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聖霊と黒の印①

読んでいただいてありがとうございます。のんびり更新中です。

「ここにいらっしゃったのですね、聖女様。ヴィクトリア様がお探しですので、お早くお戻り下さい」


 丁寧な口調でありながら、どこか高圧的に言ったのはまだ年若い神官だった。

 神殿の身分は最上位に聖女、その下に巫女や神官といった存在になる。なので本来なら一神官が聖女に向かってこのような態度を取ることは許されない。

 だが、勘違いした貴族令嬢たちとその取り巻きの神官たちはこうして聖女であり伯爵家の出身であるメリッサに対して自分たちの方が上だとマウントを取ろうとしてきた。メリッサ自身もいらぬ波風を立てるくらいなら、と我慢してきたが、これからは我慢する気は全く無い。


「あら、神官がたかが巫女の使いっ走りになって聖女を呼び出すのね。面白い事ですわね。いいでしょう。私も言わなければならない事も有りますし」


 メリッサの言い方に神官の方が不快な感じで眉をひそめたが、メリッサの後ろからユニコーンが現れると、ひッ!と言って一歩下がった。


「メリッサ、僕の大切な契約者。安心してくれ。メリッサに無礼を働く者は聖霊たちに言っておくから」


 そのスピカの言葉にさらに神官は声にならない叫びを上げて今度は腰を抜かした。


 聖霊に言う?何を?聖女に無礼を働いた存在を、だ。


 それはつまり自分の全てが終わった事を意味する。神官は聖女ほどでは無いが、聖霊に力を借り受けることが出来る者のみが付く事が出来る。聖霊に力を借りられないとなれば、神官の資格無しとされ階級を落とされるか神殿から追放となる。そして、第一等級の聖霊が他の聖霊に自分に力を貸すな、と言えば彼らは従い自分は神官の資格を剥奪される。


「あ、ああ、あの…」


 何としてもそちらの勘違いだと言い訳しなければ、と思い言葉を出そうとするがうまく出てこない。


「言っておくけど、僕は常にメリッサの傍にいて見てきたんだ。お前たちに見えていなくてもね。下らない言い訳などいらない。聖女に仕えない神官などいらない」


 ユニコーンがそう宣言した事で神官は絶望の顔をした。ヴィクトリアは聖女ではない、ただの巫女だ。今いる聖女たちの中で最も位が高いのは第一等級の聖霊と契約を交わしている目の前の聖女だ。そして自分は今まで公爵令嬢であるヴィクトリアの言うがままに目の前の聖女を蔑ろにしてきた。今更ながらそれが過ちだと気付いた。神官にとって守るべき最も大切な人は聖女だ。


「も、申し訳…」

「しゃべるな。謝罪もいならい。二度と僕たちの目の前に現れるな」


 ヒッと引きつった声を再び上げて神官はへっぴり腰で逃げて行った。


「いい感じじゃないか、スピカ。その調子でガンバレ」


 黒猫がニヤっとしながら笑った。その隣で黒猫の契約者の少女も手を叩いて喜んでいる。


「ふふ、じゃあこのままお茶会の場まで行きましょうか。シキも付いてきて下さい。もちろんルキ様も」

「ただの黒猫に様はいらん。ルキと気軽に呼んでくれてかまわん」

「では、ルキ、とお呼びしますね」

「エセ天使も降りてきたらコウキと呼び捨てにしてやれ。俺が許可を出してやる」

「……さすがにそれは無理ですわ」


 黒猫は身近にいる動物なので何とか呼び捨てに出来るが、あんな背中に翼生やしたいかにも神々しい人外の存在を呼び捨てとかはさすがに無理だ。人外ですよー、上位の聖霊ですよー、と思いっきり主張しまくっている存在にあんなに気軽に名前を付けて契約できるのなんてシキくらいだと思う。


「さぁ、参りましょう」


 先ほどとは打って変わって優雅に微笑んで立ち上がったメリッサは、見習い巫女と黒猫、そして相棒であるユニコーンを連れて一度は逃げ出してきたお茶会へと戻って行った。





「あら、どこに行っていらしたのかしら?そんな子供を連れてくるなんて貴女の周りにはよほど人が集まらないのね」


 お茶会に戻った瞬間からそう嫌みを言ってきたのは、いかにも、といった感じのきつい顔立ちの美少女だった。その取り巻きと思われる令嬢たちもくすくすと笑っている。ついでにこびへつらっている神官たちもだ。


