エセ天使②
読んでいただいてありがとうございます。
目の前にいるのは、特級聖霊2体。そしてその契約者の大聖女『超え』の少女。
メリッサは、目の前の状況にちょっと頭が痛くなった。
少女とは出会ったばかりなのだが、僅か一刻も経たない内に起こった出来事の内容が濃すぎる。
今までの経験など今の出来事に比べればものすごく浅い。
「無駄に神々しい出方を広めているらしいな」
「無駄とは何だ。あの出方は人間受けが良いのだぞ」
「アホか。時と場合を考えろ。せっかくメリッサが隠れていたのにあんな出方すれば一発で居所がばれるだろうが」
「む?そうか。ならば隠れながら出てくる方法も教えておくか」
「そうしろ。ちなみに姉ちゃんは聖霊と契約していることも隠してるんだぞ」
「そうか。我が契約者はこの世界の支配を望んでいないのか?」
黒猫とエセ天使の会話に突然、物騒な単語が入り込んだ。
何で、エセ天使と契約しただけでこの世界を支配する話になるの??
意味が分からず首を傾げたシキにルキはため息をついた。
シキには何度か教えているのだが、基本的に興味が無いせいかすっかり記憶から飛んでいるようだ。
「姉ちゃん、ぜってぇ忘れてるからもう一回教えておくけど、この世界は、まず聖霊と契約出来るかどうかで大きく身分が変わる。そして何より、ここは契約した聖霊の強さが物言う世界だ。第一等級の聖霊と契約したというだけで、望みは全て叶えられると思っていい。んで、姉ちゃんが契約した聖霊は俺とエセ天使の2体。言っとくけど、特級聖霊2体と契約した聖女なんて過去に誰一人としていないからな。姉ちゃんが史上初だ」
「…ん?…マジで?」
「マジだ。姉ちゃんが望むならこの世界を支配する事なんて簡単だぞ。俺たちが全ての聖霊にそう命令するだけだ」
「止めて、マジ止めて、そんなめんどくさい事」
ルキの説明に心の底からげんなりした表情をシキはした。
「いつも思うんだけど、世界征服したってすっごく面倒くさそうじゃん。インフラ整備やら経済政策やらありとあらゆる事をしないといけなくなるでしょう?仕事に追われて人生終了しそうでイヤ」
多分、普通に世界征服しようと思っている悪の組織はそこまで考えていないと思う。そんな真面目な考えで世界征服を企む悪の組織は無い。
そう言えば、シキは基本対人戦のガンシューティングゲームメインで攻略していたが、たまになぜか育成系のゲームもしていた。……殺伐とした空間にのめり込むと、反動でほのぼのと育成・開発ゲームをしたくなるそうだ。ルキには良く分からないが、そういうものらしい。確か、町を発展させていくゲームもあったので、発想はそこからか。
「ま、姉ちゃんの性格だとどのみち興味はないとは思うけど。でもちゃんと覚えておいてくれよ。姉ちゃんは、この世界でそういう存在なんだって事を」
ルキの言葉にメリッサとスピカがうんうんと頷いている。
ルキの言葉は胡散臭いが、真面目そうなあの2人が納得して頷いているのだから、シキは素直に「その気になれば世界征服が出来るちょっと痛い人」なのだと自分を認識する事にした。その方が話は早そうだし、何より自覚があればそんな面倒くさい事をしなくて良い。
「了解。ルキもコウキも、私はこの世界なんていらないんだから、無茶はしないでよね」
「そうか、我が契約者は謙虚だな。だが、いらぬと言うのは了解した。いつでも世界を支配することは出来るから、その気になったら言ってくれ」
そんなのがいつでも出来るのは嫌だ。一生言わないでおこうと思う。それに、世界征服しないのが謙虚なんだ。謙虚…って…?
