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確実に立つフラグ

読んでいただいてありがとうございます。更新遅めで申し訳ありません。

 そもそも第一等級の聖女であるメリッサの婚約者を決めることが出来るのはメリッサ本人だけだ。メリッサに限らず、聖女とはそういう存在なのだ。下位の聖霊であろうが人間よりもはるかに別次元の力を持った存在が気に入っている聖女の意思を無視してどうこうすれば聖霊が激怒する。怒った聖霊を鎮めることが出来るのも契約した聖女だけなので聖女という存在は下手に触ると色々と面倒くさい。

 なので、貴族たちは聖女自身が気に入ってくれるように、年頃の子息をある意味、生贄に差し出す。

 本来ならば第一等級の聖女であるメリッサのことを王族どころかたかが愛妾が勝手に息子の婚約者にしたなど許されることではないのだ。その時点で滅ぼされても仕方がない。そして最近、この国では王侯貴族の横暴が目立ち聖女たちが国を出るという事例が発生していた。


「国王陛下、並びに愛妾である貴方の母君には正式に抗議いたします。それから、ルイザ、貴方のご実家にもいわれ無き罪を着せられたと抗議いたします。お2人とも、不愉快ですので部屋から出て行って下さいませ」


 きっぱりと言い切ったメリッサに2人はますます口調を荒げた。


「ふざけないでよ!家に何を言うつもりなのよ!!せっかくここに入れたのに家に戻されたらどうしてくれるのよ!まだ、翼ある方にも出会ってないのよ。私がこの世界のヒロインなんだから悪役令嬢役のあなたがしっかり役目を果たしてよ!!」

「父上と母上に抗議だと!?やれるものならやって見ろ!俺はこの国の王太子だぞ!!貴様の抗議くらいで父上が動くと思うなよ!!」


 2人とも自分勝手な発言をしてわあわあ騒いでいるのをシキとルキは呆れながら見ていた。


「すごいね。ヒロインってあんな感じの性格だっけ?」

「通常は違う。天真爛漫とかそんな感じのやつが多いはず」

「天真爛漫、ねぇ。それって常識無しって言わない?」

「常識+違う視点持ち、かどうかで分かれるだろ。天真爛漫って言えば聞こえはいいかもしないけど、大抵、後処理は他人任せの奴が多いイメージだな。自分で処理できる範囲でしてほしいところだよな。ま、あの2人に関しては、非常識+親のすねかじりのコンボだ」


 どこか違う角度からの視点しか持たない2人の会話は、聖霊の中では比較的素直な性格の持ち主であるスピカには勉強になる。あー、そっか、そういう考え方もあるのか、という感じだ。自分がそういう風になれるか、と言われたら絶対無理だが、他の見方というのは面白い。

 特にこの2人は異世界にいただけあってこちらの常識からかけ離れた意見が出るので面白い存在だと思う。自分にメリッサという存在がいなくて、黒猫様が自分より遙かに上の位階にいる特級聖霊でなければシキの相方に立候補くらいはしたかもしれない。黒猫様が怖くてそんなことは絶対言えないが。


「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど」


 シキは気軽な感じでヒロインちゃんに話しかけた。ヒロインちゃんはどう考えてもこのゲームの記憶持ちなのできっと推しは決っている。


「ぶっちゃけ誰推し??」


 ほぇ?と間の抜けた声を出してから、ヒロインちゃんはもじもじとし始めた。


「誰って…!そんなの決ってるじゃない。カイレオール様よ!!」


 カイレオール…??そんな名前の人ってこの国にいたっけ?

 シキの疑問に答えてくれたのはメリッサだった。


「シキ、カイレオール様というのは帝国の皇帝陛下のことです。帝国の皇家は竜の血を引くといわれている一族で、その中でもカイレオール様は強い力をお持ちの方だそうですよ」

「なんだ、あいつの血筋の奴か」


 メリッサの説明にルカがぼそっと言ったのだが、内容的に、あいつ=竜=ルキの知り合い、という構図が浮かび上がってきた。


「取りあえず、そこのお二方、部屋から出て行って下さいませ。私は殿下の婚約者ではありませんし、これから先、なるつもりもございません。ルイザ、貴女は巫女でありたいのでしたらもう少し真面目に巫女の仕事をすることです」


