どストレートが過ぎる。
読んでいただいてありがとうございます。
「………なぁ、姉ちゃん、これは今いったいどういう状況なんだろうなぁ……??」
「…さぁ????」
王妃となったユキとメリッサとの打ち合わせ通り、シキは第一等級の聖女であるメリッサ付きの見習い巫女になった。それに伴って部屋もメリッサの隣に移動し、当たり前だがルキも一緒について来た。そこから先はしばらく静かな日々だったのだ。
神殿から黒の印を持つ者たちは一斉に退去した。さすがに腐っている上層部でも王妃と第一等級の聖霊を怒らせた者たちをそのままにするわけにはいかず、仕方なく、という部分もあるだろうが神殿からは退去させたらしい。やれやれ静かになったねーとみんなで喜んでいたらその次が入ってきた。
その次の人。別名『ヒロイン』
乙女ゲームの世界の見本のように、ピンクの髪と瞳を持つ少女。年齢は16歳でメリッサやシキと同じ年だが、大人っぽいメリッサと童顔のシキのちょうど中間のように年相応、という言葉が相応しい少女だ。
「ごく普通の庶民の生まれなので貴族のことはまだよく分かりません。なのでご迷惑をおかけするかも知れませんがよろしくお願いします」と挨拶をしていたが、あれは覚える気は一切無いだろう。庶民の出、と言っているが巫女として入ってきたので、おそらくそれなりにお金のある家の子供だろう。ガチの庶民や孤児は見習い巫女からスタートなので、巫女の時点で実家にお金はあることは間違いない。そこら辺は腐った上層部なので金さえ積めば身分なんて何とでもなるという安定感がある。おかげで妙な信頼感まであるのだ。
そんな上層部が巫女オッケーで入れてきた少女なら絶対にそれなりの教育を受けてきている。なのにあのセリフを吐いたので、見習い巫女たちは部屋に帰ってから爆笑していた。そして上の人間の顔色&裏顔を見てきた見習い巫女たちから見れば、ヒロインなどとてつもなく分かりやすい少女だ。
あちらこちらをきょろきょろしながら歩いているヒロインちゃんに何かお探しですか??と声をかければ、何でも無いと言ってそそくさと逃げて行く。だがそれを毎日繰り返しているので、見習い巫女たちの間では、ピンクちゃんの狙いは誰だ!?という賭けの対象になっている。ちなみにシキは、ピンクの狙いは第一王子、に賭けている。ただし、そこに賭けている人間が多すぎて利益にはならなさそうなのが問題なのだが。
メリッサは、第五神官長に賭けている。第五神官長は、腐った上層部の中では唯一の常識人とも言える人で、元々は公爵家の人間だったそうだ。色々あって神官になり気が付いたら第五神官長になっていたという数奇な人でもある。当然ながら容姿端麗で大人の包容力もある優しい方なので神殿に属する女性陣からも大人気の男性だ。
王子妃狙いなら第一王子、トップ巫女(さすがに聖霊と契約しなければ聖女にはなれない為)を目指すなら第五神官長とだいたい賭けの人気はこの2人だ。大穴で他の高位貴族に賭けている人もいるが、ピンクちゃんの行動を見るとどうも狙いはこの2人に絞っているように見える。
そして、今、なぜかメリッサの私室にピンクちゃんが乗り込んできて、なぜか一緒に来た第一王子に一生懸命メリッサのことを訴えている。
「リチャード王子、メリッサ様は私のことが気に入らなくて、いつも意地悪ばかりしてくるんです!!」
「何??貴様、よくも可愛いルイザをいじめてくれたな!」
リチャードというのが第一王子の名前で、ルイザというのがピンクちゃんの名前だ。
ルイザが気に入らない、というか真面目に仕事してほしい、と思っているのは確かだが、毎日、どこかしらに行ってしまい姿の見えない相手に対してどう意地悪をしろと…??ついでに、黒の印を持つ貴方は神殿に出入り禁止でしょう、というツッコミをぜひ入れたい。
