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実は面倒くさい?のかも。

読んでいただいてありがとうございます。設定がゆるゆるの甘めなのはご容赦下さい。

 シキより年下っぽい少年・カイレオール。

 帝国の皇帝陛下で竜種でシキの運命の竜らしい少年は、シキをふかふかそうなソファーに座らせると置いてあったベルを鳴らした。すぐに正面の扉が開いて入ってきたのは、初老の執事だった。執事は部屋の中にいたシキに少し目を見張ったが、すぐに感情を隠した表情をすると無言でカイレオールに頭を下げた。


「お呼びでございますか」

「紅茶の用意を頼む。それと何かつまめる物と甘い物を。シキ、苦手な食べ物とかありますか?」

「え?そうね、特には無いかな。ただ、いつも神殿で飲む紅茶は同じ茶葉の物ばかりだから、たまには違う銘柄の紅茶を飲みたいかも…」

「可愛らしいわがままですね。でしたら先日、献上された珍しい紅茶があるのでそれにしましょう」


 カイレオールがそう言っただけで執事は心得ているのかすぐに一礼して部屋から去っていき、しばらくすると前世で言うところのアフタヌーンティーセットの乗ったワゴンを持って入ってきた。

 優雅に紅茶を用意してくれる姿はピシッとしていてかっこよかった。執事服がまたかっこよさに拍車をかけていて、シキはちょっとぶしつけだったがじっくり拝見させてもらった。部屋の中には2人しかいないのだが、カイレオールの指示で3人分の紅茶を用意すると執事は一礼して部屋から出て行った。

 ちなみにその間、コウキは只人には見えないように姿を隠していたが、ずっとシキの隣にはいた。

 そして、人外の存在のはずなのだが、用意された紅茶とおやつをちゃっかりつまんで食べ始めた。

 

「白の方、確認なのですが、貴方はシキと契約している聖霊でよろしかったのですよね?」

「そうだよ。竜王、僕は君のご先祖とは昔なじみなんだが、全然似てないね」

「あの方の血を引く者はみんな似てないですよ。どうもあの方の妻となられた方々の容姿を引き継ぐみたいです」


 妻となられた方々、という時点で複数の妻を持っているのは確定だ。そもそも原初の竜は恋愛至上主義だとルキが言っていたので、シキ的には原初の竜はないわー、とか思っていたのだが、よく考えたら目の前の竜はお隣の帝国の皇帝陛下だ。王侯貴族というのは政略結婚的なものが多いと聞く。ひょっとして婚約者とかいたらどうしよう。シキは悪役令嬢役も当て馬役もごめんだ。そんなメンドクサソウな事態になったら即座に逃げる。


「えっと、つかぬことをお伺いしますが……もしや婚約者などいらっしゃいましたりします??」


 言葉使いが無茶苦茶だが、ここは心を鬼にして聞かねば!!

 シキの決意とは裏腹にカイレオールはクスリと笑った。


「いいえ、シキ。私に婚約者などいませんよ。ついでに恋人もいません。シキがどこまでご存じか分かりませんが、竜は唯一を探すんです。特に私は竜の血が濃いので、運命の乙女以外の女性には触りたいとも思いません。……竜の中には一生出会えなかったり、死の間際にようやく出会えた者もいると言うのに、私はこうして早く出会えました。幸せ者ですね」


 少年竜王のちょっと弱々しい微笑みは、シキの心にものすっごく響いた。


「……シキ、だまされるな。竜は人の何倍もの寿命を持つ。ましてこいつは竜の中の竜、竜王だ。その寿命はものすごく長い。ということは、だ。人と同じ成長の仕方をしていない。こいつは少なくともシキより全然年上だよ」


 外見年齢を思いっきり使ってシキを落としにかかっている竜王と凄く素直に落ちようとしているシキにこの世界の創世時から生きている聖霊が優雅に紅茶を飲みながらそう言った。


「え?マジで?ならカイレオール様はおいくつに…??」

「余計なことをおっしゃいますね。すみません、シキ。だますつもりはなかったんですが…私は生まれてから30年ほど経ちますね。竜の中では若輩者もいいところです」

「さんじゅうねん…30歳!?えー、見えない。どうがんばっても年下にしか見えない」


 シキより年下の外見をしてるくせにシキより全然年上だ。だが、よくよく考えてみると、シキの今世での年齢はまだピチピチの16歳だが、前世は余裕で20歳を超えてから死んでいるので、今世の16歳+前世の20ウン歳を足せば余裕で30歳は超える。つまり、やっぱりこっちが年上だ。