もはや謙虚の意味も分からない。
「…シキ、貴女にはぜひそのままでいて欲しいわ。でも、もし万が一、貴女が世界征服を企むのならその前に一言相談して欲しいわ。私にも心の準備というものが必要だもの」
メリッサはシキがその気になったら止める気はないらしい。ただ、ちょっとばかり心の準備をする時間が欲しいだけだ。
「はっはっは、良かったな、我が契約者・シキよ。第一等級の聖女であるメリッサと我らが傍にいれば確実に出来るぞ」
「だから、やらないって。私のささやかな望みは、いかにバレずに生きるかよ」
それはささやかな望みなんだろうか…?という思いが誰の心の中にも生まれたが、シキがそう望んでいるのならばその願いを叶えるのが契約した聖霊の仕事だ。
「姉ちゃん、俺としてもバレずに生きるのは賛成だが、コウキまで契約しちゃった以上、早い内にここを出た方がいいぞ。いつどうやってバレるかわからんし」
「あ、そっか。何があるかわかんないもんね」
ルキはシキと一緒に捨てられていた子猫という設定でもぐり込んでいるのでシキと一緒にいても問題はないが、人型で明らかに特別感満載のエセ天使がシキの周りに出現し始めたらすぐに聖霊だってバレる。そうなると聖女一直線のルートが待っている。それはとても不本意なのですぐにでも神殿から逃げ出したい。
「でしたら、シキは私の専属見習い巫女になりませんか?専属なら私の身の回りの世話が主な仕事になるので私と一緒にいる事になりますし、何かあれば私の聖霊がやった事にすれば大丈夫でしょう。多少、胡散臭く思われるかも知れませんが、聖霊関係の事であれば第一等級の聖女である私に分があります。最終的には、私が伯爵家へ戻る時にシキを気に入ったという理由で一緒に伯爵家に連れて行きます。うちに一緒に来て、そこから先の事はまた考えませんか?」
「え?いいの?」
「もちろんです」
先ほどまで泣いていたメリッサだっかが、目の前で起こった出来事で公爵令嬢やその取り巻きからのいじめなどどうでも良くなった。規格外の聖霊にユニコーン連れてけば一発じゃん、と言われて、それもそうかと納得した。
自分は第一等級の聖女。
彼女たちとはそもそも身分が違う。
たかが公爵令嬢と第一等級の聖女では、こちらの方が上だ。
元々の伯爵家と公爵家という身分の差でこちらが下がらなければ、と思ってしまっていたのだが、国にとっても公爵令嬢はいなくなってもどうとでもなるが、第一等級の聖女がいなくなるとなれば大問題になる。公爵家の人間から父が嫌みを言われるかもしれないが、それくらいは自分で何とかしてもらおう。古くからある伯爵家の当主なのでそれくらいの相手は朝飯前のはずだ。
そして、聖女がどういった存在なのかいい加減彼女たちにも思い出してもらおう。
「ふむ、メリッサよ。良い顔になったな。我ら聖霊は自分の気に入った契約者が第一だ。それを忘れるなよ」
「はい、コウキ様。私は聖女ですわ。多少の我が儘は許されますもの」
「その通りだ」
うふふふふ、はっはっは、と笑い合う2人に本来の契約した相手であるスピカとシキがドン引いた。
「止めろ、コウキ。メリッサを唆すな。お前は悪魔か」
天使の姿をした聖霊を黒猫姿の聖霊が「悪魔」と呼んだ。
「メリッサ。他の聖霊たちには、其方に力を貸すように伝えよう。もちろん、優先はシキの命令だが、それ以外の事ならば其方の命令を聞いてくれるだろう」
「ありがとうございます。シキが聖女とバレないように精一杯頑張りますわ」
「うむ、頑張るが良い。ん?誰かがメリッサを探しているようだな。私は姿を消した方がよかろう。シキ、それにルキ、私は聖霊界に戻るゆえ、何かあれば名を呼べ。すぐに駆けつける」
「はいはい、隠れる出方をちゃんと教えておけよ」
「はーい。またねー、コウキ」
特級聖霊に対して軽い扱いをした姉弟の言葉にコウキは満足そうな笑顔を浮かべると、その姿は一瞬で消えた。聖霊界へと戻って行ったのだろう。
「じゃ、俺もここからは普通の黒猫になるからな。あ、スピカ、ちゃんとユニコーンの姿になっておけ」
「はい」
スピカは今までの可愛らしい姿から凜々しい立派なユニコーンの姿へと変身した。
白い体躯に淡い青色のたてがみ。額には立派な一本角。
おとぎ話に出てくるユニコーンの姿そのものだ。
「おぉ、すごい立派。スピカ連れてお茶会の席に戻れば誰が聖女なのか誰でも理解するね」
「まかせて、メリッサ。メリッサに何か言おうものなら僕が返すから」
フンス、と鼻息の荒いスピカはやる気だ。誰だって聖霊の怒りは買いたくない。そして、契約者に売られた喧嘩は聖霊に売られたのと一緒の意味を持つ。もし、公爵令嬢がメリッサに再び嫌みを言ったりしたらスピカが返事をする気でいる。聖霊には人の身分などどうでもいい。大切なのは、契約者。それを人間側が忘れているのなら思い出させるだけだ。幸いここには口の悪い黒猫様がいる。ぜひ参考にしよう。