武闘派でした。
読んでいただいてありがとうございます。のろのろ更新ですみません。
優雅にこうして紅茶を飲み、他人を使うことに慣れている少年は、正直、自分よりも綺麗だと思う。
仕草や一つ一つの動作がスムーズで間違っても飲み物をこぼしたりしないとだろう。
ちなみにシキは気を抜きまくって油断して絶対にこぼす自信がある。
「どうかしましたか?シキ?」
カイレオールをじーっと見続けていたシキににっこり微笑んでいる姿は無害そうに見えるがきっとそうじゃない。
「…この部屋っていうか、ここ、人の気配が全くなかったんだけど…」
「あぁ、問題ないのであまり近づかないように言ってあるんですよ。私を傷つけられる存在は限られていますからね。そんな存在に襲撃されたら他の者など一瞬で死んでしまいます。自分で自分の身は守れるので、それよりも静かにしてもらっていた方が仕事がはかどるんですよ」
「分かる!分かるわー。忙しい時に限って下らない用事でひたすらしゃべり続けてくる上司がいたんだけど、最悪だったもん。あの時は本気で静かにしろって怒りたくなった…」
前世の社畜の記憶の中から嫌な記憶が湧いて出てきた。忙しい時に限って妙にしゃべりかけてきて、仕方なく少し付き合ってから自分の机に戻るとすぐに呼ばれて、呼んだ理由も今じゃないだろう、それ、ということばかりの実に無能な上司だった。最終的には横領をしてクビになったが、どこの世界にもそういう人間はいるものだ。
「えぇ、本当にいますよね、そういう輩は。いちいち排除するもの面倒くさいので、5日に1回はこの部屋の周りは基本的に出入り禁止なんです。もちろん緊急事態の場合は入ってもかまいませんし、各部署からの書類のやりとりなどは行っていますが。でもシキは別です。いつでもこの部屋に来ていいんですよ」
むしろ出会った直後である今は目の届かない場所には行かないで欲しい。
カイレオールは自分がそんな風に思ってしまうことに内心でひどく驚いていた。
今まで周囲の番持ちたちから話は聞いていたが、自分はそんな風にはならないだろう、という妙な確信があったのに、いざ運命の番を目の前にしたら全ての感情が吹き飛んで、同時に番のみにその想いが向く。冷静でいるつもりだが、もしシキが目の前から消えたら大陸中を探し回る自信がある。
自分でもどうしようもないやっかいな感情だが、だからと言ってシキに出会わなければ良かったなんて絶対思わない。
不本意だが、ほんっとーに不本意だが、女好きのご先祖様の「運命の番は大切だぞー、人生豊かにするぞー」という白々しいセリフにも今なら共感できそうだ。
「シキにはこの宮に部屋を用意します。今日からそちらに住んで下さると嬉しいです。それと朝食と夕食は絶対一緒に食べたいのですが…夕食は仕事の関係でダメな時もあるので、せめて朝食だけは毎日一緒に食べて欲しいです」
年下(外見)美少年による真摯な瞳でのお願いを断る術など持ち合わせていないシキは、気が付いたらはっきりと頷いていた。美少年のお願いは無碍に出来ないー!と心の中で叫んではいるが、心の声が表に出ることは無く頷いたシキにカイレオールは満面の笑みを浮かべた。
「…シキ、君ってチョロインだね」
呆れた声を発したのはコウキだった。シキとカイレオールのやり取りをずっと傍で聞いていたのだが、シキの自分の方が年上宣言はどこに行ったのか、全く役に立っていない。どうがんばってもカイレオールの思惑通りに事が進んでいるとしか思えない。
「や!ちょっときゅんっとしてしまって!」
「黒がいたら間違いなく深いため息が出てるだろうね。竜王、先に言っておくけど、もしシキに何か危害を加えようとする相手がいたら物理的、魔法的なものからは僕等が守る。ついでに報復もする」
一応、これでもこの世界を長い間見守ってきたのだ。人の中で『竜王の妻』という存在がどれほど特別で、妻になりたい女性が多い事も承知している。過去にはそんな女性を主にしてしまったが故に罪を犯した聖霊にそれ相応の罰をちゃんと与えたこともある。手段を選ばない女性が多いのでシキの存在が周囲に知られたら暗殺者くらい送ってくる者もいるだろう。竜王の運命の乙女がいなくなれば自分がその相手になれる、とかどうして思えるのだろう。この辺りの思考回路はよく分からないが、暗殺者などは手応えがある相手を希望する。瞬殺はつまらない。
「えーっとコウキさん。物騒な事態はできれば避けたい所存です」
「分かった。ちょっと拳で語り合うだけにしておこう」
それはもはや「やる気満々」と同意語だ。シキだって命を狙ってくるような相手に手心を加えるつもりはないが、一般女子として流血騒動は苦手だ。精神的に追い詰める方向じゃダメだろうか。
「肉体と精神は連動しているよ。どちらか一方が傷つけばもう一方も傷つく。傷を負った獲物は変に大暴れする時があるからね、きちんと仕留めておくに限るよ」
「……了解」
そう言われてしまえばシキとて納得するしかない。それに基本的にコウキとルキにとってシキを守る事が最重要事項なのだ。守られる側として無理を言ってコウキやルキが傷つく姿は見たくない。誰が相手でも流血騒動は苦手だが、それが自分と自分の大切な人たちを守る為ならば流血騒動どんと来い!だ。
「シキのそういう思い切った思考回路は好きだよ」
特に言葉に出して言った訳では無いのだが、それでもシキの想いはコウキにちゃんと繋がっている。コウキに繋がったという事は遠く離れているルキにもきっと繋がったはずだ。