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エセ天使①

 メリッサは改めてシキという少女を見た。自分よりは年下だろうと思われる幼い容姿をしているが、黒い髪と瞳にどこか神秘的な感じを受ける。ただしそれはしゃべるまでだ。しゃべったら少々鋭い言葉を放つので、何というか、誤魔化しが効かない感じだ。だからといって冷たいわけでは無い。放っておけばいいはずの自分にも声をかけて優しく抱きしめてくれたのだ。

 黒猫は間違いなく聖霊。それも第一等級の聖霊、否、おそらくそれ以上の聖霊。特級と呼ばれる聖霊だろうと思う。不思議なことに黒猫はシキのことを「姉ちゃん」と呼んでいる。聖霊と人間に血の繋がりが出来るなんて聞いたこともないので、全くもって意味不明でしかない。


「メリッサ様の聖霊ちゃんはユニコーンかー、初めて見たよ。この世界に生まれてすでに16年。まだまだ知らんことが多いなぁ」

「…ちょっと待って、今、16年って言った?つまり16歳?私と同じ年齢?」

「メリッサ様も16歳?同い年だね」

「……え……??」


 自分よりは幼い容姿をしているはずの目の前の少女は、16歳だと言った。同じ年齢?え?ウソでしょう…??と心の中の言葉はかろうじて飲み込んだ。

 シキの外見はどう見てももっと幼い。黒い髪と黒い瞳の童顔の少女は、10歳とまではいかないが、それでも12、3歳くらいにしか見えない。


「…本当に……??」

「……自分が童顔だと言いう自覚はあります。えぇ、有りますとも!おかげで良かった事も悪かった事もあったけど、実年齢は16歳です。ピチピチです」


 表現がどう頑張っても古いのだが、実際、前世よりも若返ったお肌はピチピチだ。このお肌をぜひキープしておきたい。

 シキの姿形は前世とそう変わらない。これは、ルキがシキをこの地に降ろす時に、この地の女性のお腹に宿す、という方法ではなくて元の容姿に似せて身体を作る、という地味に面倒くさい作業を選択したせいだ。

 「姉ちゃんがカラフルな色彩のボンキュッボンな身体になる…?考えられん、無理だ!」というルキの心の叫びと共にこの世界の元素から一生懸命構築をした。出来上がりには大変満足している。これが孤児として神殿に捨てられていた理由で、捨てた張本人も一緒に神殿に拾われて生活をしている。

 なのでシキの外見は日本にいた頃とそう変わらない。変わったのは年齢だけだ。そして、東洋人というのは得てして幼く見られがちだ。それはこの異世界に来ても変わらないらしい。


「イヤ、一因としてそれもあるけど、姉ちゃん、凹凸ねぇもん」


 勇気ある一言を放った弟は、すぐにひっつかまって顔をプニプニさせられた。


「おほほほほ、誰に向かって言ってるのかしら、猫の弟くん。しょせん小型のあんたは大人しくもふられてなさい」


 逃げ出す事も許されず、ルキはただひたすらシキにもふられた。


 その様子をちょっと引きつった感じでメリッサとユニコーンのスピカは見ていた。


「……いいかい、メリッサ。僕たちは契約者が大好きだしずっと傍にいたいとも願ってるし、多少のもふもふは我慢するけど、一応、うん、一応、言っておくけど、僕たち聖霊だから。間違ってももふもふ動物じゃないから!」


 ちょっとだけ危機感を感じたスピカの言葉にメリッサはくすくす笑った。

 メリッサ自身は、聖霊をあんな風に思いっきりもふろうという勇気は無い。

 聖霊は、尊い存在。

 選ぶのは彼らで選ばれた聖女はそれに相応しい振る舞いを求められる。それがメリッサが受けてきた教育だ。だが、シキは容赦なく弟と呼ぶ黒猫を捕まえてもふっている。根底にあるのは確固たる信頼だろう。そうでなくては、聖霊が契約者にあのような振る舞いを許すとは思えない。


「不思議なお二人ね」

「…うん、そうだね。でもメリッサ、あの黒猫様は僕より断然、上の方だから気をつけてね」

「やっぱりそうなのね?」

「どうしてあんなお姿をしているのか知らないけど、人の基準で言ったら『特級』そう呼ばれる方だよ。もしあの方に何か命じられたら僕は逆らえない」

「貴方でも逆らえないとなると、黒猫ちゃんに勝てる存在はいるのかしら?」

「そうだね……『翼持つ方』なら同等じゃないかな。特級と呼ばれる方々も色々いるけど、黒猫様と翼持つ方は最上位だ」


 どうやら聖霊の世界にも色々と階級があるらしい。その中であの黒猫は最上位に位置する聖霊とのこと。そうなると目の前の少女はまさしく大聖女と呼ばれる存在になるのではないだろうか。

 とてもそうは見えないけれど。


「メリッサ、彼女にその気があったら今頃は大聖女としてこの国に君臨してるよ。それをしていないどころか、見習い巫女としてここにいるんだから、隠してるんだよ。そうである以上、僕たちも隠さないとダメだよ」