あっけにとられたメリッサだったが、ため息を一つ吐くと、2人を真っ直ぐに見た。リチャードとルイザはメリッサが見つめただけで、うっとなってちょっとひるんでいた。それだけでひるむくらいなら最初からケンカを売るなよ、と思う。
「いきなり人の部屋に侵入してきたかた思えば酷い言いがかりですわね。まず、殿下。貴方、王妃様より出入り禁止と言われているはずですわよね。その黒い印を持つ意味は分かっておいでですか??それから、ルイザ、という名前でしたわね。貴女のことは他の巫女や聖女たちからも聞いています。どうやら仕事もしないでどこかに行ってしまい、挙げ句の果てに巫女でしかない身でありながら聖霊に命令口調で物事を言うそうですね。聖霊たちから、貴女も黒の印を持った方がいいのでは?という相談を受けています。それと、私が貴女をいじめている、とおっしゃっていますが、貴女としゃべったことは今日が初めてですわね」
にこりともしないで一気にメリッサは言い切り、その様子を部屋の片隅で見ていたシキとルキとついでに小さくなっているスピカが思わず拍手をしそうになっていた。
「そんな、酷いです。メリッサ様は、私が殿下と仲良くしていることに嫉妬してたんでしょう?それでご自分じゃなくて取り巻きの方に私をいじめるように指示していたんでしょう!?素直に謝って下さい!!」
「そ、そうだ。そんな意地悪な女など俺の婚約者とは認めん!!婚約破棄だ!!」
手と手を取り合って涙目で言うピンクちゃんとそのピンクちゃんにがっつり乗せられたセリフを言う第一王子がものすっごく見当外れのことを言ってのけた。
「えー、まず第一王子とメリッサ様は婚約してないですよね??なので破棄するも何も、最初からそんな関係じゃないです。王子を巡ってそこのピンクちゃんに嫉妬するとかもないですし、メリッサ様、取り巻きっていましたっけ?」
シキの言葉に、王子とピンクちゃんがえ?という顔をした。
「そうねぇ、私の取り巻きっていないわね。貴女、その人たちの名前を教えてくれるかしら?もし本当に貴女をいじめていたのならきちんと理由を聞かなくてはいけないわ」
メリッサに問われてピンクちゃんは、もごもごと口ごもって下を向いた。ねつ造なのだから当然そんな人間がいるわけでもなく、神殿に入ったはいいが、毎日、誰とも交流せずに第一王子や第五神官長や他の高位貴族に会う為だけの行動をしていたルイザは、他の巫女や聖女の名前さえも知らなかった。悪役令嬢であるメリッサさえ知っていればその他のモブなどどうでもよい存在だと思っていたのだ。
ピンクちゃんことルイザにも当然ながらこの乙女ゲームの記憶があり、自分がその主人公として生まれたのだからこの世界そのものが自分の為にあると思っていた。
実際、今日までは色々と上手くやってこれたのだ。だが、メリッサに関わろうとすると何故か変な邪魔が入り、うまくいかなかった。第一王子とも神殿に入ってすぐに出会いのイベントがあるはずだったのだがそのイベントも無く、仕方なく他の貴族の男を落としてからようやく王子に会えたのだ。後はゲームのシナリオ通りの展開になると思っていたら、肝心のメリッサが一切意地悪をすることもなく、何のイベントも発生しなかった。焦って今回のことを計画したのだが、お粗末すぎてちょっと言い返されるだけで言葉に詰まってしまった。
「で、殿下、殿下は私を信じて下さいますよね!!」
「あ、ああもちろんだ。それに母上が俺の婚約者はメリッサだと言っていたんだから間違いはない!!」
第一王子もちゃんと自爆してくれる。犯人は、思っていた通り母親の愛妾だった。何の推理もなければひねりも一切ないストレートな犯人とその暴露方法に呆れるしかなかった。




