女となった時点でそれを頑張ればいいだけだ。それを怠ったからこそ愛妾にしかなれなかったのだ。
「えーっとちなみに白い結婚?」
「はっ!もちろんよ。アイツに触られると思うだけで気持ち悪くなって蕁麻疹が出てくるわ。最初っからそれを求めるなって言ってあったし、私が王妃になった頃にはすでに子供もいたしね。お飾り上等よ。議会もそれで納得してるわ。お飾り王妃になって国王の仕事を代わってやってやるから子作り求めんなって言ったら満場一致で承認されたわ」
「おぅ、それはそれは…」
シキとルキは身分上、国王に会ったことはないし噂で聞いたことがある程度なのだが、こうして妹の話を聞くと想像以上のダメ国王のようだ。良識ある貴族と王妃である妹が一生懸命頑張ってこの国を運営している。国王相手に上から目線でも仕方がない。
「私、孤児だし、何の権力もないから愚痴くらいしか聞いてあげられないけど、がんばったね、ユキ。私で出来る事は協力するよ?」
「じゃあ、特級聖女って公表していい?」
「それはイヤ」
出来る事は協力するが、特級聖女ってバラされるのは嫌だ。心底嫌そうな顔をしたのだろう。ユキがシキの顔を見て思いっきり笑っていた。
「冗談だよ。私だってお姉ちゃんが特級聖女ってばれたらあのおバカの婚約者に、ってなるから嫌だし。お姉ちゃんにはメリッサちゃんを守ってほしいかな。あの子、あんなに良い子なのにバカが強引に婚約者にした挙げ句に冤罪で断罪するとか可哀想すぎるわ。メリッサにはもっとまともな結婚をして幸せになって欲しいからね」
「それならOKだよ」
「お願いね。助かるわー、初めてスチール見た時からメリッサ推しなんだよねぇ、私。性格もぜんぜん悪くないし。あ、そうだ、そろそろ主人公が神殿に入ってくる頃だから気をつけてね」
前世で推しだったメリッサの幸せを思うのはいいが、唐突に主人公が神殿に来る=乙女ゲームの始まりが近いことを告げられて、シキとルキは、そういえばユキってこんな感じの子だったよね、大切な事は早めに言え、適当に混ぜて言うんじゃないって何度か怒ったっけ、と遠い目をして思い出していた。
「お姉ちゃんとお兄ちゃんってばゲーム的には出てこないちょーイレギュラーな存在だから、ゲームの強制力とか関係なさそうだもん。その内、隠しキャラや聖霊とかも巻き込みそうだよね」
「あ、隠し聖霊ってひょっとしてコウキもそうなのかな、ヴィジュアル的にいそうじゃない?」
「ありえるなー。アレでも天使って一部で呼ばれてるし。麗しの天使様、とか言われてそうだな、あははははは」
肝心の乙女ゲームの内容をあまりよく知らない1人と1匹が笑っていると、内容を隅々まで覚えている王妃が反応した。
「ちょっと待って。ねぇ、それってひょっとして『翼持つ方』とか言われてる聖霊!?めっちゃレアキャラじゃん。間違いなく隠しキャラなんだけど…え?名前で呼んでるって事は、もう契約しちゃった??」
姉と兄が無言で頷いた。
イッヤー!!こっち来て姉と兄に会ってない期間が長くて綺麗さっぱりすっかり忘れてたけど、前世のお姉ちゃんとお兄ちゃんはこういう人たちだった。人が苦労してやった事を気が付いたら隣から変な感じでかっさらって全く別物にする天才、否、天災たちだった。
今だってレア中のレアで、彼と契約出来たら間違いなく隣国の皇帝コースに突入すると言われていた幻の天使と言われる聖霊とすでに契約を交わしているという。
あれ?ひょっとしてお姉ちゃん、帝国の皇帝溺愛コースに突入した?うん、面白そうだから黙っておこう。