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姉と弟と妹①

 納得のいっていない様子のヴィクトリアを周りの人間たちが何とかなだめながらその場から連れ出すと、ようやく静寂が戻った。

 王妃はふう、と一呼吸すると改めてメリッサの方を向いた。


「ご苦労様でしたね、メリッサ。ああいう者たちの相手は疲れるでしょう。えぇ、よぉぉく分かりますわ」


 言葉に若干力が入っている。

 この方と国王、そして愛妾の話は有名だ。

 なんと言ってもこの方が王妃になったのは先代の絶対的王命と先代の王妃の必死の説得があったからだ。

 その時、この方は「嫁ぐ以上、王妃としてしっかり仕事をしますので邪魔はなさらないで下さい。愛妾と好き勝手にいちゃついていてかまいませんが、私にそれを求めないで下さい」と言ってそれを聖霊を証人として公式文章にしたのは、誰もが知っている。なので、一部では「白い結婚」なのでは?と言われていて本人もそれを否定していない。曰く「夜の仕事は契約に入っていない」そうだ。

 だが、王妃としては全く問題がないどころか、何かあるとすぐに愛妾の元へ逃げ込む国王より頼りになると評判なのだが、いかんせん次の世代も心配な頭痛の種と化している。愛妾が産んだ第一王子の出来が悪すぎて貴族の誰もがどうしたものかと悩みの種になっているのだ。国王が気まぐれに愛妾以外に手を出して生まれた他の子供たちの中から探した方が良いのでは、という声もある中で新しい第一等級の聖女が誕生した。彼女を妻にすれば第一王子の地位が盤石になるはずだという国王と愛妾の思惑があり行われたこの茶会は見事に爆発した。結果、多くの貴族の家が聖霊に見放され、こそこそと逃げて行った手に黒の刻印を持つ者の中に第一王子がいたのを王妃は見逃さなかった。


「メリッサ、素晴らしい決定打だったわ。これであのおバカさんたちも静かになるでしょう。貴女が結婚を望むのなら私がしっかり世話をするから安心なさって」


 あのおバカさんたちがどこまで指すのかはわからないが、王妃が大変満足している事だけは分かった。

刻印を持つ者本人か、それともその両親までもが対象だったのかどうかは謎だが、どちらにせよ聖女の意味、聖霊に選ばれる意味を分かっていない家に聖霊が契約する事は無い。


「はい、よろしくお願いいたします」


 メリッサにしても、妙な対抗意識を持ってからんでくるヴィクトリアたちがいない静かな環境は大変有難い。他の下級聖女たちも聖女でありながら下に見られるという逆転現象が解消されて喜んでいるだろう。


「貴女のユニコーン、とても綺麗で美しいわね。今度、ゆっくりお茶でもしながら話たいところだけど、今はそこの2人。正確には1人と1匹。逃げるなんて許さなくてよ?大人しくついていらっしゃい」


 こそっとこの場を離れようかな、と思いゆっくり後ずさりしていたシキとルキを王妃は呼び止めると、逃がさないわよ~という雰囲気を存分に出して手招きした。


「い、いやな予感しかしない…!」

「にゃ、にゃにゃおん」


 黒猫は必死の鳴き声で抵抗したが、シキにがっつり捕まっているし、何より王妃の視線が大変痛い。

 王妃はくるりと背中を向けると首だけひねって肩越しに2人を見た。視線だけで何を言いたいのかだいたい分かってしまう。


「…黙ってついて来いって…」

「にゃん」


 その日、神殿内で大変珍しい光景が見えた.

にこにこ顔のウンディーネを肩の辺りに纏わせて移動する王妃とその後ろをとことことついていく童顔少女とガクブルの黒猫。

 その顔を見たメリッサの正直な感想は「今から戦闘にでも行くのかな?」だった。



 王に嫁いだとは言え元々、聖女であり今もその資格を有している王妃はこの神殿に自らの部屋を持っている。その部屋に少女と黒猫を連れて入ると、王妃は部屋の中に結界を張るようにウンディーネに指示をしてからシキの方を向いた。



「……お…おねぇちゃぁぁぁん!」


 思いっきりがばっとシキのお腹の辺りに顔を埋める形で抱きついてきた王妃の頭をシキは抱きしめてゆっくり撫でた。


「ごめんねぇ、1人にしちゃって、有稀」

「うぅ、本当だよ。こっちは1人で頑張ってたのに、お兄ちゃんも一緒ってどういう事なの?しかもお兄ちゃん、聖霊じゃん!」


 ぐすぐすっと泣きながらもしっかり文句を言うユキにシキは軽く頭をぽんぽんした。


「みたいだね。私も知らなかったけど、ルキってば元々こっちの世界出身の聖霊なんだって。しかも聖霊の中でもお偉いさんらしいよ」

「どーゆーコト?お兄ちゃん?」


 間違いなく妹のユキなのだが全く違う外見ゆえに以前とは迫力が違う。今の彼女は映画にでも出てきそうな迫力美人だ。


「なんつーか、違和感しかないな。その姿でありながら間違いなく有稀だもんなぁ。えーっと、1人にして悪かったな。本当はお前もまとめて姉ちゃんと一緒にこっちの世界に転生させようと思ったんだけど、お前を呼んでるやつがいたから、お前だけ先にこっちの世界の中に入れたんだ。悪いとは思ったが、俺は姉ちゃんの聖霊だし、お前にはお前を必要としている聖霊がいたからな、そうだろ?ウンディーネ」

「ええ、そうですわ。ワタクシの契約者。貴女を呼んだのはワタクシです。黒猫様はその声に応えて貴女を降ろしてくれたんです」


 ウンディーネは姉と兄と妹の再会のシーンも特に何も言うこともなくただただにこにこと笑ってご機嫌な様子で見守っていた。基本聖霊は契約者が幸せならそれでいいのだ。王妃として日々がんばっていたユキの望みがようやく叶って嬉しくて仕方がない。


「ルリに会えたのは嬉しいわ。ってゆーか、外見違和感だらけなのはそっちもでしょう!?お姉ちゃんは童顔少女だし、お兄ちゃんは人間でもなくて猫だし。でも間違いなくお姉ちゃんとお兄ちゃんなんだよ??一目見て分かったのに、姉と兄が年下の少女と猫ってどういう事ってつっこみたくなったわ」

「あーなんか、ゴメンネ?」


 それに関してはこっちは悪くないと思うのだが一応、謝っておく。


「俺も驚いた。降ろしたはいいけど、お前がどこの時代のどんな人物になってるか何て知らなかったからな。よかったじゃないか、憧れのボンキュッボンに生まれて」

「そこに関しては嬉しいけど、巨乳ってけっこう肩凝るし、服着てたってそこにばっかりに目がいってる男たちは嫌よ」

「そ…そうか」


 憧れの外見に生まれても、それなりの苦労はあるらしい。未だかつて女性体になった事がないルキには巨乳で肩が凝るとか言われてもよくわからない感覚だ。もう一方に関してはコメントは避けたい。


「ふ、あっちでもそんなに無くて、こっちでも絶対育たなさそうな私には縁のない話だよね」


 姉は姉で、前世は凹凸が無く、今世でもドレスが似合わない体型になりそうなので少々妹がうらやましい。無い物ねだりだと分かってはいるが、どうせこの世界に転生させてくれたのなら、そちらも何とかしておいてほしかった。


「…お姉ちゃん、今度、一緒にデザイナーさんにお洋服を注文しようね」


 デザイナーに何とか出来ないかどうか聞いてみよう。その道のプロの方はきっと良い案を出してくれるだろう………たぶん。

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