 なおも何かを言おうとした2人を大きいユニコーン姿になったスピカが角で押しやるように部屋から出して、結界を張った。嵐のような2人組がいなくなったのでようやく静かにお茶が飲める。


「で、ルキ、帝国に知り合いでもいるの?」

「いない。だけど、あいつの血を引いてるってのならその皇帝は竜種だろう?姉ちゃん、あんまり竜種に関わるなよ。あいつら、割と恋愛至上主義だ」

「いや、そのあいつって誰なのよ」

「俺やコウキと同時期に発生した、いわば同期ってやつだ」

「幼なじみ?」

「気持ち悪い表現使うな」


 シキの言った「幼なじみ」という発言に心底ルキは嫌そうな顔をした。猫なのに表情が無茶苦茶豊かだ。


「あいつはまんま西洋の竜の姿をしていて通称『原初の竜』って呼ばれてるんだが、昔っから色んな種族とすぐ恋に落ちては子供をがんがん作る奴で、そういった奴らの子孫の中から竜の血が色濃く出た奴を竜種って呼ぶんだ。先祖であるあいつは誰彼かまわず見境なく恋に落ちるような馬鹿だったが、子孫たちは何故か一様に唯一を探してるんだよ」

「唯一?」

「そう、唯一。番とか運命とか言われるんだけど、竜種はこの人と決めたら絶対に引かないで手に入れる為なら何でもやる。気が付いたら外堀埋めるどころか結婚式だったなんてことをやらかしてる奴だって過去にはいるんだよ。目を付けられたくなかったら近付かないのが一番いい」


 ルキの説明にシキは「えー」と言って残念そうな顔をした。せっかくファンタジーの世界に来たのだ。一度くらいは会ってみたいじゃないか、竜に。出来れば騎竜なんかもしてみたい。見た目西洋の竜なら絶対乗れる。


「……姉ちゃん、乗りたいならせめて番持ちの奴にしろ。そっちならちょっと脅せば…じゃなくて、俺が頼めば快く乗せてくれるだろう」


 弟は正確に姉の願望を読んでいた。というか、前世の世界で死ぬ前の日に姉がやっていたゲームが竜に乗りながら敵を空中から打っていくという内容だったので、絶対乗りたいだけだと思っている。


「子孫じゃなくてルキの知り合いの方もダメなの??」


 さすがにルキとは知り合いではない子孫の方をルキが脅して…じゃなくてお願いして乗せてもらう、というのはちょっとダメかな、と思うのでルキの知り合いの原初の竜に乗せてもらうのが一番いい方法じゃないかと思う。


「あー、ダメじゃないかな。あいつ、多分、今寝てるはずだ。俺があっちに行く前に、ちょっと暇だから、自分の血脈の中に眠って力だけ子孫にランダムで出るようにする、とかいうガチャ的要素を含んだ睡眠に入ったはずだから。あいつが眠って、俺があっちの世界に行くって言ったら、コウキが1体で聖霊全体の管理をするのがくそ面倒くさい、とか言って怒られたから。っつーか、3体揃っていたところで、あいつは恋愛至上主義ですぐに行方不明になるし、俺は基本的に他者に関わりたくないぼっちだったから実質コウキだけで聖霊界を管理してたもんなんだけどな」

「……コウキ、不憫!!」


 原初の竜の同期という以上、ルキとコウキは原初の聖霊とも言える存在なのだろう。それなのに、恋愛至上主義とぼっち上等のおかげでコウキがたった1体で聖霊たちの管理をしてきたらしい。案外、生真面目な性格をしているのかもしれないが、コウキはコウキで、初めて会った聖女にすべてをすっとばして名付けしてくれ、と言ってくるようなぶっ飛んだ面も持っている。


「言っとくけど、姉ちゃん、コウキのアレは趣味だから。コウキは自分の手で管理とかするのが好きなんだよ。管理から外れた奴を追い詰めるのが好きだから管理はきちんとやるんだよ。ま、話はちゃんと通じるからそれなりの理由があれば見逃してくれる」

「ちなみにルキがあっちの世界に行った時は何て言ったの?」

「一応、相性のいい魂を探してくる、だったかな」

「…それなりの理由って案外ハードル低い??」

「コウキが気に入るかどうかだな」

「…コウキさん、自己チュー」

「聖霊なんてそんなもんだ」


 原初の聖霊の1体である黒猫の言葉は、思った以上に軽かった。

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