「大丈夫!前世を足せば私の方が年上だから。精神年齢では勝ってる」

「何が大丈夫なのかは分からないけど、シキの言う精神年齢でも竜王の方が年上だと思うよ。生きてきた年齢=精神年齢じゃないし」

「えぇー、そうかな」

「年上のお姉さんを演じたいならもう少し落ち着きを持った方がいいんじゃない?ま、竜王はどんなシキでもいいと思うけど」


 シキとコウキの会話を黙って聞いていたカイレオールの方を見るとにっこり笑われた。


「そうですね、シキはどんな風でも可愛らしいとは思いますが、シキは前世持ちなのですか?」


 一般的にはあまり知られていないが、たまに前世の記憶を持って生まれてくる者がいる。そういった人たちは、幼い頃からなかなか周囲に馴染みにくかったり、生きづらかったりして精神的に参ってしまっている人が多い。けれど、シキはそんな風には見えない。むしろ生き生きとしている。


「前世持ち、というかもうちょっと複雑な感じなんだけど…」


 はっきり言ってシキにうまく説明できるとは思えない。というかどこまで言っていいのかも分からないし。チラリとコウキを見れば、しょうがないとばかりに説明を初めてくれた。


「そう、シキは前世持ちだ。それもこの世界ではない異世界のね。僕の同僚である黒が彼女の最初の契約聖霊として彼女の魂を持ち帰ったんだ。竜王、正直に言うと、シキはちょっと特殊個体すぎる。今なら僕が君の記憶を消して、ついでに運命の赤い糸とやらもバッサリ切ってシキという存在を君の中から完全に消してあげられるよ」

「いいえ、遠慮いたします。どんな事情があれ、彼女は私の運命の乙女です。出会った瞬間から私の魂が喜んでいますから。それにこうして一緒にいるだけでも心地良いんですよ。手放すなんてマネは絶対にしません」


 コウキの提案を迷うことなく一蹴してのけたカイレオールにコウキは微笑んだ。


「だ、そうだよ、シキ。竜王、シキはこの世界で血縁上の身内というものを持たない。聖霊が精魂こめて一から作り上げた特殊な身体に宿った魂だからね。ただし、魂の弟妹はいる。そっちの方が手強いと思うから、がんばることだね」

「…勉強不足で申し訳ありませんが、聖霊って一から人間の身体を作ることは可能でしたでしょうか…?」


 コウキのなかなか衝撃的なカミングアウトに戸惑いが隠せない。今まで生きてきた中でこんな短時間で自分をここまで驚かせた存在はいなかった。それが自分の運命の乙女でこれから先の長い時間を一緒に過ごす相手ともなれば、今までの灰色でつまらない世界は一瞬で面白おかしい色鮮やかな世界になるようだ。退屈などはしなくて済みそうだ。


「普通は無理だな。シキの場合は黒がデーターを持っていたことと、黒の桁違いの魔力を全力で注いだ結果だな。ま、分類的には『純血の人間』とでも言うべき存在なのかな…?」


 最後が疑問形になったのは、コウキ自身がシキのことをどう表現していいか迷ったからだ。そもそも『純血の人間』と言える存在はこの世界に最初に生まれた人間のことになるのだろうが、最初の人間も聖霊の力というよりは自然界にあった素材から生まれているので、全く無から聖霊が作り上げた肉体を持って生まれてきたのはシキが初めてだ。そしてこれから先もそう言った存在は生まれないだろうから、最初で最後の正真正銘の『純血』だ。どんな血であれ混じれば次代は『純血』を持たなくなる。たとえそれが竜王の血でも穢される、ということになる。

 

 …こう考えると、僕の契約者は案外面倒くさい存在なのかも知れない。

 まあそれでも後悔は一切していないし、手間暇かけても良いと思える存在なので、逆に楽しくなってきた気がする。

 取りあえず、現状はこの竜王からシキを守ることを優先にしよう。


 コウキが意味も無くシキに向かって微笑むと、良くわかっていないシキも見えない疑問符を飛ばしながら笑顔を向けてくれたのだった。



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