放蕩と報い
運命の人だと信じて、婚約した相手は。最低最悪の男だった。
婚約する前に気づけなかった奴の本性。
高貴な身分でありながら、ひどい癇癪もちで短気、自分はよくて私は駄目、中身がなく薄っぺらい人間性、そして極めつけは極度の女好き。
色々と揃った素晴らしいクソ野郎。あえて一つだけ擁護するなら顔が良いという事か。
奴の最期のお気に入りは、鼻にかかった猫なで声の若い女だった。夜の蝶らしいが、いったいどこで知り合ったんだか。
以前からずっとそんな調子でいつも女が外にいて、婚約破棄を考えない日は無かった。
しかし奴は逃げてばかり。どうせ世間体を気にしてるとかそういった類だろう。
その顔といい、外面だけは良かったから。奴の考えそうな事だ。
しかしそうやって逃げ続け、結局最期まで婚約破棄に応じてくれなかったのだから……あれは自業自得。仕方のない事だったと今でも思う。
クズに効く薬なんて無い。おそらくあのまま一生直らなかっただろうから。
この国と隣国との間で長い間戦争が起こっていた。
もともと仲は良くなかったが、このところ不作続きの毎日で両国食糧不足となりよりいっそう争いは激化しつつあって。
原因は何なのか……誰が悪いのか、誰のせいなのか……根の深い問題がいくつも複雑に絡み過ぎていてもはやどうしようもなくなっていた。
軍人や過激派などのごく一部の人間を除き、大多数の国民たちはただただ苦しみの中にいた。
長引く戦いで戦力を確保すべく、次々と何の罪もない一般人が駆り出され。
尊い命が……今この瞬間も一人、また一人と消えていく……彼らがなぜ消えねばならないのか。
ここのクズはまだ生きているのに。