「まぁ、この子は聖女である私を心配して下さる心優しき見習い巫女ですわ。巫女や神官とは聖女に仕える存在だという事をお忘れの皆様より巫女としての素質は高いですわね」


 メリッサがそう言い返した瞬間に、件の公爵令嬢とその取り巻きたちは、え?という顔をした。

 今までどんな嫌みを言おうともメリッサが反論する事は無かった。それも当然の事だ。向こうはたかが伯爵令嬢、こちらは王女を除けばこの国で最高位の公爵令嬢だ。下の人間が上の人間にそのような事を言って許されるはずがない。


「メリッサ様、わたくしにそのような言葉使いをして許されるとでも?」


 きっ、っと睨み付けたヴィクトリアに答えたのはメリッサではなく、スッと前に出たユニコーンのスピカだった。


「それ以上、汚い口を開くな。汚れた魂の持ち主よ。僕たち聖霊に人の世の階級などどうでも良い事だけど、どうしてこれだけ汚れた連中が巫女なんてやってるんだ?聖霊や聖女に仕える人間をこんな汚れたやつらにしたら、聖霊たちが嫌って近づけないじゃないか。近づく事が出来なければ、聖霊たちは契約も出来ない。ここの連中は何を考えてるんだ?」


 それはスピカのけっこう真剣な疑問だった。だが問われた方、というより汚れた存在であると聖霊に断言された巫女と神官の反応はそれぞれだった。

 真っ先に先頭に立って言われたヴィクトリアは顔を真っ赤にさせてスピカを睨み付けた。だが、その取り巻きのお嬢様や神官たちの顔色は悪い。


 第一等級の聖霊に汚れた魂の持ち主だと断言された。


 その意味を分からない者はいない。

 お茶会の隅っこの方に追いやられていた下級巫女たちの聖霊がそれぞれの契約者に忠告をそっと出した。


「逆らっちゃダメだよ。ユニコーン様は力のある聖霊だ。それにユニコーン様よりももっと……、と、とにかく、あの聖女とユニコーン様に敵対しないで。でないと傍にいられない」


 契約した聖霊たちの涙ながらの訴えにそれぞれの契約者である聖女たちは頷いた。元より逆らうつもりなど無い。第一等級の聖女であるメリッサが今までヴィクトリアに言い返す事など今まで無かった。でも、今回は聖霊であるユニコーンまで出てきた。

 こうなった以上、もうヴィクトリアやその取り巻きには価値が無い。厳しい言い方だが、聖霊に嫌われた人間に用は無いのだ。その場にいるだけで聖霊が嫌って近づく事の無い巫女など有り得ない。巫女としても公爵令嬢としてももう役に立つ事はないだろう。

 その事に周りの取り巻きたちはすぐに気付いたようだが、ヴィクトリア自身は頭に血が昇って気が付いていない。冷静になればすぐに気付けるのだが……。


「メリッサ、僕、こいつらに近づいて欲しくないから印を付けるね」

「印?スピカの好きにすればいいわ」


 メリッサに宣言するとスピカは頭を一回軽く振った。


「あっつ!!」


 あちらこちらから声がして、声を出した者たちは右手を押さえていた。もちろんその中にはヴィクトリアも含まれていた。


「右手の甲に黒い円形の印が出た人間たちは魂が汚れてる人間たちだよ。印が付いた者たちは僕たち聖霊に近づく事を許さない。もし、近づいた場合はその印が警告を発するからね」


 その場にいる多くの者たちに黒い印が浮き出ていた。


「い、いや!何これ、取って!!取りなさいよ!!」


 ヴィクトリアが慌ててスピカに向かって右手を見せた。

 もちろんそこには黒い円形の印がしっかり付いている。


「ヴィクトリア様、いかに公爵家のご令嬢といえど、聖霊に魂が汚れていると断言された以上、きちんと受け止めるべきだと思いますわ。ヴィクトリア様、それに今、その手に黒い印を持つ方々、第一等級の聖女として命じます。すぐに神殿を出る準備をして下さいませ。貴方方がいると聖霊たちの邪魔になりますから」


 メリッサの言葉に今まで好き勝手やってきた巫女と神官たちが嗚咽を漏らしながら崩れ落ちたのだった。


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