「えぇ。そうね」


 上位の聖霊がそう決めたのなら、それに従うのが下位の聖霊だ。ユニコーンは第一等級の聖霊だが、黒猫様は最上位の聖霊。逆らう気も起きない。万が一、大切な契約者に何か仕掛けてくるなら命がけで逆らうところだが、黒猫様とその契約者はむしろメリッサに好意的なので素直に従うだけだ。


「ところで、ユニコーン。あの無駄にキラキラしてる登場の仕方は誰に習ったんだ?」


 ようやくもふもふから解放されたルキの質問にスピカは素直に答えた。


「翼持つ方です。ああした登場の仕方をした方がいいからって、みんなに教えてくれました」

「翼持つ方??あー、あのエセ天使か。、みんなっつーことは、まさかの聖霊全員あの演出で登場してくんの?あのバカ、アホな事を流行らせやがって」


 黒猫はお口が大変悪い。スピカにしてみれば両方とも上位の聖霊なので、何も言えず沈黙を貫いた。


「エセ天使?何それ。ちょっと面白そうじゃん。お友達?」


 シキのお友達発言にルキの毛が一斉に逆立った。


「めっちゃ気持ち悪い言い方するなよ。あいつとお友達になった覚えはねえよ。同時期に生まれた存在ってだけだ」


 毛を逆立てて全身で拒否反応を示すルキが可愛い。そんな風に思いながらシキはニヤニヤが止まらない。


「その顔、止めろ。っつーか、あのバカ、せめて普通の登場の仕方も教えとけよ」

「呼んだ?」


 ルキのぼやきに返答をしたのは、今、この場にいないはずの存在だった。

 シキが振り返ると、シキの真後ろに綺麗な白い翼を持つ人型の聖霊が佇んでいた。外見は立派な大人で、元の世界なら間違いなく「天使様」と呼ばれる青年だ。


「…何でいるんだ。お前に用事はないからもう聖霊の世界に帰れ」


 器用に片手でシッシと追い払う姿をルキをひょいっと青年は捕まえた。


「嫌だね。久しぶりに降りてきたんだし、お前もいるし、何より惹かれる魂の持ち主もいるし」


 にっこり笑った青年に、ルキは爪を立ててその綺麗な顔に傷を付けてやろうかと本気で悩んだ。

 忘れていたが、この青年とは趣味が似ているのだ。つまり、ルキの契約者であるシキの魂にこの青年も惹かれてここに出てきたということになる。

 げぇっとした顔をした黒猫を抱っこすると、青年はシキに向き直った。


「初めまして。黒猫の契約者のお嬢さん。早速だけど、名前を私にもくれるかな?」

「えっと、じゃ、虹輝(コウキ)で!」

「姉ちゃん!?」


 シキには良く言って聞かせてあったはずだ。

 聖霊に名前を付けるということは、特殊で特別なことで、そう軽々しく名付けをしてはいけません。

 もし名付けをして欲しいという聖霊が来ても一度良く考えましょう。その場のノリと勢いで付けてはいけません。自分より下位の聖霊なら契約破棄させるけど、数少ない同等の聖霊だった場合は、破棄できないし面倒くさいので絶対付けるな、と。


「姉ちゃん、俺、言ったよね」


 ルキの言葉はもう遅く、すでにシキと翼ある者ことコウキの間に目に見えない糸が繋がっている。


「えーだって、必要だと思ったんだもんー」

「あー、もう昔っからそうだよね」


 どうもシキは昔から勘?的なもので生きている。直感ともいうべきそれに外れは無い。

 シキが必要だと感じたのなら、それは絶対に必要なことなのだ。

 それは今すぐなのか何年後かなのかは分からないが、今ここでこうして翼持つ者に名付ける必要があったのだろう。


「はっはっは。まさか私もこんなに簡単に名付けてくれるとは思わなかったが、これで今日から同じ契約者を持つ仲間だな、ルキよ」

「黙れ、コウキ。こうなった以上、絶対、姉ちゃんを守れよ」

「もちろんだとも」


 同じ契約者を持つ者同士で同等の存在なら許可がなくても名前で呼び合える。そうでない者には許可が必要になるので、大抵はその外見的特徴で呼び合っている。


「……あのー、黒猫様、翼持つ方??」


 スピカとメリッサが呆然を成り行きを見ていた。

 今、目の前で2体目の特級聖霊と契約するというとんでもない事態が起こった。ちょっと現実逃避しそうだが、間違いなく現実の出来事だ。

 え?大聖女様以上??

 

「ユニコーン、こちらが君の契約者かい?初めまして美しいお嬢さん。私はコウキ。シキの聖霊で人が特級と呼ぶ階級の聖霊だ。お嬢さん、私のことは名前で呼んでくれたまえ」

「……あ、はい。コウキ様」

「名付けして貰ってはしゃいでんじゃねぇよ。メリッサもユニコーンも俺のことはルキって呼んでくれ。俺もユニコーンの事は名前で呼ぶから」

「はい」


 もちろんスピカは逆らえない。


「えー、じゃあ私もユニコーンのことを名前で呼ぶから、コウキって呼んでくれ」

「……はい、コウキ様」


 当然、こっちにも逆らえない。


 え??何、このカオス状態。

 あまりの出来事にメリッサは、お茶会やら何やらでいじめられていたこと全てが吹っ飛んでいった。

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